リアクション
* それから間もなく、ノイエ・シュテルンは巡礼の一団に行き当たることになる。 アクィラが草の家の二階から見つけた集団で、そのことをクレーメックに報告していた。彼らの速度は遅く、すぐに追いついた。 クレーメックは一団を見るや、彼の直観で、この巡礼は何かおかしい……と感じたのだ。「よく調べてみた方が良い」。こうして彼らは巡礼に近付くことになる。 「そんなに怪しそうには見えないけど……? ここはジーベックさんの勘を信じてみるか」 つぶやくと、アクィラも皆に付いていく。 クレーメックは巡礼の男と、すでに話し始めている。 巡礼の男はにこやかだが、クレーメックが尋ねるのに答えるよりむしろ男の方が、何やらかんやら話を持ちかけているようだ。 ハインリヒは、立ち止まってめいめいにくつろぐ黒い衣の間を歩き回り…… 「ふむ」 一人の巡礼に近寄る…… 「お嬢さん」 ハインリヒのナンパが炸裂した。 「え? わ、わ、私……? は、はい何か……」 黒い衣をとって現れた顔は、教導団の琳 鳳明(りん・ほうめい)だった。 3-02 巡礼 「お嬢さん」 獅子小隊のナンパ男は、ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)。 今日は私服での一人旅。 彼も、巡礼の一団に行き当たっていたのだ。 「え? わ、わ、私……? は、はい何か……」 黒い衣をとって現れた顔は、やっぱり琳 鳳明だった。 ルースは、ゆるゆると歩き続ける巡礼の後方に付いて、琳に話しかけていた。 「へぇ、巡礼の旅をしてるんですか。 オレも興味があるんですよ。詳しく教えてくれますか?」 「えっと、あの、私はだから教導団の琳で、私もこの人達に声をかけたところ、……って聞いてるのかな」 「なんなら続きはベッドの中ででも……退屈はさせませんよ」 掌にキスをする。ちゅ。 「いやぁぁん。わーん」 * 「わー、ピクニック、ピクニック♪」 「かなっ、かなっ♪」 「……」 草原亭でくつろぐ、レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)ご一行。 草団子をぱく付く、シルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)にルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)。 草原亭は、草原の真ん中にぽつんと立つ、小さな一軒屋だった。 簡素なカウンター席に、椅子が五つ六つ。屋台に近いふうである。 おやじも、屋台のおやじふうな五十代くらいのちょび髭おやじだが、本人によると「俺は剣の花嫁だ」らしい。 今は、レオンハルト達三人しかいないが、夜になると草原に住む生きものが何処からともなくやって来ては、酒と肴を飲み食いするという。 「あはー、何時でもお気楽極楽マイペースが僕の良いところです」 「シルヴァ様、シルヴァ様、はーい、あーん」 「……」 シルヴァにサンドイッチを食べさせるルイン。……一体、誰の花嫁なのか(ええ、御約束ですとも)。 「ところでレオンさん。 さっきキスの効果音がしましたよね。おそらく、ルースさんが何かやらしかしたものかと」 「かなっ、かなっ。はい、シルヴァ様もう一つ、あーん♪」 「……」 一人、草餅を口にほおばるレオンハルト。 「……」 いじけてはいないと思う。 ルース。そう、ルースを追っていたのだ。 今日は、サングラスにコート、Yシャツにスラックスという私服姿。(で、草餅をほおばるレオンハルト。) 「大丈夫ですよ。 どうせ僕達も、間もなく行き当たりますから、お気楽極楽に行きましょう☆」 「かなっ、かなっ。あ、レオ君ゴメンなさいだよっ」 「……」 ぼてっ。 ルインの肘をくらって草餅が落ちた。 「草まみれになってしまいましたね」 「これがほんとの(略)かなっ、かなっ。……あ、レオ君、ゴメン。……かなっ、かなっ」 「……」 レオンハルトは、この遠征について、幾らか考え込んでいた。物語の最初でもそうだったが、幾つか聞こえてくる情報、また逆に聞こえてこない情報、からしても、今回の旅はどうにも、簡単にはいかない、という感じがする。 そこへ、新たにやって来た旅人達。 「おっ。よーやく休めるとこを見つけたと思ったら、席がいっぱいか? せっかくなんで、草餅とやらでも買っていくか。