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黒羊郷探訪(第1回/全3回)

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黒羊郷探訪(第1回/全3回)

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第5章 草原の戦い

「ええい、荷物を捨てよっ!
 ……姫様! 何とか振り切ってみせます、どうかどうか、今暫しのご辛抱を、……うわわっ」
「だ、駄目です! 
 やつ等、しつこく追って来るのをやめません。もしや、この馬車に……様がおられることを知っての……」


5-01 ぶちぬこ隊、結成?!

 草原を、北へひた駆ける三台の馬車。
 追い剥ぎの一団に追われているようだ。
 ぴゅんぴゅん。先頭集団から射かけられる矢が、もう馬車に届く。
「いけない。やつ等の射的距離に入りました!」
「むうう。この腕が治ってさえおったら、あのような追い剥ぎなぞ。
 だがこうなっては仕方なし。わしがやつ等に斬り込む」
 馬車の横に付けて走る一騎。翼のよれた老騎士が乗っている。
「姫様に受けた恩義、忘れはしませぬぞ。ではさらば……」
「私も行きます。ヴァレナセレダのハルモニア一族の名にかけて!」
「よしなさい! 多勢に無勢……いかに貴方達が優れた騎士であろうとも、これでは」
「お待ちを……南東から、十数騎……うう、新手か?!」
 追い剥ぎ集団の斜め後方から駆け上がってくる一団。
 中から、軍服を来た青い髪の一人が競り上がってきて、何か手で合図をしている。
 こちらを見て、一度にこやかに微笑んだ。
「ど、どうやら敵ではないようだぞ?」
 そして取り出した機関銃、追い剥ぎの方へ向ける。
 見ると後ろにもう一人、小さな女の子が同乗している。彼女のトミーガンも、追い剥ぎに向けられる。
「じゃあ悠くん、派手にいきましょうか!」
「……ああ」
 そして、



「あ。れおにゃ様、あいつら、うってきますぜ!」
「ぬぬ。おのれー、もうすこしにゃったのに、じゃましおってかにゃに。
 ええい、ものども、ちれー。だんまくがくるにゃ!!」
「にゃー」「にゃー」「ちれにゃー」
 追い剥ぎは、草原地方一帯をしきる、ぶちねこの一味だった。
 ドドドドドドド
「きゃー」「いやー」「あーんいやーんにゃ」
 ぶちねこがぽんぽんっと草原に飛び落ちる。
 機関銃の弾幕が、ぶちねこの駆る獰猛な草原トカゲを掃射したのだ。
 十騎ほどが脱落する。
「れおにゃ様!!」
「ちっ。
 にゃつら、ぷろのぎゃんぐかにゃ。
 おい、いちにゃ隊はつぎのだんまくをさけてにゃつらにきゅうせっきんしろにゃ。
 にーにゃ隊、みーにゃ隊はさゆにてんかいしてかべになれにゃ。
 ほかはそくどをたもてにゃ、おれはそのままばしゃおうにゃ。
 おうら、5ひきほどこいにゃ!」
「にゃー」「にゃー」「おら、れおにゃ様につづけにゃ!」



「……どうだ?」
「ううん、まだ戦意まで削れてはいませんね。
 あ、ねこ達、隊を展開させましたね、悠くん、どうします?」
「……私達は、馬車へ。あとは、真人やセシリア達が」
 援護射撃でぶちねこを牽制した月島 悠(つきしま・ゆう)麻上 翼(まがみ・つばさ)らに少し遅れて、クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)御凪 真人(みなぎ・まこと)セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)シャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)らの馬が駆け上がってくる。
 逃げる馬車と、負うぶちねこの間に切り込もうとする。
 御凪、「敵の速度が落ちませんね」
 セシリア、「まだ、魔法の詠唱には少し時間がかかるぞえ!」
 二人は、それぞれのロッドにすでに魔力を集中しつつあるが。
「あっ。何匹か、こちらへ斬り込んできますよ!」
 ナナが叫んだ。
「にゃー」「にゃー」「ぶちねこ団がきりこみたいちょ、いちにゃいくにゃー!」
「あっ……可愛い。もふもふしたい……でも、でも追い剥ぎなんて許せません! もふもふ……」
「ナナ様。今は戦闘に集中するで御座るよ。……猫、可愛いで御座るなあ、もふもふ……」
「魔法は?」
「まだ……!」
「なら俺が」
 レイディスが、前に出た。詠唱を乱されては、勝算がゆらぐ。
「にゃー!」ぶちねこの剣が襲いかかる。



