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リアクション
■ぶん回せ! フランスパンマン!■
幕が上がるとそこにはホッケーマスクにツナギ、血煙爪を装備したおどろおどろしい姿をした国頭 武尊(くにがみ・たける)がぽつりと立っていた。
その姿だけで小さな子供達は泣きそうになっている。
「……」
無言で客席を見つめるその目は血走り、憎しみに満ち溢れていた。
「はぅ〜! 大変ですぅ! こいつはスプラッタ殺人鬼! ラブラブな恋人達やイケメンを激しく憎むひねくれ曲がった怪人ですぅ!」
舞台袖では望月 寺美(もちづき・てらみ)がマイクを持ち司会をやっている。
「ぶーぶーっ! カップルの敵ーー!」
(童心に帰るってこういうことかな)
客席では身を乗り出し野次を飛ばしているミーナを葉月が隣で微笑んでいた。
2人の手には静麻達から買ったホットドッグが握られている。
そんな2人がマスクから覗く目に捕えられた。
「……」
マスク越しに鬼眼で睨まれ、2人に向かって襲いかかってきた。
無言というのも恐怖を更に煽った。
武尊が側を通ると子供達が泣きだし、それをホイップが必死に宥めて行く。
思わずショーというのを忘れミーナは戦闘態勢に入ろうとしてしまう。
突如、武尊と2人の間に入って来たのは、フランスパンの様に固いフォルムをした奴。
「正義の味方! 愛を愛するフランスパンマンですぅ〜! 皆、応援するのですぅ!」
寺美に紹介され、自らの固い体で攻撃を受け止めたのはフランスパンマン日下部 社(くさかべ・やしろ)だ。
「彼は前回、悪の組織に洗脳され愛するフランスパンを粗末に扱っていたところを正義の味方に説得され正義の心を取り戻したんですぅ〜!」
寺美がフランスパンマンの説明をしている間に戦闘の場所は舞台へと移っていた。
「トレビア〜ン! 子供達を泣かせた罪はフランスパンマンの攻撃を受けて償ってもらうでぇ!」
社は対峙している武尊へとフランスパンの様に固い自分の体を使い体当たりをぶちかます。
が、さらりと避けられてしまう。
「……」
避けられ体勢が崩れたところへ武尊の血煙爪が閃く。
「ぐあぁ!」
いくら固いとはいえフランスパンの硬度、血煙爪によって背中を抉られてしまった。
社はそのまま地面を転がりまわる。
(マジで痛いっちゅうねんっ!)
本気攻撃ではなかったものの、どうやら当たりどころが悪かったらしい。
「きゃ〜、大変ですぅ! そこの客席で子供達と一緒にいる羨ましいホイップちゃん、なんとかフランスパンマンを助けるですぅ!」
「えっ!? うっ? えぇ〜!?」
いきなり台本にない無茶振りに本気でビックリするホイップ。
それを見て、黒子和子が発動。
『どうなる!? フランスパンマン! 皆の応援を送ってみよう!』
素早く寺美に近付き舞台の下からカンペを出した。
「ふ、フランスパンマンが大変ですぅ! 皆で声援を送るですぅ!」
台本の通りに戻り、ホイップはほっと胸をなでおろした。
寺美はちょっとつまらなさそうにしていたが。
司会のお姉さんの言葉に動かされた子供達とノリの良い生徒達が声援を送る。
すると舞台の上から光と共に誰かが下りてきた。
背中には翼を生やし、見えないロープで吊るされているリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)だ。
「あなたが大切な人を守りたいと強く願った時、力になれるでしょう」
そう言うと、リアトリスはアワナズナ・スイートピーという巨大な日本刀の形をした自分の光条兵器を手渡したのだった。
「こ、これは……! これで俺もパンくずをほとんど出さずにフランスパンを切れる!」
「違うですぅ!」
社の言葉に寺美が思わずツッコミを入れた。
「うっ……ごほん! トレビア〜ン! 俺は……俺は……やっぱりフランスパンが好きなんや! だからこの武器は使わへん!」
社はせっかくもらった武器を腰へと収めるとまたも体当たりをかます。
「……」
しかし、何度やってもかわされてしまう。
「う……ぅ。俺1人の力では子供達の笑顔を守る事も出来ないんか……くっそー! 俺にも力が欲しいーー!」
社が叫ぶといきなり武器が光り出した。
「……トレビア〜ン! そうやな、せっかくもらった力や! 遠慮なく使わせてもらうでぇー!」
日本刀を抜くと刀身が光を放ちいかにも強そうだ。
実際は黒子和子が細工をしているだけだが。
「いっくでーー! さっきまでの俺とは一味もふた味も違うと思い知れやー!」
日本刀を振り下ろすと斬撃が飛び、武尊へと直撃し吹っ飛んで舞台から姿を消してしまった。
「フランスパンマンは最強や! フランスパンは砂糖を使わないからあんなに固い――」
「はい! 無事に悪党を倒したフランスパンマン! フランスパンを愛しすぎるが故にフランスパンの説明がウザいのでこれにて終了ですぅ〜!」
未だにフランスパンの解説をしているフランスパンマンを舞台の上に残し幕は華麗に下ろされたのだった。
