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黒羊郷探訪(第3回/全3回)

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黒羊郷探訪(第3回/全3回)

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第4章 戦後

 混戦に混戦を切り抜け、ひとまずは黒羊旗の軍勢を三日月湖から退けた教導団遠征軍。
 だが、戦渦に巻かれたバンダロハムの街……また、この戦で、バンダロハムを構成していた貴族、傭兵、食い詰め浪人、貧民といった人々の位置付けも変わってしまうことになるだろう。これから、どうなるのか……誰もが、不安げに事の成り行きを見つめている。教導団員の多くも、戸惑うばかりだ。総大将パルボン戦死の報も加わり、戦後処理も混乱の様を呈し始めている。
 本国からは援軍を李 梅琳(り・めいりん)が率いてくることが冒頭で述べられたが、第四師団に回せる内政担当の人材は本国にはない。
 そんな中、南西分校より、
「……御茶ノ水君。そなたが必要とされているぞ」
「はい!」


4-01 御茶ノ水の登場

 というわけで、御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)が送られてきた。
 都内にて秘書職を務め十数年。地上を離れパラミタへやってきた彼女は最近、シャンバラ教導団に配属されたばかりだ。今後、更に混迷するであろう第四師団のため、師団付法務科員兼秘書として任命されて。
 未明、追討を終えた香取の隊が戻ると、北の森に士気の高い兵を一部残し、戦い続けた各部隊は、眠りに就き、また傷を負った者は手当てを受け、と、休息や治療に移った。戦後処理についての話し合いも、早々に持たれることになる。パルボンが戦死(行方不明)、ロンデハイネも致命傷ではないが傷を負って治療には今しばらく時間がかかる。旧オークスバレーからも援軍が到着するというし、その援軍を率いてくる者から、あるいは本国から、何らかの指示が出ることになるだろう。しかし、目下、このような事態になって、ウルレミラの貴族や、バンダロハムの民と話し合いをもたないわけにもいかない。バンダロハム貴族の処遇もある。それに、黒羊軍の今後の動きもわからない。教導団の兵らにも、こうした状況下にあって、動揺が生じつつあった。パルボンに本営を任されたクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)に、パルボン亡き後の玉座に居座る一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)らが、目下の話し合いを持つことになる。
 ここへ、千代が訪れ、対外的な対策を練り、貴族らとの話し合いも持たねばならない三人に代わって、対内側の仕事を一手に引き受けることとなった。更に、ノイエ・シュテルンの任務を一旦離れ、経理科、皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)もこちらに協力する。
 各部隊の治療もそこそこに、千代はまず、現状や今回の行動に関する報告書提出の指示を出した。また、各地に散らばる部隊の者にも伝令を飛ばす。
 獅子小隊、ノイエ・シュテルンからは、ここにいない各々の部隊長レオンハルト、クレーメックに代わり、レーゼマン、香取翔子が報告をまとめて提出してきた。騎狼部隊、黒豹小隊からもすぐに、報告書が届く。
 香取は、命令違反を実行した指揮官として自らケジメを、と降格願いを申し出ていたが、結果的にロンデハイネを救い香取隊の到着が三日月湖の勝敗を決したので、罪に問われることはなかった(香取は、便所掃除一ヶ月の刑を自らに課し、命令違反のけじめをとることになる)。

 のち、これら各部隊は、戦功を評価されることとなる。



4-02 龍雷どうなる?

