リアクション
* 「そろそろ、かな」 「見て、門が」 「門が……も、もふも、っ……んぐんぐ、も、もう大丈夫ですからぁ。もふもふしませんー」 門が、開いた。 「いっちょ派手に行くかえー!」 砦付近の茂みから一斉に飛び出した、誤字姫ことセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)に、ミリィ・ラインド(みりぃ・らいんど)、ファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)、シャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)、月島 悠(つきしま・ゆう)、麻上 翼(まがみ・つばさ)、我らが【ぶちぬこ隊】!! それに、そこには見慣れない獣人やヴァルキリーの姿も見える。ともあれ、疾風怒濤に飛び出した、ぶちぬこ隊の戦い振りを追うことにする。 開いた門からは、すぐに兵どもがわき出てくるが「な、何が起こった?」「敵は、敵は何処だ? あっ」セシリアの両手にはすでに、ファイアストーム準備万端。「きゃー」「いやー」解き放たれた炎の嵐が門ごとぶっ飛ばす。 「ぶちぬこ隊ーーー!!」 「にゃー」「にゃー」「にゃー」 茂みから次々続くぶちぬこぶちぬこ。更に、 「はーっはっは! 教導団の超新星! ラッキー・スター(らっきー・すたー)ただ今参上! 僕が来たからには黒羊のヤローなんざ、お空の彼方へ場外KOさようならさっ!!」 ……OK、じゃ、何をすればいいのかな? 僕にも手伝えることはあるかなっ!? っと、それはさっき打ち合わせたな。 まだ、まだ敵は出てくる。「教導団?」「な、なんだと?!」 「よしっ、じゃあもう一発食らわしてやるぜぇ」 手に持つ巨大な光条兵器゛ヘブンズゲート゛は、光の弾を発射する大砲だ。 「放てっ! ヘブンズゲート!!」 どーん「もう一発だ!」どーん。大破した門に、月島に率いられぶちぬこたち、10匹、20匹と駆け込んでいく。「にゃー」「おらー」「ぶっころす!」 月島はすでに、軍人モード(乙女モード解除)だ。 「よーし、もふもふ突ー撃ーー!!」 シャーロットも、ぶちぬこ第二波を率いて続く。「もふもふー」「もふもふにゃー」「ぶっころす!」 まだまだわき出る敵勢を、押し戻し、ふみつけふみつけ、突入していく。 セシリア、ミリィ、ファルチェも走る。 「誤字神様の誤加誤の下に! 全軍突撃ー!!」 砦に入った麻上は、混乱する兵、兵のなか叫ぶ。 「この砦に誤字の神、セシリア・ファフレータ様が誤降臨なされたぞー!」 ぬこたちも、誤字神に授けられた知恵をありったけ叫ぶ。 「げぇ、教導団のぱるぼんのわなにゃー!」「いや、教導団のきりん・せーかがねこになって分裂したにゃー!」 シャーロットも、叫ぶ。 「あ、あそこにすごいもふもふがっ!」 「ど、どこにゃ!」「おれのにゃ!」「おれがみつけたにゃ!」 城内は早、大混乱に陥った。 「はーっはっはっは!!」 めらめらと燃え盛る門前では、ラッキースターが、燃えてゆく砦の門や壁を更にテッテ的に破壊している。そんな彼の横では、鋼に全身を包んだメカニカルなコーデリア・ナイツ(こーでりあ・ないつ)が、周囲の状況を黙々と分析している。「おっ? どうした、コーデリア。そうか、もうここは破壊しつくしたようだな。僕たちも中へ!」 * しゅたっ。門の脇の外壁に下り立ち、駆けるヴァルキリー。 「いぃぃやっほぉぉいぃ!!」 集まり出した(いや、すでに炎上した門上から逃げつつある)敵弓兵を、剣術と格闘技が入り混じったような戦法で、打ち払い、蹴り落としていく。 