 後方。
「大変そうだけど私達には関係な……ってええ、何で皆行ってるの!?」
 機晶姫ファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)と、彼女の駆る馬の後ろに乗るのは、アリスのミリィ・ラインド(みりぃ・らいんど)
「皆お人好しなんだから……!」
 誤字姫ことセシリアのパートナー達だ。
「追い剥ぎとは、物騒なことです。行きましょう」
 ファルチェが馬の速度を上げる。
 と、速度を落として、下がってくる二騎。
「ごろにゃー。おれたちあたまいいにゃ。あいつらまえのほうでたたかってるにゃ。そくどおとしてさがったら、おれたちにげれるにゃ」
「ろっくにゃー。そのとーりにゃ。こんなたたかいにまきこまれるのはいやにゃ。へいわしゅぎのおいはぎもいるにゃ」
「……そうなんだ」
「きゃー」「いやー」
「悪くは思わないでくださいね……」
 ファルチェは馬上から、チェインスマイトでそんな二匹を攻撃。
 ぽんっぽん。
 二匹は落ちて転がっていった。



 剣が交わる。
 ぶちねこの力は、なかなか強い。
「やるにゃあおまえ」
「そっちも」
 レイディスとぶちねこの先鋒いちにゃ。
 その間に、ジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)は相手方に回り込み、周囲をぐるぐると駆け回る。
「……これは、何だったか……?
 ああ、そうだ。牧羊犬と同じだな」
 それを逃れ、離れようとするぶちねこをぽかんと殴って出さないように。
「こんなところで牧場の体験ができるとは運がいいな。まあ、今の相手はねこだが、同じだろう!」ジィーンは笑ってみせた。「てい!」ぽかっ。
「ジィーン油断するな!」
 ローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)は、守りの要となる。
「敵の数は多いのだからな」
 ローレンスは、敵将を探す。
 そのとき、
「皆様、光術いきますぅ!」
 シャーロットの手に、光が集中しこぼれ出している。
 味方は手をかざし目を防ぐ。
 すぐ、輝かしい光が放たれた。
「ま、まぶしいにゃ!?」「やめてにゃ、やめてにゃ!」
「みんな、へこたれるなにゃ!! めくらましにゃ!
 おうら、ものども、そのままつっきれにゃ!」
「おーす、いくにゃ!」
 次の瞬間、御凪、セシリアがロッドを振り上げる。
「サンダーブラスト!!」
「キタ――――――――にゃ」
 ぶちねこ団が感電する。
「な゛な゛な゛な゛」
「よし、こちらも展開しよう!」
 皆は、ぶちねこ団の進行方向をさえぎり、間に入った。
 ナナ、逢が、左右に展開する。
「逃がしません!」
「覚悟で御座る!」
 集団を後方から追っていた、ファルチェ、ミリィも追いつき、逃げようとするねこをさえぎった。
 レイディス、フィーネが馬を下り、ぶちねこ達に近づく。
 捕まったぶちねこ達は、白旗を振って降参の様子だ。
 感電してくるくる舞っているぶちねこをフィーネが剣の腹でぽんっと寄せた。
「五、六匹、突っ切っていきましたね」
 御凪も、馬を下りる。
「クライスが追ったようじゃから、大丈夫……かの?」
 前方を見遣るセシリア。
「はあはあ、やっと追い詰めましたねぇ。さて、悪いねこさんは消ど……」
 シャーロットが機関銃を? ……
「にゃー」「にゃー」
 すでに涙目のぶちねこ団員。
「だ、だめですよっ。かわいそうです」
「え、違うんですかぁ? 残念ですぅ(本当はもふもふしたいだけですぅ)」
「でもこいつら、追い剥ぎには変わりないからな。さあて、どうする……」
 レイディスは剣を抜いて、ちぢこまって身を寄せ合うぶちねこ達に近付いた。
「にゃー」「きゃー、いやー」



 ぶちねこ団を逃れた馬車。
「ありがたい」
「まだ、油断はできない」
 馬車の横に付き、誘導する月島。
「……あっ。お、おい本当だ! ゆる族が追ってくるぞ! 追い剥ぎか?」
 追いすがってくるのは、ツギハギだらけのクマだ。
「あれは……味方だ」
 ルーセスカ・フォスネリア(るーせすか・ふぉすねりあ)はそのまま、馬車の前に出る。
「気を付けた方がいいよぅ。ほら、あそこ」
 ルーセスカの指した先。前方には何もない。
「な、何? 何も見えないが……」
「!」月島も何かに気付いた。
 何もない……筈なのだが、草が倒れている。
 ルーセスカがスプレーショットを放つ。
「にゃー」「きゃー」「いやー」
「光学迷彩か」
 月島も銃をかまえた。他にはいない……な。
 待ち伏せをしていて焙り出されたぶちねこ数匹を囲む。
 馬車から兵達も下りてくる。
「ええい、とどめだ!」
「待って。もうこれ以上の暴力はいらないよぅ♪」
 ルーセスカが止めた。月島も銃を下げる。
 ぶちねこは、すでに白旗を掲げている。



