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黒羊郷探訪(第3回/全3回)

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黒羊郷探訪(第3回/全3回)

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3-03 黒羊郷(2)

 黒羊郷は、ある種異様な雰囲気に包まれた街、と言えた。
 それはどこから来ているものだろう?
 街を歩くケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)。彼は、黒羊郷に屯する兵やその指揮官、それに城壁、監視塔などの軍事的建造物をしっかりと観察しておこう、という目的で行動していた。広い市内の其処ここに、物見櫓が立ち、壁が幾重にも巡らされ、警備兵が巡回しているという物々しい雰囲気なのだが、その一方で街は浮き立つような活気に包まれている。戦争の最中にある地のような重苦しさをまとっていてもおかしくない軍事的な街でありながら、もちろん今がまさに千年祭だからというこもあろうが、賑やかさに満ちている。戦と祭が、同時にやってくるかのごとくな気配だ。
 異端の地らしく、市街にはごろつきのように映る者の姿も少なくはない。彼らでさえ、ここではどこか嬉々として見える。剣を帯び街を歩くケーニッヒも、このように軍服を着ていないなら彼らと同じ屈強な戦士と見て取れる。アンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)も周囲に警戒しつつ、彼と並んで歩く。土地柄なのだろう、彼と同じドラゴニュートや、それに獣人の姿もよく見かける。
「兄貴……」
「うむ」
 こうして暫く、ケーニッヒらは、街を巡り歩く。
 同じように、街を歩くのは、ケーニッヒと同じく【ノイエ・シュテルン】のハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)。街に来ると互いに別行動を取り、彼は彼なりの目的で、行動に移る。と言ってもハインリヒのすることと言えば……
「(こめかみぴくぴく、こめかみぴくぴく)」クリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)
「可愛い女の子、可愛い女の子はいないかな、と」
「こんなところまで来て、アンタって人は〜」
 隣でこめかみに青筋立てるヴァリアに言われると、ハインリヒは真面目な顔をして、「何。あくまで情報収集のためだ」と、平然と言う。白々しい……とヴァリアは思うが。
 ただ、女性を見るたび、声をかけよう……とするハインリヒに、戸惑いが生まれた。
 若い女性、婦人方、老婆、女の子に至るまで(可愛い子もたくさんいるけど)一見、普通の街の人々や旅行客と思われるのだが、皆が皆、武器を携えている。にこやかに微笑みつつも、鋭い槍を持ち歩いたり、剣を背に、街を歩いている。
「私たちの平和のため!」「新しき神のため」
 そのことを話しかけてみるハインリヒに、たいがいこんな答えが返ってくるばかり。しかし中には、「正しき戦いのため」……いささか、物騒に思えなくないものも。「……戦い?」
 しかしどの女性の顔も、にこやかである。
 ナンパとしての成果はいまいちだった。
「うーむ。彼女らの心をとらえることはできないようでございますな。まるで、すでに何かに心が掴まれているようで。
 あっ。お嬢さん……」
 ヴァリア、「……」
 いずれにしても、痴話喧嘩は続くのだった。
 ハインリヒは痴話喧嘩のなか、思う。そうだ。いつもなら律儀に止めに入ってくれるアイツがいないんだなぁと。「ジーベックがいないと痴話喧嘩も物足りないな〜。って、ジーベック? あれ、ジーベックじゃないか?」
 街の通りを、向こうから歩いてくるのは、間違いない。クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)その人だ。
「ジーベック……」
「ジーベックさん!!」
 どごーん。ヴァリアは、クレーメックに再会できた安堵のあまりにそれまでのハインリヒへの怒りが再燃。彼をぶっ飛ばすと、クレーメックのもとへ、駆け寄った。
「お、おい!! いくら嬉しいからってそりゃねーだろ!」
「ジーベックさん!」
 ハインリヒも、ヴァリアに続いて、駆け寄る。もちろん、彼もリーダーの無事を確認できて嬉しいのだ。
「ジーベック、無事か……」
「ああ、すまない。心配をかけた」
 ところどころ服が破けてすり傷があるが、大きな怪我もないようで、顔色もわるくない。とくに変わったふうもなかった。
 もちろん、彼の隣には、クリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)の姿もある。彼女も、無事なようだ。
 ただ、ヴァルナが少しだけ不満そうなのは、もう少し彼と二人でいたかったかな……という思いがあるから、かもしれない。
 しかしともあれ、思ったより早い再会であった。
 ケーニッヒとザルーガもここへ一時合流し、リーダーの無事をまずは喜んだ。
「アクィラは……」
「うむ……アクィラは、谷底の川へ……」
「……」「……」
「しかし、私がこうして戻ってきたように、あの谷間には、幾つもの洞穴が見られた。あの谷は、ここ黒羊郷の地下とつながっているようだ。アクィラも、もし命が助かっていれば、そこを辿って来れたなら望みは」
「地下。この黒羊郷の下に……」
 クレーメックは、谷底に落下する間に、谷あいに生える木々の枝につかまり、九死に一生を得た。谷の半ばには洞穴が口を開いており、クレーメックはヴァルナに支えられ何とかそこまで入り込んだ。洞穴から見渡すと、同じように谷の壁や、谷底の方にも、幾つもの洞穴が点在していた、というのだ。
 時間の感覚もわからないままに、クレーメックは暗闇を旅して、街の近くにある丘のうえに出てきた。暗闇の旅のなかでも、ときおり、光のさす穴がありのぞくと、広い空間が開けている場所が覗けたり、それに、これは幻覚かわからないが、邪念のような、邪教の念仏のような声が渦巻いていた、という。
 黒羊郷に広大な地下空間、か。
 そこに何がある……
 谷底まで達したアクィラは、少なくともクレーメックと同じようにしかしその更に下層から、そこに迷い込んでいる、だろうか。命が助かったとしても、そこに迷い込んで無事抜け出せるだろうか。またメンバーのなかにはアクィラの無事と共に、ヴァリアは秘術科研究生として、ザルーガは強力な武器などが隠されているのではないかとの思いを固くし、地下への探索を願い出た。
 黒羊郷へ遠征に出た教導団本隊は、まだ到着してはいないようだ。
 どのあたりにまで来ている?
 それに、その遠征の真意とは何であったのか?
 一少尉としてまた【ノイエ・シュテルン】リーダーとしてクレーメック・ジーベックは判断を働かせ、ハインリヒとケーニッヒに引き続き黒羊郷での潜伏調査を言い渡した。ヴァリアとザルーガは地下へ入り、アクィラの捜索をメインに行動する。
「我々への命令は、「準備を整えてウルレミラに向かい、本隊に合流せよ」。黒羊郷への偵察は「準備」にあたる。その上での本隊との合流に向かえば、命令違反にはあたらない筈」と彼曰く関東軍も真っ青の拡大解釈で強引に自らを納得させた。
 それぞれが見聞きした情報は、しっかり伝え合っておく。
「何かが、起ころうとしている」
 クレーメックは、本隊が黒羊郷に近付きつつあることを願い、一足先、黒羊郷を離れることとした。
 あの地下ルートは調べようによっては、遠征軍の侵入ルートに使えるかもしれない。クレーメックはもちろん、遠征がただの遠征でないだろうこともすでに感じ取り、軍略を巡らせ始めてもいた。
「では、ジーベック」「ここは俺たちに任せな」
「ああ、では互いに無事で再び会えるよう」
 三人は、そう誓い、互いの行動に移った。