「俺様此処に参上ッ!!」 シュレイド・フリーウィンド(しゅれいど・ふりーうぃんど)だ。 「いぃぃやっほぉぉいぃ!!」 ばし、ばし。「ぎゃ!」「うあ!」 「今だッ! 俺は鳥になるッ!!」 「ちょ、ちょっと危ないよ!」 意味不明な言動に走ったシュレイドを狙った弓兵に、反対の壁から放たれた矢がその手を撃ち退ける。 「ヴァレナセレダ、ハルモニアの名にかけて、ね! 油断しちゃだめよ(というか、言ってることが危ないから……)」 ハルモニア・ニケもぶちぬこ隊の砦攻めに参戦している。 「ありがとうよ! ヴァレナ……セレダねぇ。どーっかで聞いたような、はて? っと今は、とにかく、目の前の敵を倒すってこと! だな。いぃやっほぉぉい!!」 シュレイド、彼はレイディスの新しいパートナーとなった記憶喪失のヴァルキリーだ。 「お、下の方も派手にやってるな」 * 「きゃははははは、見ろ砦がゴミのようじゃ!」 ラッキースターと共に、兵舎、保管庫と焼き払い、灰にしていくセシリア(状態:ハイ)。 「おねーちゃん、それ砦に対して言う台詞じゃないと思う……」 「げぇ、教導団のひげのおっさんきたにゃー!」「いや、教導団のきりん・せーかが分裂してねこになったにゃー!」「れーぢえにゃ。きたにゃ!」 「ミリィ!」 「あ、うんっ。えーと……なんだってー! なんだってー!」 あちこち爆破され、其処ここで砦は炎上。逃げ惑い、戸惑う黒羊兵ら。 「何故教導団がここまで?」「いや、見るのは猫の姿ばかり。ゆる族の兵というよりは、追い剥ぎのようなやつらだぞ」「流言だ」「だが、確かに軍服姿も見かけた、という者がおる」「いずれにせよ、もうこの砦は駄目だ……」「とにかく、ここからいちばん近い軍に知らせに行くべし」「今はどの部隊も忙しいだろ。黒羊郷へ……」 シャーロットが来た。目つきが……ヤバイ。 「……モ○プチゴールド」 と言って、機関銃を出した。 だららららららら 「きゃー」「いやー、こ、ここはもう駄目だ!」 そんな様子を覗きつつ、恐る恐る砦の中庭を抜けていくのは、桐生 ひな(きりゅう・ひな)。殺気看破をしてきたら、逆にシャーロットのところへ引き寄せられたようだ。「シャロさん……」 「もし当たったらゴメンネ! ……モ○プチゴールド」 ぱららららら 「きゃー、いやー! さぁ、い、今のうち(?)に一気に行きますよっ。 ってお願い当てないでーっ」 桐生は走った。砦を抜けて先行偵察。それが今回の桐生の任務。5匹のぬこも一緒だ。「ぬこあし、しのびあしにゃ」「ゆっくりゆっくりみつかるなにゃ」 「は、早くぬこさんっ、今は、一気にづばーんですっ」 「いまにゃ、いっきにづばーんにゃ」「いっきにづばーんにゃ」「づばーんにゃっ」 「……モ○プチゴールド」 だららららぱららららら 「あーん」「いやーんにゃ」 こうして桐生とぬこ5匹は無事?砦を抜けた。 * 「教導団に敵対する勢力は、見逃すわけにはいかない!」 砦の奥へ敵を追い詰めていく、月島。 久々の光条兵器ガトリング砲を、ヒロイックドラゴンアーツの怪力でぶっ乱射する。ぱうぱうぼーん 黒羊兵はたまらない。逃げ場所も破壊。すべて破壊。 どうやら、乙女モードの反動で、軍人モードがより強力なものになっていると思われる。このままいくと、月島は……? そんな月島の隣には、麻上。麻上も、左腕ガトリング/右腕パイルバンカーの遠近両攻撃で、笑顔で敵をなぎ払っていく。もはや、このコンビに向かうところ敵なしか。 更に、今日最初に見慣れない……といった獣人。