「皆さん、では俺は先に」
 御凪は、ディテクトエビルに反応がないことを確認後、馬車の方へ。
「では私も、馬車のところへ向かいますぅ」
 シャーロットも、そちらへ続く。



 前方では……
 サンダーブラストを逃れ、そのまま馬車を追った数騎に、クライス達が追いすがる。
 クライスを先頭に、突撃を開始。
 ローレンスが、ランスを水平に構え、ぶちねこをぽんっ、ぽんっと弾いていく。
「主! いちばん先頭が頭目だ」
「ええい。おのれ!」
 しゅと。
 先頭のぶちねこが、草原トカゲから飛び下りた。
「なっ……」
 隻眼のぶちねこだ。凄みがある。
「草原の獅子王。ぶちねこ団が頭目、れおにゃ様があいてになってやろうにゃ!
 かくごせいよ。こら」
 たじろぐ、クライス。
 ジィーンが、クライスの肩をたたいて言う。
「……こんなときやることは一つだろう。拳で語れ」
「うん……」
 クライスは馬を下り、鎧を外した。
「あ、あんまり見ないでね。これ以上は脱がないよ?」
 剣を地面に置くと、敵れおにゃを手招く。
「にゃ、にゃにぃぃぃ?
 このおれとたいまんはろうてかにゃ」
 れおにゃも剣を置く。……が、
「れおにゃ様れおにゃ様」
 ゆる族から剣の花嫁に転職した頭目の嫁が、光条兵器を手渡す。
「そ、その転職、……ってゆうか、転族(?)は、あり得ないよ。マニュアル読んでる?」
「まあ、きにするなにゃ」
「れおにゃ様れおにゃ様、ぬきとって」
 頭目が嫁のしっぽを抜き取る。しなやかで鋭い光条剣だ。
「これでおまえぶっころすにゃ」
「……いいよ。れおにゃさん。その光条剣で僕を切って。
 僕はこの拳であなたを倒す」
「ううう。おのれ、くらいすのぶんざいで、ゆるさん、にゃあぁぁぁぁ!!」
「うっ」
 ねこのしっぽがクライスの胸を打った。
「たああ!!」
 どごーん。クライスの正券突き(ランスバレスト使用)がれおにゃをはり倒した。
 勝負は決した。
 後方から、御凪が追いついてくる。
「ク、クライス君!」
「御凪さん……ディテクトエビルは?」
「……反応していませんね。どうやら、負けを認めたようです」
 鎮座して、がっくりうつむく頭目れおにゃ。
「……。
 では、俺は馬車の方へ向かいますので」



 ナナ、ねこを数珠つなぎに縛り付ける。
「ひ、ひどいにゃ」「いやにゃ」「ほどいてにゃ」
「……はいはい、ちょっとの辛抱ですからね」
「やめろにゃ」「いやにゃ」「こらほどけにゃ」
「……」
 ぎゅっ。ナナは、ぶちねこ一味をきつく縛り上げた。
「きゅー」
「お前らな、ひどいことしてんのはどっちだ?」
 レイディスが、しゃがんで、ぶちねこに話しかける。
「何で追い剥ぎなんかしてんだよ?
 そんだけ力あるなら……もっと働けるような所あるんじゃねぇのか」
 巨大な剣を背に、フィーネ・ヴァンスレー(ふぃーね・う゛ぁんすれー)が語りかける。
「あんた達さ、傭兵とか興味無いかい。
 確かにリスキーだし、死と隣合せかもしんない。
 けど、弱い者追いかけ倒して得る飯よか美味い飯が食えるさね」
 生前は、とある有名な傭兵団の副団長であった彼女だ。英霊として甦った今も、傭兵マインドは忘れていない。
 セシリアも、
「ふむ。それなら近くで大きな戦いがあるのじゃが……この機会じゃ。一緒に傭兵として戦わぬかえ?」
 縮こまって不安げなぶちねこ達。
「私達の実力はさっき見たじゃろう? 大丈夫、私達と一緒ならば大手柄間違いなしなのじゃ!」
「そうよ、私達にかかれば雑兵100人ぐらいちょろいんだから!」
 セシリアの隣にひっついて、ミリィもそう付け加える。
 クライスが、頭目れおにゃを連れてくる。
「れ、れおにゃ様!」「れおにゃ様!」
「……きまりだにゃ」
 皆は、笑顔になる。
「じゃあ、よろしくね!」
 めいめいに、ぶちねこ団の手をとり、挨拶する生徒達。
 もふもふ……もふもふしたい……でもそれは……後のお楽しみだ。
「そこのあんた、名前は?」
 フィーネは、ひとりひとり、名を聞いて回る。
「はっちにゃ。こっちは、くーにゃん」
「なな、にゃ。よろしくにゃ」
「えっ。ナナ……?」
「ナナ様。ナナ仲間がいてよかったで御座るな」
 全員の名を聞くと、剣の下、高らかに(半ば無理やり)宣言するフィーネ。
「よし、じゃあ、新生・ぶちぬこ隊、結成!!」
「にゃー!」「にゃー!」「にゃー!」