 そんな中、問題となったのは龍雷連隊であった。龍雷連隊のことは各報告書にも見られ、また教導団員らの中でもその行為について様々の憶測がささやかれていた。千代はしかし、内部だけの声を聞くのでなく、真相を正す必要はあると判断する。
 さすがにこの事情を抱えて他の部隊よりは遅れていたものの、割合に早くに、龍雷連隊からの動きがあった。
 その一方、本営の方からも、龍雷連隊にある者が送られていたのだが……
「全額連隊長預けにした浪人さんのお給料、ちゃんと末端まで公平に行き届いたんでしょうねぇ?」
 皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)。龍雷連隊に、資金として山鬼を討伐し得た財宝を渡した彼女でもあるが、今は、全隊会計監査として彼らのもとを赴いた。
 鋭く眼を光らせる皇甫。それに対し連隊長・岩造は……
「ああ。皇甫、その節はありがとう。
 あれなら、龍雷連隊で勝手に分配できないので、ひとまず第四師団に返納したんだ」
「何と」
 更に、岩造は、彼と共に戦った浪人たちについても、同じく一旦第四師団に返納した、と語った。「戦後処理をしていかないとな」
「ふぅむ……」
 皇甫は、岩造の処置にいささか驚いた面持ちか。皇甫ははっと気付く。
 岩造の背後にいる男――甲賀 三郎(こうが・さぶろう)だ。龍雷連隊の戦後処理における実務を任されている。そうか、この男が、か?
「報告書の方も、ただ今できたところです」
 甲賀は、戦場での彼とはまた違って至極丁寧な所作で、それを皇甫に手渡した。
 皇甫はさっと目を通す。その中には、こう綴ってある一文が。当該地域の情勢安定化を試みる場合、地域の貧困層の協力を得た屯田制による新勢力化があり得ると――松平岩造の百人隊が足がかりになる模様――と。
「屯田制……!」
 実はこれは、皇甫伽羅が、皇甫 嵩(こうほ・すう)と協議していた中に出た話でもあったのだ。浪人の屯田兵化。しかし皇甫の考えではそれにはまず、一旦部隊としての浪人は解散・解体させることとなるが。岩造はすでに、浪人を本営預けにした。さて、どうなるか。
 もちろん、龍雷連隊の件は、まだこれだけで済まされるわけではなかった。
 千代のもとへの、報告は続く。
 バンダロハムの酒場に、歌い手として潜入していた迦 陵(か・りょう)
 彼女は、岩造が、食い詰め浪人を雇い入れる現場に実際に居合わせた一人だ。
 龍雷連隊が食い詰め浪人を無断で雇い入れた……これが龍雷連隊における問題の第一。
 そしてまた、その後、バンダロハムにいた迦陵に聞こえてきたのは、龍雷連隊を名乗る部隊が、街で略奪をしている、ということであった。これは、他の教導団の者にも同じようにそう聞いている者が多くあり、中には阻止に向かった者もある。
 迦陵が言うように、警備・防衛を請け負う教導団の部隊が略奪を行うなど、あってはいけないこと。
「あまり陵の手を煩わせないでほしいものだよ。」
 迦陵のパートナー、マリーウェザー・ジブリール(まりーうぇざー・じぶりーる)はこの件を、関羽に委ねる。
「玄徳ならこのような行為は許すはずもないであろうが、さて雲長よ、此度の件どうするつもりじゃ?」
 うんちょうの判定や如何に。
「……。通報先は以下の通りでござる。
 本営:総指揮官(パルボン)がいないので、副司令・幕僚級(現在のところクレア、戦部、一条か)。
 憲兵科:宇都宮祥子(うつのみや・さちこ)
 参謀科:天霊院華嵐(てんりょういん・からん)
 法務科:御茶ノ水千代(「私は目下、その任務中!」)」
 こうして、龍雷の処分は、各科で問われることになる。
 宇都宮は……「連隊の解散を提案するわ」そして宇都宮もまた、皇甫、甲賀の意見同様にその後は屯田兵として開拓作業を、と。
 天霊院は……「松平は勝手に教導団の名において浪人を雇い、勝手に部隊を編成、また、勝手に指揮をし挑発、黒羊旗との戦端を開いた。他部隊を危険に晒したことや、松平の指揮能力の欠如を申し上げる次第」
 各科の意見は龍雷にはなかなか厳しい。
 マリーウェザーは続ける。
「名を利用されたにせよ、残ったのは教導団所属の龍雷連隊が襲撃・略奪行為に及んだ結果という事実なのだから。
 バンダロハムの住人にとっては、龍雷連隊の真偽など関係ないのだよ」
 なのだが……一方、しかしバンダロハムの民の間で聞かれることは、少し様子が違っている。
 彼らの間では、「龍雷来来!」を叫んだ軍団は、黄金の鷲と共に、バンダロハムに悪性を敷く貴族をやっつけたとして英雄的に称えている者も多くいるというのである。
 当の龍雷連隊はというと、その行為を行ったものは、自分たちではなく、偽者である、と強く主張している。この話はやがて一人歩きし、民の間では「龍雷来来!」が語り継がれていくことになるのだが……
 民の間では結果的に称えられる行為であっても、略奪自体は、教導団としてあるまじき行為であろう。
 いずれにしても、偽部隊の指揮者は捕まらなかった。
「偽龍雷の指揮者? なに言ってる、ここにいるにゃ」
「あたしが捕らえたのよぉーん」
 新人ミランダによって引き立てられたこの男の尋問を、ロザリオ・パーシー(ろざりお・ぱーしー)が担当する。
 ロザリオの尋問は……尋常ではない。
「何べんでも、死んでこい!!」
 次々と拷問を加えていく、ロザリオ。
「はぁ、はぁ……」
 ロザリオはまず、偽岩造をぬるぬるの生きものと一緒に、穴のなかに閉じ込め過ごさせた。岩造に届く光は一条のみ。ロウソクとムチを手に、岩造を触手攻めしていくロザリオ。
「はぁ、はぁ……」
「どうだ触手の味わいは」
「む? どうした。何してる、ロザリオ」
「ん」
 報告書を提出して戻ってきた甲賀に、草薙、ナインら龍雷連隊の隊員が、ロザリオの拷問の穴を覗く。
 そこにいたのは……本物の岩造だった。
「……」「……」「……」
 ロザリオは穴のなかから、岩造とぬるぬるした生きものを引き上げる。
「隊長さん……すまない。このことはあまり気にしないでくれ」
「ああ、何、このくらい。私は平気だ」
 龍雷にまつわる真相は、未だわからない……
 ただ、民の声からも聞かれるように、バンダロハムに住む多くの者にとって、貴族は打ち倒されるべき存在(悪)であった、ということは、確かな事実(バンダロハムの真相の一つ)のようだ。(だから戦部が、一時的に敵拠点としての領主館を押さえたことも、民の反感を買うことはなかった。貴族の味方は、貴族連中自身と、貴族を守っていた少数精鋭の傭兵勢だけだ。)
 これを踏まえて、今後の三日月湖統治に向け、話し合いがもたれることとなる。