月島らの後方で、近接してくる敵を相手し彼女らの容赦ない射撃を援護している。ネル・ライト(ねる・らいと)。ゴールデンレトリバーを思わせる金髪に垂れ耳、フサフサ尻尾の犬系獣人だ。おっぱいが大きい。「はっ」超感覚で、麻上を背後の壁影から狙う敵発見。すかさず。脚のホルスターに差したリターニングダガーが、敵の手を突いて戻ってくる。 「ええい、これじゃやられっぱなしだ! あのおっぱいの大きい犬をつかまえろ」 「私(わたくし)、簡単には捕まりませんわよ」 「くー、手も足も出ん……おい、ここは退け、退けーっ。ぎゃっ」 反対側からも、スプレーショットが敵勢を襲う。 ぶちぬこを率いたファルチェも、別方向から敵を追詰めて来た。 「向こうに撃ってください。道中の訓練の成果に期待しています。 あっ。月島さんたちも、こちらへ……いよいよ、砦攻めも、大詰めのようですね」 * 「ふふふ。燃えている……砦が燃えている。計略通り。ふふふ」 砦から少し離れた森の中。 黒い笑みを湛える、御凪 真人(みなぎ・まこと)。「策は始まってますから、今は暇なんですよ」 「御凪様……」 その傍ら、今、ぶちぬこ隊のなかで、わりと冷静でいるのはナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)だけか? そこへ、 「いたぞ!」 軍馬。数騎、駆けてきたのは、どうやら黒羊の弓騎兵団だ。 「砦に攻め入ったやつら、どうにもプロの戦闘集団だ。後方で指揮してるやつがいると思ったら、やはりな。 よし、こいつらを叩けば、砦攻めのやつらも退かざるを得ん。やってしまえ!」 「そのためにあたしらがいたわけさね」 フィーネ・ヴァンスレー(ふぃーね・う゛ぁんすれー)が、こうでなくちゃと少し嬉しそうに大剣を構える。 「元傭兵が、姫様を守る騎士もどきかいと思っていたけれど、これでこそ留守番しがいもあったってものさね!」 剣の腹で、馬上から兵らを叩き落とす。 「逢様! 私たちも」 「ナナ様。どうか、気を付けて」 ナナと音羽 逢(おとわ・あい)は、馬車の護衛として、姫の乗る車を死守せんと立ちはだかる。その脇に、老ヴァルキリーの姿も。「まだこの腕は衰えてはおらぬ」 御凪も、素早い動きで敵の攻撃を交わしつつ、打ち合う。 「む、ディテクトエビルが後ろに反応している……!」 馬車の後方から、捕虜になっていた黒羊兵らも、この機を逃さぬと縄を強引に振りほどきながら襲いかかってくる。「お、おい! 馬車を狙え、中央の馬車にこいつらの重要人物がいる!!」 ひゅんひゅん。遠巻きにしていた弓騎兵のボウガンが来る。 「姫様。ええい! うぐっ」 「あ、老騎士様!」 老騎士が盾で塞ぎきれない分を肩で受けた。 ナナ、逢が次の射撃の来る前に飛びかかり、敵を落馬させる。 最後の一騎が転回してくる。 「西の砦副将、ザライトゥフ。我輩の矢は、千里先の針の穴をも通す。 馬車のなかに幼き影見たり。その可愛き心の臓に我輩が止めを刺すことを神よ許し給へ!」 ひゅんっ。 「させないよ!」 フィーネが剣の腹で矢を受ける。 「何と!」 「幼い姫様直に狙おうなんざ卑劣な野郎さね? ぶちぬこ隊が一人、フィーネ・ヴァンスレー。姫さんにゃ指一本触れさせないよっ!」 「我輩が、一介の傭兵ふぜいに負けるだと、これは夢だ!」 敵はボウガンを捨て銀の剣を抜いた。剣を構えたフィーネと、馳せ違う。 「我輩、ぐゎっ」 ふっ飛ぶ。 「レイディスが血を好まないからね。最近はあたしもこんな戦い方さ」 ざっ。フィーネは大剣を地に突き刺した。 * 砦の上階。 