リアクション
* 「ミストラル。行動を開始するわ」 「ええ、わたくし達は、教導団とバンダロハムの民が殺り合うのを後ろから眺めて、愉しまなきゃなりませんものね。 ……メニエス様」 * それから間もなく、近場の雑居区のビル街で、 「力はあっても軍としての統率の取れないお前達を、教導団は雇わない!」 商店街で、 「奴らはオークスバレーで逃げ惑う魔術師らを躊躇なく皆殺しにした。蛮族にも劣る集団だ!」 方々の街角で、 「だがしかし地の利はお前達に有る、策を持ってすれば勝つ事は容易である。自らの地を守るため今こそ剣を取って立ち向かう時だ!!」 演説の如く噂を触れ回る女魔法使いの姿があった。 彼女は無論…… メニエス・レイン(めにえす・れいん)だ。 吸血鬼ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が、常に彼女を守るように付き侍っている。 やがてメニエスらは、貧民窟に至る。 「何ここの連中は。随分貧相というか、のろのろと行き交うばかりで、生気の欠片もないわね」 「こんな奴らの血は絶対に吸いたくありませんことね。 メニエス様、どう致します? この者達にも……?」 大人から子どもまで、ボロぎれを纏っただけのような人達が、所狭しと雑多に並んだ小屋から覗いていたり、屯している。 子どもや老人は骨と皮ばかり、男女の区別もわからない。皆、薄汚れている。 実際、人にも場にも生気といったものが感じられなかった。 それについては同じように思いながらこの貧民窟を歩いていたのは、本営を出てきた教導団の沙 鈴(しゃ・りん)である。 「まったく、幾ら何でもこれでは得られる情報もなさそうですわね……」 「ええ。沙鈴さん。皆、もの欲しそうに私達のことを見つめてきますね」 衛生兵ver.の綺羅 瑠璃(きら・るー)としては、放っておけない気もするが。 「そうですわ、沼人マーケットと呼ばれる辺りまで出てみましょう。マーケットと呼ばれるくらいですもの、そこなら何らか活気に溢れているでしょう」 「そうですね……沙鈴さん。行きましょう」 目を閉じ、貧民窟の子ども達を振り切る、瑠璃。 そんな沙鈴、瑠璃達と、行き違うメニエスら。 沙鈴は、イルミンスールの制服を着ていないメニエスに気付かないが…… (勿論……オークスバレー解放戦役を覚えている方なら、思いあたるだろうが、メニエスは鉱山で沙鈴らをだまし討ちして一時的に捉えた因縁がある。) 「はっ」 ミストラルが、沙鈴に気付く。瑠璃は目を閉じていて、やはりこちらに気付かない。 「(メニエス様……)」 「……」 しかしメニエスはと言うと、何と全く鉱山での一件を覚えていないのであった。 二組はこうして、ここでは何事もなくすれ違うだけであった。 * さてこの生気の欠片もない貧民窟。しかしその一角で、ちょっとした騒ぎが起こっている。 「ギ、ギル。どうやら、ボク達が何もしないでも、あっちから来てくれたみたいだね」 「ええ……しかし、集まったものですね。……集まりすぎですね」 ボロを纏った老若男女貧民の中央に立つのは…… イルミンスールの、金ぴかの法衣に身を包んだ、エル・ウィンド(える・うぃんど)。 そして、【黄金将軍】ギルガメシュ・ウルク(ぎるがめしゅ・うるく)。 貧民窟の民にはまばゆい、この金の衣装。 それにギルガメシュは無論、あの古代の伝説の英雄ギルガメッシュ(の英霊)であり、その品格の高さと、迸るオーラを感じ取ったのか、こんな声まで聞こえてくる。 ぼそ、ぼそ……「お、おお神じゃ」「黄金の英雄……わしらを、救いに来てくださったのじゃあ」「救世主様……」 「……」 ぽかんとする、エル。 「何だか、えらいことになってきましたね」 ギルガメシュは、釈然としている。 もともとは、とくに第四師団の兵力としてでもなく、友人から遠征を聞いて付いてきたエル。 しかし、教導団の遠征である。 バンダロハムではすでに混乱も起こっているというし、エルは、すぐに戦争になるのでは……と直観。 彼の現実的な思考が働き、彼はそうなれば食料や、それに特に医薬品は高価になるだろうと、すぐに考え巡らした。 戦争になって困る人達は…… そして彼の足が赴いたのは、貧民窟だったわけだ。 すでに、彼の所持するガーネットを売り払い、食料・医薬品は充分に購入し馬に積んである。……が、まだ足りないかも知れない。 そう、今彼らのもとへ続々集ってくる貧民達の群れを見て、エルは思った。 お腹をすかせていそうな子ども達、ここでは常時のことなのかも知れないが、怪我を負った者も多い。 その群れの中から、腰の折れ曲がり髪と髭のつながったぼさぼさに覆われた老人が、数人の若者に担がれてくる。 「やはり、ボク達が何もしないでも……」 「ええ、どうやら……」 彼らは貧民窟のトップを探し出して会うつもりだったが。 「わしは、この貧民窟の長。 失礼ですが、あなた方は……」 「ボク達は……」 「黄金の鷲」 ギルガメシュがぽつりと答えた。 民がざわつく。 エルが言葉をきった。 「ここは、間もなく戦争になるかもしれない。 力を持たない者達に、不幸な人を出したくないんだ。だからボク達は皆で協力し、自警団を結成したいと思う。それが……」 【黄金の鷲】、というわけだ。 民から、戦争に反対する声や、しかし自分達の身を自分達で守ろうという声が上がり、それが賛同の声になる。 