4-03 三日月湖畔経済共同体

 千代が対内的な諸事をこなす一方で、クレア、戦部、一条ら本営チームが、目下の状況をどうするか、において論を出し合う。
 三日月湖統治については、クレアと、戦部配下リース・バーロット(りーす・ばーろっと)との間で、意見が交わされた。
 実況役を担ってきたリースだが、今日は眼光鋭く、自らの論を展開している。
「今回のバンダロハム占領は、(バンダロハム側の)教導団の部隊に対する布告なしの先制攻撃に対する報復措置と言えますわ。少なからず損害を出したことも含めて、賠償金の請求および今後十年間の占領当地を行うことを認めさせましょう。
 また、駐屯部隊の経費を街から徴収し、維持費にあてるのがいいですわ」
 クレアが応えて、「街からどう経費を徴収するか……は後に置き、バンダロハムを教導団領とすることには、反対だ。
 ここを教導団が統治する、となれば、この地に住まう人々を外敵から守る義務が発生する。
 戦後混乱期だけに治安維持も必要だし、新体制を導入するにも様々な手間がかかる。
 それらを鑑みるに、得られる益より抱え込む弱点の方が多すぎる」
 リースが応じる前に、戦部、「しかし、(前回参照のように)これからの戦いに向けても、軍事的な拠点は必要ではないかと思いますが」
「それには同意だ。
 そのためには、三日月湖畔を直接巻き込むことのないよう、より黒羊郷に近い土地を借り受け、拠点化。補給ルートも確保することだろう」
 となると、北の森を中心としたその周囲か。森の南側は戦場となった境界。北側には小城がある。
 クレアは、続ける。
「教導団は黒羊旗に対抗すべくこの地に来たのだし、゛戦闘用の拠点゛と゛周辺勢力との良好な関係゛が確保できればそれでよい。
 この地の政治はこの地の人間に任せる。つまり、教導団としては、軍事的な拠点の確保ができればいい、というわけだ。
 ただし現バンダロハム貴族をそのまま捨て置くわけにはいかないし、ウルレミラ貴族にも甘い顔をしすぎては侮られる。
 そこで……」
 クレアは一息つき、切り出す。
「そこで私の提唱するのは、『三日月湖畔経済共同体』。
 バンダロハム・ウルレミラ・教導団の共栄が建前だが、現状ではそれぞれが牽制しあいバランスを取る形になろう」
 三日月湖畔経済共同体。
 何か、形として見えてきただろうか。
 リース、「私が考えていた具体的な町の体制について申し上げておきますと、貴族代表4名、市民代表3名、教導団代表2名による評議会を設置。これによって町の運営をするといった具合ですわ。
 町周辺の治安確保については、師団部隊(パルボン私兵か、食い詰め浪人を訓練し部隊化したもの(=龍雷連隊?))にさせるのはいかがでしょう」
 戦部が補強する。「ともかく、当面はそうして教導団側がある程度防備に割き、徐々に街の防衛隊(自警団?)にシフトさせ、最終的には、街だけで都市国家を運営できるようにするべし、といったところでしょうか」
「現バンダロハム貴族の首は飛ばす」
 クレアは、静かに言い放った。それは、これまでの話からいくと、民意にも適おうか。
「挿げ替える首は゛ウルレミラに縁のあるバンダロハム没落貴族゛あたりが望ましいか……?
 バンダロハムを統治する歴史的な正当性があり、ウルレミラもそれを承認するに吝かでない人物を探そう」
 これについては、まだ決定はできないだろう。ともかく、これまでの領主には消えてもらうことになろうか。
「教導団はバンダロハム新領主の後見的な立ち位置で、発言権を確保する。
 互いに話し合う機会を多く持つことで理解を深め、怪しげな者の甘言に踊らされないようにするのが肝要だ」
 クレアは、一通り言い終えた、といったふうだ。
「ハンス。何か付け加えることはあるだろうか?」
 ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)、すっと一礼し、
「ええ、では。共同体を目指すために、バンダロハムに対して発言権を持つことについて若干。
 教導団がバンダロハムの後見的位置に立つ……これは、ウルレミラによるバンダロハム併呑ではないと世間に知らしめる意味にもなりましょう。
 利害関係の折り合いがつけば、どこがどこを侵略したわけでもなく、対外的には゛バンダロハムの新体制移行に伴う、三日月湖畔の経済変化゛という形に落ち着くと思うのです。
 いわゆる教導団による傀儡政権、という形を避けるためにも」
 再び一礼する。
 