ここには、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)、ルーセスカ・フォスネリア(るーせすか・ふぉすねりあ)が達していた。 そう。冒頭を思い出していただきたい。最初、フック付ロープをもって砦をよじ登り、ぬこと手分けして門の施錠装置を探し空けさせたのは、彼であった。れおにゃを筆頭としたぬこ集団は、砦の各部屋を占拠している。 「いぃぃやっほぉぉいぃ! レイディス」 「シュレイド」 ヴァルキリーのシュレイドも追いつく。 「ニケは、囚われていた教導のやつを、外へ連れ出したぜ!」 「教導団の?」 「おっと、レイディス!」「しろぼさちゃん、前、前!」 近衛兵だ。十名近くはいる。おそらく手練。 「こいつらは任せな! 行くぜぃ、熊の姉御。って、あれ?」 「動くな、口を開くな。わかったら武器捨てて、両手で頭かかえて倒れてなさい」 「ひ、ひぃぃ」 すでに、敵の頭に銃口突きつけていた。 「は、早ぇ……。おっ、こっちからも来やがったな。よし……いぃぃやっほぉぉいぃ!!」 レイディスは、最奥を目指す。 「俺は蒼空の剣士、レイディス・アルフェインッ! ここの頭は何処だっ、一戦交えやがれ!!」 「お、おい!」 「……! 来たか」 どかどかと駆け寄ってくる、黒甲冑の巨体。どしーん、鉄球を床に叩きつける。 「き、貴様らぁぁこの俺の守る砦で、すき放題暴れてくれやがってぇぇ。 く、く、く。こうなってはもう我らの新しき神に合わせる顔もない。貴様らごと、砦と心中してくれるわ!」 レイディスは、剣を引き抜いて両手でしっかり柄を持ち、構える。 「黒羊軍の将ゴ−ランドラ!」 重々しい鉄球を軽く一振り、二振りすると、思わぬ速さでレイディス目掛けて振り下ろしてきた。すぐ、二つ目の鉄球が来る。 「はぁはははぁー避けるばかりかな? 小僧ーーーぉ!!」 砦の壁が、床が、見る間に破壊されていく。 びゅん。「おぉら!」びゅん!「ほらぁ、はぁっはー!!」 レイディスは、溜め込んでいた力を、爆炎波で放つ。相手が目を覆うとすかさず間合いへ飛び込んだ。「雷光一閃ッ!」 轟雷閃の光が一瞬、一室にほとばしり、そのあと敵将はがらりと崩れ落ちた。 「敵将、討ち取った!!」 1-04 ハルモニア到着。そして 燃え上がる砦。 わずか、半刻ばかりの戦いであった。勝ち鬨が上がる。恐るべし、ぶちぬこ隊。 敵は、討たれたか逃げ散ってもうここに姿はない。 そこへ、一頭の騎狼が駆けつける。 その上には、教導団のルイス、サクラ、ユウ(メイド)の姿が。騎狼を駆るのは、蒼空学園の菅野 葉月だ。 ぶちねこ隊が到着する前、抜けようとしていた砦でいざこざの起こっているのを見た菅野、久多は、これを機と、一気に騎狼で突っ切ったのだった。するとそこで教導団の三人を拾い物、いや、助け上げることとなった。 騎狼でひた駆けたこともあり、黒羊兵の追っ手は追いついてこなかった。しばらく潜んでいたところ、砦で炎が上がり、多数兵が逃げてくるの見、やがて砦が何者かに陥落させられたようだと知った次第だ。 今もうほとんどが炎に覆われ、焼け落ちていく、砦……。 「マリー? え?」 「あの砦には、マリーが囚われていた……」 「……」「……」「……」 「冥福を祈ろう」 ロボの安否も心配されたが…… 森の方から、ニケが出てくる。連れているのは…… 「囚われていた教導団の者というのは?」 「ええ。この方が、教導団の仲間がいると」 「ロボ!? ぶ、無事でしたか」 「ああ。すまない。撹乱できたまではよかったが、抜け出せなかったな。俺のことは気にせず行ってくれてよかったんだが……余計な手間をかけさせてしまった」 ロボは、詫びた。 