愛馬エンキドゥにまたがったギルガメシュを、神々しいものを見つめるように、見上げる住民。 「ま、まあいいか……ボクは団長って柄じゃないし、ギルを中心とした自警団を」 エルも、ギルガメシュを見上げる。 ううむ、確かに神々しい感じがするぞ、……MCを差し置いて。 しかし。エルはこっそり呟いた。 「嬉しいんだけどさ、何か寂しい気がしないでもない」 「いうな、私もそんな気がしないでもないがな」 このエルの動きにより、貧民窟に結成された自警団。しかしこれから、どう動き、避けられそうにない戦いを免れることができるか。 2-06 騎狼部隊、北の森へ…… 今回の遠征について聞いたとき真っ先に発した言葉が、 「……あ゛? ……なん……だと? パルボンが総大将? ……第四師団も終わりだな……」 ……いやいや! 終わらせないようにしないと!(ルケト(&今唯MS)) 言って自分でつっこんでもしまったが、 パルボンの趣味というのか性向というのかに合ってしまったためか、予想以上に何かとちょっかいをかけ続けられる嵌めになっている、ルケト・ツーレ(るけと・つーれ)。 密かに、【打倒パルボン】の旗印も心に立てている。 そんなパートナーと困った総大将との因縁はとりあえず放っているが、 「よりにもよってパルボンが総大将かよ。……有志の軍師諸氏に期待するか……マジデ」 そこは、本気で期待するしかない、【騎狼部隊突撃隊長】のデゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)。(本営では、くしゃみは戦部とクレアがしているだろう。) そして今回の任務では、使者やテロリストとして活躍した林田 樹(はやしだ・いつき)が、騎狼部隊に協力する形で参加している。 「姉御。どうやら、青年が戻ってきたようだな」 「やあデゼル。それに林田、今日は来てくれてありがとう」 騎狼をばっと飛び下りるのは、イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)。 パルボンの指令を聞いてきたところだ。 「騎狼部隊、さっそく先陣を切って出ることになったぞ。北の森へ……。 正体不明の軍が来ているという。戦闘は避けて、小規模での行動になるようだ」 「遅れてくる連中が来るまで訓練でもするしかないと思ってたが、ちょうど外を走りたい気分だったんだよな。 ……よし、ちょっとばかり、その北の森まで偵察にでも行ってくるか! ってことだな」 「はは、暇だ暇だって言ってたもんな。もちろん、オレも行くよ」 デゼル、ルケトも、すぐに騎狼に乗れる準備はできている。あとは…… 「るー! ぶさいくおおかみ ……ぶさかみ? で おさんぽ! たのしみ!」 今日は、ルー・ラウファーダ(るー・らうふぁーだ)も騎狼部隊に付いてきている。 「まぁ、とりあえずルーは、デゼルの騎狼に乗っかるしかないよな。って、もう乗ってる」 「るー☆」 「……」 そこが自分の定位置だとばかりに。デゼルの後ろにぴっとひっついたルー。 一方、林田の方は、 「ジーナと章はプリモ温泉で馬鹿喧嘩中なのでな」 代わりに…… 「こた、ねーたんのてつだい、がんばるお。 もりまれは、ねーたんのばっくぱっくにのっかるお。 こたのおおきさなら、だいじょーぶれすよ」 「??」「??」「??」 「えー、今日はコタローの実戦経験も積まなければ、と思ってな」 林田 コタロー(はやしだ・こたろう)。パートナーの樹を大物にする……夢は大きい、まだしっぽとれたてのカエルだが。 「にぇーうん、ねぜう。よろしくお」 「あ、ああ。よろしく頼む」「お、おいデゼル。デゼルのことだろ」「は。ああ、……よろしくな」 イレブンもデゼルも、コタローと握手を交わした。 ルーはすぐコタローと打ち解け仲良くなった。 「では、行こうか」 ごうーん 騎狼に乗って駆けてきたカッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)が、フライパンでイレブンの頭を打った。 「……修学旅行にあたしを連れて行かなかった恨み、忘れまじ! あたしだって敵をブチ倒したかったのに! この上、騎狼部隊の出撃にまで、あたしを置いていこうってわけにはいかないよ!」 カッティは、第四師団の売りの一つであるともっと強調されてもいいであろう我らが【騎狼部隊】隊員募集ポスターのモデルにまでなっているのだ。馳せる騎狼部隊! プリーストでも可愛い女の子でも入れる騎狼部隊、あなたも是非。カッティの場合、戦うプリーストだけど。ちなみに今は、メイドとして中華料理屋で働いてもいるらしい。メイドでもバイトでも、あなたも騎狼部隊に入れますよ。 「ってことで、いざ往かん北の森へ! ってでも、イレブンは、バンダロハムに寄るつもりなのよね?」 「そうなのか、青年?」 「ああ。我々は騎狼部隊の機動力を生かせるわけだからな」 「どうする? 何なら、二手に分かれるか。オレ達はバンダロハムとは逆の西回りで行くってのも考えられるな」 そういうわけで、デゼルと林田は西回り、イレブンとユハラは東からバンダロハム経由で北の森へ赴くこととなった。どちらも、数名のシャンバラ人も騎狼で随行する。 こうして騎狼部隊は、北の森へ……そこで何が待っているのか。 |
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