リアクション
* 「初めまして。どうぞ何卒宜しくお願い致します」 「だから、名乗れと言っておろうが!! お前は、誰なのだっ」 「それは……」 「あのなあ……お前はからかっておるのか」 「いえ、わたくしは、ヒラニプラの山奥の情報や、この町のことを詳しく教えて頂きたいだけで」 「名乗れっ」 「ですから、礼儀正しく挨拶し、入館しようとしているではありませぬか。いきなり入ると怪しまれますから……」 「十分怪しいだろうがっ」 傭兵連中が、玄関に殺到した。 「おい誰だてめーは」「うへへ。何だ、おっさんじゃね」「斬、斬……」 玄関を訪れていたのは、イルミンスールの制服に身を包んだ、四十歳程に見える屈強そうな男だった。 (イルミンスール? ……こんな男いたか?)女魔法使いが後ろから覗く。 (……!?)騎士システィーナも、その場に着いた。 男は、集まった傭兵連中を一望すると、にやと笑みを浮かべた。 「ほほう。こんなところに集まっていたのか。どいつもこいつも、いい顔してるなあ。 ……皆様、どうでしょうか? わたくしの龍雷……いえ、わたくしに雇われ、いえ、共にまいりませんか?」 傭兵達は、ぽかんとしたり、顔を見合わせ、肩を竦めたりしている。 ギズム・ジャトが前に出た。 男と紙一枚の距離だ。剣は抜いていない。 「おっさん……」 ファァッック!! 「……くっ! き、貴様ら〜〜この私、岩造が、これだけ丁寧に話をしようとしているのに、おのれ、侮辱しよってからに〜……! 許さぬ。絶対に許さぬぞ。覚えておれよ、うぬぬ……!!」 「ほう。岩造、とやら。何なら今、ここで剣を交えてやってもいいんだぜ? 覚えておくのは苦手でよ」 「何……?」 去ろうとしていた岩造、振り返ってにやり、と笑う。 「面白い。この鬼の岩造の相手になろうてか」 しゅん、っと剣を抜く岩造。 相手も、言葉なく背に負う斬馬刀を取る。 場に緊張が走る。 (止めるか……)システィーナが止めに入ろうかとしたとき、 「フン。やめておこう」 岩造は剣を仕舞った。 「どうした? 面白くなくないの。さては恐くなったかな、おっさん」 「ハハハ。冗談はやめてくれないか。そもそもこんな一対一など、岩造の戦いらしくもなかったわ。 (私は、龍雷連隊の隊長として、今は連隊と言え兵が足りぬがいずれ大軍を率いて戦わねばならぬ身。まあ、このような一騎打ちもきらいではないが……)」 「オイオイ? 何ぶつぶつ言ってる、大丈夫か、おっさんよお」 「(見ておれ。貴様など、一握りにしてくれるわ)」 傭兵はもう何も言わず、やれやれ、といった素振りで、イルミンスールの制服に身を包んだ岩造を見送った。 * そんな様子をひやひやして見守っていたのは、教導団の金住 健勝(かなずみ・けんしょう)。第四師団の戦いには初参戦となる。 彼は、町で問題が起きないように、また何か騒動が発生した際には、援護に出れるよう、バンダロハムへ向かった者達を追ってきた。バンダロハムに向かった者には、血気盛んな者や気の短い者も多いだろう。 「ふ、ふう……松平殿、よかったであります……」 冷や汗と共に、手には固くアーミーショットガンが握られていた。 「健勝さん……」 健勝のお守役でもあるレジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)。ようやく緊張が解けたが、ヒールでもかけてあげたい気持ちだった。 「し、しかし。あの傭兵連中、只ならぬ空気を放っていたであります。 あんなのと下手に交戦になったら……」 「あ、健勝さん。松平さんが、こちらへ来ますよ」 「……岩造様。あのような輩、命じ頂ければ私のハヤブサモードで……」 岩造と同じく、イルミンスールの制服に身を包んだ岩造の部下ファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)が話しかけている。 「言うな。ファルコン。よいのだ。今に我々龍雷連隊の天下が来る」 「……岩造様。はっ。そうでありますな」 健勝、レジーナが一声かけようと近付くが、そのとき、 「うへへー。おいおっさん、ただで帰れると思ってるのか」「斬、斬……」 「むう?」 振り向くと、テサック刀を持った垂れ目顎鬚の男と、蟹を思わせる黒赤甲冑に全身を包んだ戦士。 バンダロハム貴族館からつけて来たらしい傭兵だ。 「……岩造様」 ファルコンが鎖十手を手に取る。 「うへへ。お前、面白いよ。ほらそいつで俺を捕まえてくれやあ!!」 テサックを回し左手に持ち直すと、一方の手で短刀を抜いて飛びかかってきた。 「貴様の相手は、この岩造だ!」 鋭く投げられた短刀を岩造が剣で弾く。 「……岩造様」「斬、斬……」ファルコンは、甲冑と向き合った。 「うへへ。もらったぁあぁ」 左のテサックが岩造を襲う。 と、近くの家屋の影から、放たれた弾丸が傭兵の肩をかすめた。 「いってええええ何しやがる。うへへ」 「フン!」 岩造の剣撃が傭兵を正面から切り裂いた。 「ファルコン!」 「む、むうう……」「斬、斬……」 ファルコンが壁に押し付けられ、甲冑の取り出した錆びた剣が突き立てられようとしていた。 再び、放たれた弾丸。二発、三発目で、首筋に達しようとしていた剣を弾いた。 岩造の剣が、後ろから甲冑を斬り付ける。 「ぬう、固いな……」 「斬、斬……」 がっ。がっ。岩造が三撃、四撃と加えると、甲冑はゆっくりと地面に沈んでいった。 * 「……」 アーミーショットガンを撃つ手が、完全に強張ってしまっていた。 「け、健勝さん。ファルコンさんは、無事なようです。ここは、早く離れた方がいいのでは?」 レジーナが、健勝の肩に優しく手をかける。 「……そうでありますね。松平殿にはまた何かあったら援護をするであります。他にバンダロハムにいる方も心配でありますし」 そうして健勝はやっと落ち着いた。 丘上から、雑居区へ移る辺りで、付近の家の窓からぼうっとした幾つかの人影がこちらを見ていた。 とくに騒ぎ出す様子もなく、こういったことには慣れている、のかも知れない。 「行きましょう」 「レジーナ、……ありがとう、であります」 「え……?」 * 「ファルコン。すまぬ、危なかったな」 「……岩造様。いえ、大丈夫です。それより、どなたか存じぬが加勢してくれた方に感謝せねば」 「ああ。この岩造、感謝致す」 「私達も、早くここを去りましょう」 |
||