 軍事拠点=実質的に三日月湖は、今後、黒羊郷を攻略するための最初の拠点となる。
 民の反感を買わずに、ここを拠点とせねばならない。
 そう考えると、クレアの提唱する三日月湖畔経済共同体、はまず見た目には理想的と言えるか。なかなかにまろやかなでありながらも、強かな提案に思える。
 あとは、以降の議論につながるが、ここでどう教導団部隊の駐屯を維持するか。
 資金面の問題が出てくる。(リースの話では、まずはバンダロハムに賠償金を出させる。それから、街から駐屯の経費を徴収する、というのがあったわけだが。)
 ウルレミラ貴族に関してわかってきたことは、彼らは日和見であり、またできるだけ金は出したくない。
 バンダロハムは邪魔な存在で、自分らの築いた町がよければいい。と思っている節がある。教導団を迎え入れたのも、彼らを上手く使い、三日月湖の統治・政権を手中にしてしまおうという考えが見え隠れしていた。
 但し、ウルレミラが外敵の攻撃にさらされず栄えてきたのは、バンダロハムの存在があったから、とも言える部分があるのではないか。それにもう一つには、湖賊の存在もあるが。
 もっとも、ウルレミラ貴族にすれば、そんなことまで考える頭はないので、治安も景観も悪い、いいとこなしと思えるバンダロハムを消してほしかっただけ、といった面はあるのだろうが……? 教導団に軍事的役割のみ担わせようと思っているなら、三日月湖畔経済共同体は親和の余地はあるか。戦部も言ったよう、軍事拠点としてのみ考えるにも、ある程度、政治的な側面と融和する必要はあろうが。
 また、バンダロハム貴族はどうだろう。
 バンダロハム貴族の失脚・権威を失ったことによって、バンダロハムをまとめる、あるいは守るものはいなくなった。
 自警団はできたが、こちらはまとめるものはあっても、民衆は先日の決起のような強い目的がなければ、平時はただの烏合の衆に戻る可能性も高い。反乱は、教導団と黒羊軍との戦闘や、略奪などの勢いに便乗できた側面もなくはないだろう。
 課題は多いか。