「もう追っ手は来ないようだ、ここらで少し待機しよう」
 伏兵を片付け、皆を待つことにした、月島と馬車の一行。
「ところで、襲われる心当たりって何かあります?」
 月島が、問う。
「いや、我々は……」
 そこへ、御凪とシャーロットが追いついてくる。
「追い剥ぎは何とかしました。御安心ください」
 おお、助かった、と歓喜の声が上がり、馬車の者達が、丁重に礼を述べる。
「ところで、あなた方は? 一体どちら様なのですぅ?」
「追い剥ぎが出るような場所を非武装の一団とは無茶が過ぎますね。よほどお急ぎで?」
 ディテクトエビルへの反応はない。それでも、荷物等を確認させてもらった方がよいのではないか、御凪はためらうが……
「狙われそうな物がないか、ちょっと見せてもらってもよいですかね?」
 麻上が、馬車のカーテンをさっと開ける。
「あっ。これ何をする……!」
 覗き込む麻上。
「?」
「はっ」
 馬車の中にいたのは、10歳くらいの女の子。背中には、翼がある。
「こらっ、何をするのです。姫に、無礼ですよ!」
 ヴァルキリーの女騎士が、麻上をひょいとつまむ。
「ちょっと、なっ……誰なんです? 姫っていうのはどこのお姫様?」
「あっ。私、言ってしまいましたか……」
「……」沈黙する馬車の者一同。
「誤字姫様ー待ってくださいー」「誤字姫様、待つで御座るー!」
「姫?」
 セシリア達が、追いついてくる。
「うわっ。追い剥ぎ団に追われているぞ! ま、まだいたのか?!」
 剣を抜く、馬車の護衛達。
「違うぞえ! 皆、武器をしまうのじゃ」
 セシリア達が説明する。詫びるぶちねこ団頭目れおにゃ。「すまんかったにゃ。でも生活のため仕方なかったことにゃ」
 互いに、簡単に紹介し合う一同。
 姫と呼ばれた女の子は、ヒラニプラの山奥にあるヴァルキリーの里の姫君だという。
「訳あって、東の空域まで、姫様を迎えに行っていたのです」
 ヴァルキリーの女騎士は、同じ地方で姫を守る一族の長の娘。ハルモニア・ニケと名乗った。
 もう一人、姫の傍に控えている歴戦の猛者と思われる老齢の戦士。羽は潰えているが、やはりヴァルキリーのようだ。名は伏せているようだが、東で姫に世話になり忠誠を誓う者のようだ。
「ローレンス? どうかしたの」
 クライスの隣で、何か考え事のような顔をするローレンス。
「むう……。あの老騎士、古代の戦いに名のあるヴァルキリーかも知れませぬ……」
「あなた達は? どちらへ向かっている途中だったのですか?」
 ニケが問う。
「まずはこの先の三日月湖地方へ。そこに滞在する遠征軍に合流します」
 御凪が丁寧に答える。
「遠征軍?」
「はい。私達はいちばん出発が遅れてしまった組なのですぅ」
「黒羊郷へ行くのじゃ」
「黒羊郷まで! 私達ヴァルキリーの里ヴァレナセレダとは、その裏にあたる山岳地帯のことなのです。
 まだ先は長く、危険は多いでしょう」
「一緒に行きましょうよ、」ナナが提案する。「教導団なら、きっとあなた達のこと守ってくれますわ」
「教導団……! あなた達は、教導団の人なの? 教導団が来てるのね?
 懐かしい。……何年前になるかしら。教導団から派遣された辺境討伐隊の方達が、私の家に泊まったことがあるの。そこの女の子と仲良くなって……女の子って言っても、その隊の隊長さんなんだけど」