「ロボ、それでマリーを見ませんでしたか? 囚われたと……」 「ああ。マリーは、砦に着くや、敵将に挑みかかったがほぼ無抵抗で囚われてしまった。牢屋の位置は掴んでいたのだが(まさか俺も囚われるとは思わなかったが)、警備は厚かった。俺がそこに入れられたとき、すでにマリーの姿はなかった」 * こちらは、ぶちぬこ隊から先行偵察の任で砦を抜けた桐生ひな。 砦を抜けしばらく進むと、黒羊郷とヴァレナセレダ最初の土地ハルモニアへの分かれ道があり、ハルモニアへ向け足を踏み入れた。 またしばらく経つと、後方から、ばたばたと駆けてくる足音が聞こえる。 「え? ど、どうしたことでしょうかっ?」 「とりあえずかくれとくにゃ」「ひなこっちにゃ」 「え? あ、はいー」 木陰に隠れてみると、先ほどの砦の方角から逃げてくる、黒羊の兵らである。 「何故、ハルモニアへ逃げてくるのでしょう??」 そのまま木陰から木陰へ、敵に気を付けながら先へ先へ進むと、後から後から逃げてくる兵の他にも、黒羊兵の姿が増え始め、ごったがえし始めた。 「えー? いつの間に、こんなにたくさんっ。ちょっとまずいではないですか。私たち、戻るに戻れなく……」 「とりあえずかくれとくにゃ」「おやすみにゃ」 「ぬこさん、ぬこさんっ」 増え続ける黒羊兵に混じって、その中を慌しく行き来する黒ローブの巡礼の姿も見える。 「あれ、巡礼さんまで。あ、わかりましたっ。私たちが間違えて、黒羊郷の方へ来てしまっ……ええ、だけど確かに確かに、ハルモニアこっちって書いてありましたし、北へ北へ進んできた筈ですが……」 ばたばたする巡礼の中に、獣人の姿も見える。 その獣人が背負っている手負の獣人の顔をちらりと見ると、桐生は、はっとし、 「巡礼さん、巡礼さん、こっち。こっち」 「いいのかにゃ」 木陰に招き寄せた。獣人と、小さな巡礼たちが、黒羊兵の合い間を縫って、ささっと駆け寄ってきた。 「その妹タヌキさん、見かけたことがあります」 「ああ、俺たちは、教導団の者だ。蒼空学園の者が、何故ここに?」 ここにようやく、(朝霧ら)騎凛一行は、自分たちの旅立ったあと間もなく、遠征軍が黒羊郷へ派遣されたのだという事実を知ることとなった。(が、ぶちぬこ隊は三日月湖の情勢までは知らない。桐生も戦いのあった間は眠っていたので。) 「私たちも遠征に付いて行ったのですが、遅れての旅の途中、ハルモニアの方々を救うこととなり、護衛しながらヴァレナセレダを目指していたのです。 その……遠征軍の傭兵の仕事はほっぽらかしてきたことになりますね……っ」 「あの兵たちは何だ?」 「ええ。後ろから逃げてきた兵については、ぶちぬこ隊が砦を攻めたからで、今頃もう落としているかも知れません。 でも、それだけじゃないみたいですけど……?」 「ああ。俺たちも、わからないんだ。ハルモニアを目指していたら、後ろからきたのは追っ手がかかったのかと、ユウらに何かあったのかと思ったが、やり過ごしているうち、前の方からもわいてきたみたいで、ということは……」 朝霧、桐生らは、注意しつつ尚、先へ進んでみることする。 危険だから、騎凛先生はここで少し待っていてもらおうということになった。騎凛は前にも増してつらそうなのだが、何ともならない状況になってきた。カナリーが、その場に残る。 そして、不安は的中した。更に先で見たものは、ハルモニアに侵攻する黒羊の軍勢であった。ハルモニアはすでに壊滅寸前の状態にあり、奥地へと退きつつ戦いの渦中にあり。ヴァレナセレダは存亡の危機にさらされている状態であったのだ。 