 ともえ、統治についての話し合いは、以上のようになった。
 ここから論議は、教導団が駐屯するにあたっての経費面を中心に、資金の問題に移る。



4-04 開発事業案

 目下の資金については、先ほどのように、街から徴収、というのが一つ、リースの意見から出ている。
 どのようにすれば、街から金を徴収できるか。
「私が」
 玉座に座っていた一条アリーセ(いちじょう・ありーせ)が、ここで意見を述べる。
「隣国のバンダロハムに戦災があったことで、周辺の治安が悪化すれば、ウルレミラも困るでしょう。
 そこで、バンダロハムの人手(戦渦に巻かれた者(食い詰め?)など?)を使い、騎狼を用いた事業を起こそうと思います」
 玉座で考えていたことである。
「それによって、バンダロハムとの関係改善が見込めますし……その初期費用ということで、ウルレミラに出させる(借金でも。)」
 ウルレミラ貴族は無論、出し渋るだろうが……まずは興味を持ってもらうこと、と一条としては考えている。
 一条の展望には、三日月湖より先への遠征にも、物資の補給拠点は必要になりますから、というところまである。ここは重要なところだった。当面は三日月湖周辺がまだ戦線に含まれ、軍事拠点としての意味合いのが強いだろうが、攻略が進めば、いずれ、より補給拠点としての意味合いを帯びてくる、だろう。
 実際、復興事業自体については、久我 グスタフ(くが・ぐすたふ)が行った営業に対し、貴族たちは関心を示している。無論、それはウルレミラが更に潤うから、ということがあるからだが。彼らにとって重要なのはその点なわけだ。
 復興事業については、戦部にも構想がある。一条はもともと戦部の提唱する事業に寄せている期待が大きかったが、ここで初めて直に意見を持ち寄れることとなった。
 戦部はしかし、幾分前線に赴いた疲れもあるらしく、ここからは配下アンジェラ・クリューガー(あんじぇら・くりゅーがー)が、代わって詳細を述べる。
 まず一つは、本国(ここでは旧オークスバレーを指す)〜バンダロハム間の街道整備について。
「その間を結ぶ街道の整備、並びに治安確保する事で双方の交流を生み出すこと、よ。
 また、教導団直轄のギルド(旅行会社)を設立しパックツアーを企画、運営することで収益を生み出せればいいと思うわ。これによってもし、ある程度収益が出る事が証明されれば、勝手に商人らが入り込んで事業全体を拡大してくれるから、第四師団としては護衛の派遣及び治安確保へ事業をシフトさせていき、本来の姿に戻していく、ということね。
 最終目標として各町村の整備及び治安確保の諸経費を税収(事業委託金)で賄うこと。……戦部くん? いかが、こんなとこだったかしら?」
 ぶん、ぶん。戦部は机に突っ伏しそうになりつつ、頷いた。
 二つ目に、機晶石採鉱による鉱山収入。
「本校より鉱山技師を呼び、埋蔵量及び採算成立性を調べてもらうことね」
 だがおそらくそれにはまた、危険が付き纏う(1シナリオ要りそうな)予感が。
「採算が取れるようなら鉱夫を雇い採鉱開始。取れないならば師団の懲罰として採鉱し、収入源とすることだわ。……ええっと、戦部くん?」
 戦部は一度頷くと、完全にうつ伏してしまった。
「戦部さん!」「戦部……」
 リースが、戦部を保健室に連れていく。
「小次郎さん……無理をなさって」
 リースによると、当初は取り立てて取柄のなかった小次郎。有能そうには見えなかったのが、彼女に走った電撃を信じて戦部に契約を申し込んだ。その後、戦部が戦いの度に、芽生えた才能を伸ばしてきたことはこれまでの結果からわかるが、それと共に彼の黒い部分も見え隠れするようになった、とリースは思う。昔の、真っ当な人といった印象の戦部がよかったな、と思うリースでもあったが、思い込んだら一直線。小次郎のことを支えるのは私しかいない、と健気に思うのであった。

 さて、こうして浮かべられた事業案は、しかし実際のところは、もう幾許か後を見据えた話であり、今はあくまで黒羊郷を倒すことが中心の目的となる。とりあえずは、この中から、本拠地にあたる旧オークスバレーとの交通面ということについて、開発案の中からアイデアが抽出される形になるだろう。
 復興ということで言えば、目下のところで、甚大な被害を被ったバンダロハムの復興問題がある。貴族は倒れたが、人々は戦災に困るところとなった。
 その民の声を代表する者として、ある者らが呼ばれている。