3-04 黒羊郷(3)

「久しぶりに拙者の出番でござるな!」
 (グランドシナリオ2回目(におけるドージェへの敗北)以降、)教導団と主のもとを離れ、ヒラニプラの山奥へ修行に出ていた仙國 伐折羅(せんごく・ばざら)。彼はその帰途、黒羊郷の祭を聞き、立ち寄ることになる。まさか、前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)弓月 御法(ゆづき・みのり)もときを同じくしてそこに滞在していようとは思いもよらぬことであっただろうが。
 伐折羅が黒羊郷入りしたのは、少し以前のことになる。修行に出ていた間は、遠征軍のことも知らないし、風次郎よりももっと気ままな旅だ。しばらく滞在し、幾分あとに行われる祭でも見物してから、帰ろうかというつもりであった。そんな日々においても、常に自己鍛錬を心がける伐折羅のことだ。
「地下には、信徒らの修行区域があると聞く。ちょっと拙者もその修行に混ざってくるでござるか!」
 街では、普通に人々から黒羊郷にある地下の話が聞けた。だが、地下と言っても、それは何層にもわたるものらしく、最初の階層は、黒羊郷に住む信者の居住区や、訪れた者たちが宿泊する施設になっていたりする。ここには、一般の者でも立ち入ることはできるのだが……
 更に奥深くにあるという地下神殿は神聖な場所であり、一般の者はもちろん、信徒でも行き来が制限される。何か特別な儀式のあるときや、あるいは、そもそもが信仰の厚い者や修行を積んだ者でないと入れなかったり……。
 伐折羅は、純粋に修行がしたいのだと、せめて見学をと頼んだが断られ、しかしそれくらいで諦めるかと伐折羅は、隠れ身で身を隠すと、地下を進んでいった。彼が目にしたものは、゛これから起こる戦い゛のために、統制された戦術を教え込まれる多くの信徒たちの姿であった。
 彼らを指導する者らの話が聞こえてくる。
「この兵は、強くなるぞ。現在、寺院の方より借り受け黒羊兵としている者らよりな。この者たちは、死を恐れん」
「教導団の連中も、厳しい軍事訓練を積まされているというが、多くは学園生活にかまけておるような所詮はただの一般生徒。厳しい訓練を通り抜けた我ら信徒の兵の前には……」
 伐折羅は驚いた。「……何と。うむ。すぐにも風次郎殿のもとへ戻りたいところでござるが、もう少し真相を探る必要があるでござろう」
 伐折羅は更に、彼らの戦法を見極めるため、一時的に黒羊郷に帰依することとした。

 風次郎はと言うと、もちろん伐折羅が地下にいると知る由もなく、弓月と黒羊の街を巡り歩いていた。儀式は、間もなく行われる。
 集まる種族は多種多様。見たことのない人種もいる。
「賑やかなのはいいんだが、こういうところで一つ気がかりなのは、やはりテロや暴動の存在だな。
 空京のパレードでもテロが起こったように、その危険性はここにもあろうからな」
 殺気看破で常に周囲を警戒しつつ歩く風次郎。万一事が起こった際には、沈静化に努めようと思う。
 だが、もっともここは異郷の地。教導団という身分はばれないようにせねば。彼は刀一本だけを帯びて、事態に備える。
「黒羊、黒い羊……」
「む? どうかしたのか。御法」
「いえ、黒い羊のゆる族である黒羊 アンテロウム(くろひつじの・あんてろうむ)副官。ここは黒羊郷、そして今は千年祭。考えすぎかもしれませんが、私には何かつながりがあるように思われるのですが……」
「あー、すっかり忘れていたな。副官は今頃、何をしているんだろう」