「フランスパンはな――って、誰も聞いとらんのかいっ!」
閉じられた幕の内側から社が叫んだのだった。
舞台の幕が閉じられ、楽屋へとホイップが到着するとそこでは社と武尊がカレンデュラ・シュタイン(かれんでゅら・しゅたいん)から治療を受けているところだった。
「大丈夫?」
心配になり、声を掛ける。
「大丈夫やで〜」
「この程度なんでもない」
社も武尊もすぐに返事をした。
「これで終わりっと……ところで、治療してあげたんだから可愛いオトメンの情報を何か知らないか?」
カレンデュラはたったいま治療をした2人へと真剣に質問をする。
「さあな」
武尊の方はそっけない返答。
「ちょっと難しいかもしらんなぁ……」
社の方もちょっと見当がつかないらしい。
「そう……か……」
実に残念そうにしているカレンデュラにリアトリスは背中を軽く叩いてやるのだった。
■天誅騎士ファル☆シオン■
「みんな! 天誅騎士ファル☆シオンが始まるよ〜!」
袖から出てきたホイップが司会のお姉さんを務める。
舞台の下では早川 呼雪(はやかわ・こゆき)がカンペを持ち、スタンバイしていた。
今回も呼雪は裏方なのだ。
暫くすると幕が上がり、ショーがスタートした。
舞台の上には舞台用の黒い鎧と黒い剣を持った闇の機晶姫ことユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)が手下である闇の土木野郎神野 永太(じんの・えいた)と現れた。
永太の脇には捕らわれたか弱い少女役として燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)が居た。
「助けて下さいー!」
少し棒読みだが、しっかりと盛り上げようと頑張っている姿は好感が持てる。
「大変! 少女が悪者たちに掴まってるよ! ここは正義のヒーロー天誅騎士ファル☆シオンを呼ぼう! せーのっ!」
「天誅騎士ファル☆シオーン!」
客席から沢山の呼び声が響くと舞台の袖から白馬に乗ったファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)が颯爽と登場した。
白馬と言っているが、その小ささからポニーのように見えなくもない。
「悪者はボクが天誅だよっ! そ、そんな……ユノちゃんがなんでこんなところに?」
「私は闇の機晶姫として生まれ変わったのだ。改造して下さったサチリーナ様の為になんとしても貴様の命を頂戴する。行け、闇の土木野郎!」
こちらもちょっと棒読みだ。
舞台の下に居る呼雪はあまり顔には表れていないがハラハラしているようだ。
「全てはサチリーナ様の為に。まずはこの闇の土木野郎がお相手です」
永太は人質をユニコルノへと渡すと戦闘態勢へと入った。
「そんな……君も洗脳されてるだけなんでしょ? 戦えないよ!」
「それなら、潔くやられて下さいっ!」
そう言うと永太は間合いを詰める。
白馬から降りたファルはただ呆然とするばかりで、永太の攻撃をまともに食らってしまった。
「うわぁっ!」
地面へと仰向けに倒れ起きあがる気配がまるでない。
「何をしているのですか? 戦いに感情を持ちこむなど言語道断です!」
なんと捕まっているはずのか弱い少女からいきなり叱咤が入った。
これには呼雪も慌て、カンペを直ぐに出す。
『ユノ:ファル☆シオンを奮い立たせようとしても無駄だ!』
「ファル☆シオンを奮い立たせようとしても無駄だ!」
素直に指示に従い棒読みで対処する。
「一体何を……はっ! そ、そんな無駄なんて事ありません!」
熱くなっていたザイエンデも自分の行動に気が付き、修正を始めた。
「さあ! 皆でファル☆シオンの事を応援してあげて! きっと皆の声が届くから!」
ホイップの言葉に観客から幾つもの声援が送られた。
よろよろと立ち上がるファル。
「皆、有難う! そうだよね! 友達だもん……諦めちゃだめだよね! ユノちゃん! 闇の土木野郎さん! みんなの想いの力で目を覚まして!」
叫ぶとファルは持っていた剣を抜き放つ。
すると剣は光を放っており、なんとも美しい。
「やあ!」
ファルは2人へと突っ込んでいく。
そして次の瞬間には2人は崩れ落ちていた。
ユニコルノに至っては来ていた黒い鎧も脱げ、下からシンプルな白いワンピース姿が現れた。
「ファル……? わ、私は一体……?」
「永太も……あれ? 何してたんでしたっけ?」
敵だった2人の洗脳は完全に解け、正気へと戻った。
「いいんだ、ユノちゃん……何も言わないで。さあ、一緒に帰ってご飯食べよう! 土木野郎さんとザイエンデも一緒に!」
4人は一緒に帰路へとついたのだった。
「こうして無事に友達を取り戻した天誅騎士ファル☆シオンは皆で美味しいご飯を食べられたようだよっ!」
ホイップが明るく締めると幕は静かに下りたのだった。
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