桐生は、すぐに戻ってぶちぬこ隊の皆にこれを知らせることとなる。 ヴァレナセレダを攻める黒羊の大将は、関所の陥落を聞き、援軍を差し向け、ぶちぬこ隊は更に一戦を交えることになる。だが、ぶちぬこ隊は強かった。敵援軍を破り、ハルモニアへ駆け付けたぶちぬこ隊は、黒羊の軍勢を押して、退きつつあるヴァレナセレダ側へ合流。ヴァシャの姫が帰還したことに士気を持ち直したヴァレナセレダ。ぶちぬこ隊は、対黒羊侵攻軍の主力部隊として、この地に留まることとなったのであった。 1-05 サミュエルとレーヂエの旅 「わぁぁぁん!! それレーヂエにあげるお弁当だったのニ! 許さナイ!」 雪の中、サミュエルが開けたお弁当を横から奪い貪り食う獣人。土着の者たちだろうか。とかいう間に、 「アレ……? もう倒れてる……? 流石レーヂエ!(謎)」 「う、う゛……サミュ……」 レーヂエも倒れている。 「レーヂエェ!! 本当に許さナイ! レーヂエをやったの、誰ダ!」 周囲を取り囲む獣人らの中から、年寄ったのが一人、出てくる。 「……すまぬ。この時期、我等も腹をすかしておる。若いのが、失礼致した」 彼ら、黒い狼型の獣人らの、長らしい。 「その御仁。寒さで倒れたようじゃの。まあ、それはそうじゃ。このようなところに人が来るなど」 「?? ここドコ?」 「ぐ、ぐわっ。それより、オマエこそ、な、何をオレに食わした!!」 「エ……(勝手に奪って食べたクセに。) エーと、ヴァレンタイン風イチゴチョココーティングの梅干おにぎりでしょ、それに、グレープフルーツの炊き込みご飯おにぎり等」(美味しそうです(今唯)) 「……」「……」「……」 「……。サ、サミュ……」 「あぁ、レーヂエェ! ダイジョウブ??」 「まあ、とにかく、樹の中にあるわしらのねぐらへ案内しよう。先ほどの失礼の詫びじゃ」 * 火にあたり、温まるサミュエル、レーヂエ。 黒狼らのもてなしを受ける。 「黒か……もしかして、黒羊郷の仲間?」 「いや、そういうわけでもないさ。わしらはただこのへんに住んでおる民じゃ。 わしらのような辺境の民々の多くは、黒羊郷の戦いに加勢すると言っておるが、戦争は嫌いじゃ。いや、他の部族にしても、そうじゃろうな。だが、軍事を行う教導団がこれ以上、我々のヒラニプラに居座るのをよしとしない者は多いのだ。戦ってでも追い払おうという者は多い。じゃが、それでは……」 「教導団、追い払ウ……」 暗い眼差しで、揺れる火を見つめるサミュエル。レーヂエも、ただ静かにスープを啜っている。 「おぬしら、教導団……なのじゃな。黒羊郷へ向かっておったのか」 「エ、エっと……」 「ああ。そうだ。すまぬな、じきに出て行く。何か、礼はしたいところだが……」 「レーヂエ……」 「はは、いいのじゃ。このような状況下にあっては、教導団も何もない。わしは何も言わん。ゆっくり休んでいくがよい」 「わるいな。しかし、美味いスープだ。食糧もあまりないという時期に、申し訳ないことだ」 「ウン、オイシイ!」 「スープくらいなら、あるさ。まだおかわりもある」 「オカワリ! ……いいのかナ?」 「おぅ、俺もだ」 * 翌日、雪も小降りになった中を、二人は出発した。長は、黒羊郷への道を教えてくれた。さほど、外れたわけではなかった。どこかで一本、山道へそれてしまったのだ。 山の方から下りてくると、雪はもう降っていなかったが、街道に薄く雪は積もっていた。 サミュエル、レーヂエは、焼け果てた砦の跡を越えることになる。 |
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