リアクション
* 風次郎と弓月は、遠くから儀式を見終わると、広場を一旦出てきた。 街には、装備に身を固めた黒羊の兵らが、パレードを行っている。どれだけの数だろう。 「何てことだ。まさか、このようなことであったとは……」 さしもの風次郎も、いささか、言葉をなくしかけている。弓月も、これから起ころうとしていることを思うと、不安な面持ち。いや、もう戦争は起こってしまった、とも言える。ここにいる兵や辺境の民族が一丸となって、教導団と争うことになるのだろう。 「それにしても、あの女が手につかんでいた首、あれは、……アンテロウム副官……」 6-02 面会 神への面会、とは言っても、信徒らはいっぱいな気持ちを、賛辞として述べたり、戦いへの決意を誓うといった具合であった。新しい神にまみえるということが、彼らには重要なのだろう。 琳は、ジャレイラを見つめてみる。 神となった女性。でも、この女性は、私たちと同じように、たとえば学園生活を楽しんだり、友達と語り合ったりしてもいいような、そういう年頃の、女の子である、とも思える。神とされた者に対し、そのようなことを思うのはいけないのかも知れないが。でも、何がいけないのだろう、という気もした。神にされた、神に祭り上げられただけ……ではないのか。 「あ、あ……」 琳はもともとの性格もあって、うまく言葉を切り出すことはできない。 ジャレイラも、琳の方をただ見つめている。す、っと手をかざしてくる。祝福、か何かなのだろうか。 「戦争ってやっぱり……お、終われるのがいい、よねっ、……」 そんな言葉で精一杯だったが。 「定められた戦いだ」 ジャレイラが答えた。 教導団を倒すことで……? 琳は、もう一度ジャレイラを見る。どこか……見透かされているような。悟りのような、悲しみのような。 ジャレイラはそれ以上は何も言わず、すっとかざしていた手のひらを下げ、目を閉じた。 琳も、他の信徒がしたように深々と頭を下げ、その場を去った。 「……」 琳が、何を思ったらいいのか、わからぬまま、間を出て行こうとしたとき、後ろで信徒らの声が上がった。悲鳴とも驚きともつかぬ声、声が上がる。 琳が振り向く。 列に並んでいた正装の男の一人が、壇上にいるジャレイラに向かって飛びかかっていく。 その手には、ナイフが。 * するべきことはわかっていた。 先、あれだけの民の前で、それが述べられたのだ。 教導団に害をなすようなものであれば…… この場で殺そう。 ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)は、懐に隠したナイフを鋭く光らせ、黒羊軍を束ね教導団に挑むことになろう新しき神ジャレイラに向け、踊りかかった。(相手は女性だが……教導団の命運には変えられない。) 女は信徒らにするのと同じふうに手を掲げ、目を閉じる。 「どうか私めにご神託を授けてはくださいませんか? そして、あなた様は今後その世をどうするべきだとお考えかお教えください」 儀式の後に神に会えたら……そう聞くつもりだったが。 もはや。 女のかざす手に、光が集まり、黒い炎の剣が立ち現れる。 これは、光条剣……か。 ルースの投げたナイフが、灰になって落ちた。ルースとジャレイラの目が合う。 ルースはそのまま、祭壇のしたへ飛んだ。 目を丸くする信徒らの表情が、憎しみの色に染まってくる。ざっ。ざっ。 ルースは、出口の方へ走った。 琳はもちろん声をかけるわけにもいかず、走り去るルースを見送るばかり。それを信徒らが追う。兵も集まってきた。捕えろ! 八つ裂きにせよ! 声が飛び交っている。 ルースは走る。 たとえしくじったとしても、オレは身分を隠している。オレと教導団のつながりを示すものは一つもなし、教導団に迷惑はかからない。ただのおかしな男がいたで終わるはず……捕まらなければ……捕まれば、死…… * 広場の近くにしばらく待機していた風次郎。 何やら、広場の方が騒がしくなる。 もしかして……今頃、考えていたテロでも起こったか。今や敵とわかった者らのためにテロや暴動を鎮めるというのもおかしな話だが、とは思いつつも、気になったので、刀をしっかり持つと、風次郎は広場の方に走った。 「おい、脇道の方に入ったぞ! 新しき神を狙った。許せない、絶対に捕まえるのだ!」 「裏切者だ!」「スパイだ!」 こっちか。風次郎は、建物の屋根に登り、それを伝って移動する。 細い道を走って逃げる男。 追ってくる信徒たち。 細い道の前方にも、黒羊の兵が立ちふさがった。 「駄目か……!!」 「……ルース?」 風次郎は思わず、逃げる男の進行方向を防ぐ兵らに、上方からツインスラッシュを放った。 男は、倒れた兵の合い間を縫って、街の外へ向かい、逃げていく。 「さっきのはルースだよな……。む、まずい」 風次郎はすぐに、身を隠した。 |
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