オヤジー」 「武尊さん、他のお客さんもいるのに、あまり大きな声で……」 そう、やって来たのは、国頭 武尊(くにがみ・たける)と、シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)だった。 「ああいらっしゃい。席は、まだ空いてるよ。相席になるけど(カウンター席しかないけど)。 えっと、お二人様、じゃない、えっとこちらの方……猫も?」 「なめんじゃねーぞ。この野郎!!」 『鬼魔狗野獣会』の旗印を背負った、猫井 又吉(ねこい・またきち)もご一緒だ。 「わー、なめぬこ、なめぬこ」 「可愛い♪ かなっ、かなっ」 「な、なめんじゃねーぞ。この野郎!!」 こうして、レオンハルトらは、国頭一行と軽く挨拶を交わすと、先へ向かうこととした。 「じゃあ、草餅の大食い勝負といくか」 「いいぜ。ガチで叩き潰してやる!」 * シルヴァの予言通り、やがて巡礼の一団に行き当たるレオンハルトの一行。 「ふむ。奇遇ですね。私達も北へ、黒羊郷という場所に用があって向かう所なのですが、宜しければご一緒しても?」 巡礼の一人にそう話しかけるレオンハルト。 「何と、そうですか! あたなも、黒羊郷へ。では、あなたも巡礼……」 男は、黒羊郷を知っているようだ。 だが、言いかけて、レオンハルトの姿をまじまじ見つめた。そして、隣の男達と何やらぼそぼそ話し始める。 「それにしてもシックでクールで地味な装いですよねー」 装い何処となく辛気臭い集団でも、にぱーっとお日様笑顔で混ざっていこうと、その辺の巡礼達に話しかけているシルヴァ。 「えへへ、ルイン達は旅行中なんだよっ。 貴方達は、何処へ何しに行くのかなっ行くのかなっ♪」 「何処へって。それは無論、……」 ぼそぼそ話す巡礼の向こう、ルインは何かに気付いた。 「あれー、シルヴァ様シルヴァ様、あの方達って……かなっ、かなっ」 「あ……ほんとだ。レオンさんレオンさん、……」 「どうした、シルヴァ? ……」 列の後方にいた数名。近付いてくる。黒い頭巾をはだけると、……クレーメック達だった。 「それにしてもシックでクールで地味な装いですよねー」 「えへへ、ノイエ・シュテルン様ご一行も、旅行中なのかなっ、なのかなっ」 クレーメック、「……」。 クレーメックの周りで相変わらずはしゃぐ二人。 レオンハルト、「ええい、やめぬか! ……クレーメック、そちらもこの集団を?」 顔を見合わせる、それぞれの部隊長、レオンハルトとクレーメック。 「ああ……」 「あ、ルースさん」 そこには、同様に黒い衣装に身を包んだルースの姿もあった。もちろん琳も、一緒だ。 クレーメックの話すには、彼らに北(三日月湖)へ行くことを告げ、目的を曖昧に返事すると、更に幾らか北へ進むと黒羊郷で祝祭があるので是非それを見に共に行こうと、かなり強引に誘われ、断るわけにもいかない雰囲気だったのだという。 この巡礼の目指していた聖地にあたる場所が、黒羊郷だったのだ。 彼らはどういった目的で? 何を見に…… しかしそれを問い質されるのは、レオンハルトの方だった。彼は目的地を明言してしまったので…… 「失礼ですが、あなた方は黒羊郷へどんなご用が?」 丁寧のようだが、鋭い眼差しで聞いてこようとする。 もう一人の男が、 「まあ、いいではありませんか。最近は、一般の観光客にも、黒羊郷の復活祭を見学しに行こうという方があるのでしょう。 さあ、しかしかの地へ入るのは、この正装を纏いませんとな。間近で、我々の新しい神の誕生を、目の当たりにしましょう。是非、我々と共にまいりましょう」 「……」 レオンハルト一行も、かくして巡礼と道を共にすることとなった。 というわけで、全員ではないが、獅子小隊とノイエ・シュテルンが思いがけずここに集った。 しかし、これはおそらく偶然ではなく…… 今回の主力とされた二部隊の隊長が、共に何がしかの異を察知したのだろう。 そしてどちらかというと、お人好しと好奇心から、巡礼に加わることになった琳 鳳明。すでに二部隊のナンパ師、ルースとハインリヒからナンパを食らう嵌めにはなったが……。彼女の今回の選択は果たして貧乏くじか、それとも……。 物語は、思わぬ方向へ動き出すことになる……。 |
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