リアクション
第3章
お昼の部が終了となり、休憩となるがホイップの仕事にほとんど休憩はなかった。
忙しく休憩をとれないのはヒーローや悪役達も一緒で、握手会も開催されていた。
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「ちゃんと来てくれてるかな?」
幕が開く前にこっそりと客席を覗くカレン。
客席は昼とは違う顔ぶれになっている。
だいぶ大人が多くなり、子供達はもういない。
「あ、おねーちゃん! あそこに来てるよ!」
トメが目当ての人物を発見したらしく、カレンの裾を引っ張った。
「どこどこ!? あ、居た!」
カレンも見つけられたようだ。
「じゃ、気合い入れていくよっ!」
「うん!」
カレンとトメは顔を見合わせ、ニッと笑った。
数日前に訪問していた事務所はなんと、前回ホイップの写真を送っていたアイドル事務所だったのだ。
「や、やっぱり歌うのは……そうだ! カレンさんとトメさんが歌ったら良いよ!」
楽屋ではホイップがフリッフリのミニスカドレスを着てわたわたしていた。
その衣装はアイドルのようだ。
「あたし達が後ろでフォローするから大丈夫だよっ」
トメが励まし、なんとか舞台へと上がる事になった。
■ホイップのプチコンサート☆■
「今日は私の歌を披露するので、聞いてねー!」
舞台に上がり、マイクを持ったホイップが元気に客席へと声をかけた。
客席からはそれに応える声が上がる。
先ほどの不安は、なんとかふっきれたようだ。
「では『気になるあなたにファイヤーストーム!』スタート!」
軽快な音楽が流れる。
ホイップの後ろではカレンとトメがヒラヒラした生地の可愛い衣装を身に纏い、リズム良く踊りだした。
ホイップはリズムに乗るので精いっぱいだ。
「振り向いてくれないあなたに、心の中でこっそり魔法使うの〜♪」
なんというか、衣装は凄く可愛い、顔やスタイルも悪くない、ただ……歌うのはどうにも普通過ぎた。
今まで歌う機会もそんなになかったのだから当然かもしれないが。
『くっしゃみサルーン』が回復した後、皆でカラオケに行った時もホイップは皆の歌を聞いてるばかりで歌っていなかったのだ。
アイドル事務所の人も、最初ホイップが出てきたときは期待があっただろうが、歌を聞くと少しがっかりしていた。
ホイップの歌を聞いていたお客さんの方は、ノリが大変よく対して気にしていないようだ。
むしろ、ホイップの歌で楽しんでいる。
その様子を見ていたスカウトマンは少し考え、にやりと笑った……ように見えた。
プチコンサートはなんとか無事に終了させることが出来た。
カレンとトメは終わってからスカウトマンを探したが、どこにも見当たらなくなっていたのだった。
―――――――――――
「そちらの方はどうでした?」
会場の外ではルディがナガンに話しかけていた。
「置き引き2人、スリ5人、万引き寸前1人ってところなァ」
「あら、そんなに……楽屋の方は平和そのものでしたわ。勿論、中に入ろうとした不埒物は即刻下僕にしてさしあげただけですけれど」
2人は互いに報告すると、同じ人物に目が止まった。
客席でそわそわしていて、挙動不審過ぎる。
帽子を目深にかぶり、黒いジャンパーで少しふっくらしているようだ。
キョロキョロと辺りを見回したと思ったら、ホイップの歌を熱心に聞いている。
2人は何も言わずともほぼ同時に行動を起こしていた。
「ちょっと宜しいかしら?」
ルディは歌が終わるとそっと背後から忍び寄り声を掛けた。
「な、なんなんだ!? 私はただの客だ!」
ルディでは埒が明かなそうだとナガンが出陣した。
「こっちにツラぁ、貸してもらおうかァ」
ナガンの言葉には渋々従い、会場の裏まで連れだした。
「た、ただの客だ! ほらっ!」
帽子を取るとなんと薬屋のおやじだった。
「ヒーローショーに誘われたんだが流石に少し恥ずかしくて顔を隠していただけなんだ!」
「まあ、そうでしたの。確か……ホイップさんに仕事をよくご紹介されているとか」
「あんだァ、それなら直ぐに言えば済んだじゃねぇかァ! 余計な手間かけさせるんじゃねェ!!」
ナガンはそう言うと機関銃を付きつけ脅した。
「ひゃあぁ! も、もう私は失礼する!」
そう言うとおやじは急いでその場を離れた。
ナガンは舌打ちを1つすると警備へと戻っていき、ルディも自分の持ち場である楽屋へと入って行った。
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楽屋では握手会が終了し、一息ついている出演者達へと営業に来たレイナと魅音が居た。
「……1つ、ホットドッグを貰える?」
「はい! 1つですね!」
ラグレーンに頼まれ、レイナは直ぐにホットドッグを渡した。
「お願い、買って」
その横では違う出演者に向かって魅音が少しだけ瞳を潤ませ上目づかいで売り込んでいる。
その愛らしさに女性男性問わず、売上が伸びている。
本人はどうして売れているのかよくわかっていないらしい。
ちなみに、こちらは屋台の静麻とクリュティだ。
2人が楽屋まで行っているので、クリュティが接客をしている。
こちらも盛況で、静麻は額に大粒の汗が光っていた。
「焼きそばが1つとフライドポテトが1つですね、了解です。はっ? クリュティもで、ございますか? あいにくクリュティは売りものではございません」
クリュティの売り子はこうして少し天然を爆発させつつ、どんどんうまくなっていったのだった。