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黒羊郷探訪(第3回/全3回)

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黒羊郷探訪(第3回/全3回)

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第1章 ヴァレナセレダの存亡

 ヴァレナセレダをまっしぐらに目指す、ぶちぬこ隊!
 隊列を組んで、道を行く。
 道については、ぶちぬこ隊・隊長の御凪 真人(みなぎ・まこと)に、ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)が話し合っている様子だ。
 ナナは、捕虜とした黒羊兵と、ヴァシャ姫らの推奨ルートを照合する。ただ、それがどうも、一致しない部分がある。ナナも予想したように、ハルモニアに至る道には関門が敷かれている……のだが、黒羊兵らの言うそれと、ハルモニアの者らの示す位置が異なる。護衛らは、そんなところに関所などなかった筈だと言うのだ。それを聞くと、捕虜らは言葉を濁した。
 御凪はいぶかしむ。どうやら、すんなり通れそうになさそうだな。もし、そうだったら……ぶちぬこ隊ならどうする。


1-01 変装作戦

 山の影に入って休む騎凛先生一行。この二日、原因の不明の熱にうなされ、回復の兆の見えない騎凛 セイカ(きりん・せいか)
 そしてこの先には……
「黒羊旗、か……」
 最初の村で聞いた話を思い出してみても、地形から、黒羊郷へ至る一歩手前にまで来ているらしい。このあたりが、裏手に位置するハルモニアへの分岐点にもあたる筈なのだが、あるのは黒羊旗を掲げた砦。関所のように、立ちはだかっている。そこまでは、一本道しかない。
 付近に村はないし、騎凛を治療することもできない。このままでは……
「うーん。はあはあ……」
「騎凛先生……」
 ライゼ、ルゥが心配そうに騎凛を見守る。できる限りのことはしたのだが。
「仕方ない。あの砦を抜けますか」
 ユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)らは、三厳、サクラの二人に見張りを任せ、話し合っている。
「そうするしかありませんね。」
 ルイス・マーティン(るいす・まーてぃん)も神妙に、頷く。
「だけど、盗賊と黒羊郷とがつながっているってことがわかった今、そのまま抜けるのはまずいんだよな。俺たちが休んでいる間にも、盗賊の手の者が砦に入ったかもしれない」
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、捕えた盗賊を尋問した結果得られた情報から、そのことを危惧する。何故、盗賊勢力が黒羊郷とつながり、金品や食糧を流しているのか。捕虜は、それ以上のことはわからない、と言ったが、とうぜん何らの裏の事情がそこにはある筈だった。
「……」「……」「……」
 一同は考え込む。
 すると、あちらの方から、
「ハルモニアまでみんなを無事に届けたい、であります。みんなに届けワテの気持ち! ただし邪まー(よこしまー)!!」
「騎凛ちゃんが助かればカナリーはどうなってもいいよ、騎凛ちゃんが助かればカナリーはどうなってもいいよ、騎凛ちゃんが助かればマリちゃんがどーなってもいいかなっ?」
「……な、何だ?」「パートナー喧嘩ですかね?」「どうも舞台裏っぽい会話ですよ、ほら」
「そんなにどーまんと契約したいならカナリーは騎凛ちゃんと契約するよ。何が「改心しろだなんて言いませんぞ。ワテに付いてこれば今よりずーっと面白い暮らしを約束してやりましょう。」だよ。マリちゃんのバカぁッ!」
「あ、カ、カナリー。待つであります!」
「……」「……」「……」
 マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)が来た。
「……みんな、どうしたでありますか?
 砦を抜けるのでありますね。さあ、ワテに任せて頂きたい。みんながするりと砦を抜けられるよう、このワテが先に一騒ぎ起こしといたるであります」
「いいのか?」
 少しマリーを心配するように、朝霧。
「それに、カナリーさんはどうするのです」
 ユウは、騎凛を看病するライゼ、ルゥらのところに寄って肩をふるふる泣き顔になっているカナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)の方を示して言った。
「さあ……カナリーのことなぞ知らんでありますぞっ。ワテは、ハルモニアまでみんなを無事に届けたい。
 ハァァ! みんなに届けワテの気持ち!!」
「マ、マリー殿……」
「それから、その台詞。さっき、邪まー! とか語尾についていませんでしたか? 僕は聞き逃しませんでしたよ」
「騎士ルイス!!」
「なっ、……何ですか」
「……みんなのことを頼んだでありますぞ」
 マリーは、ルイスの肩をぽん、と叩くと、一人、山を出て歩いて行った。
「……マリー」「マリー殿」
 しばらく見つめる朝霧とユウ。
「なんなのでしょうね、全く。仕方ありませんね。ロボ!」
 ざっ。
 ルイスが呼ぶとすぐ、片目に傷のある獣人が姿を現した。
「おそらく、状況からすると、ただで砦を抜けることはできないのでしょう。それに、軍師マリーも心配です」
 ルイスは、ロボ・カランポー(ろぼ・からんぽー)に手早く話を渡す。
「……ふむ。早々に無茶な仕事を振ってくれるな。今回の雇い主は」
 ロボはしかし、とくに表情を変えることもなくそうつぶやくと、マリーと同じく砦へ続く方角へと走り去っていった。
「さて……マリー殿も行ったことですし、自分たちもゆっくりはしていられませんね。このままマリー殿にまかせるだけでいいものか」
「ユウ!」
 ルゥ・ヴェルニア(るぅ・う゛ぇるにあ)が、ユウの前に立つ。
「な、何ですか? どうしまた、ルゥ」
「決まってるじゃないですか。こういうときは、変装ですよ」
「へ……?」
「ああ、そうだろうな。俺もそう思ってたんだ」
 砦を抜けるための、変装作戦だ。
「うん、決まりですね。では早速、各々準備致すとしましょう」
「ユウはもちろん、女装ですよ」「ユウは女装で」「ユウさんは女装に決まってますよね?」
「へ……」
「えっ。そんな、ユウがかわいそ」柳生 三厳(やぎゅう・みつよし)が言う間もなく、ユウはルゥによって茂みの奥へ引きずられていくのだった。
「よし。じゃあ、セイカは俺にまかせな」
「僕はどうしようなあ……。何だか、楽しくていいですね」
「だな」
「た、楽しくありませんよっ。作戦を変更しましょう、皆さん、ああ、こら、ルゥ!」
「ははは。今更、作戦変更なんてできないよな」「ええ。ユウさん、楽しんでいきましょう」
「あーんユウが……ユウが〜」泣く三厳。



 10分程後。
 ちゃららんりーん(何の効果音)
「……」
「おぉーユウ……綺麗じゃないか」「きゃー、ユウさん……ぽ(ルイス)」
「ルゥのメイクは完璧ですから☆」
 三厳は、「無力なボクを許してね」と、涙ながらに合掌。
「今回は、メイド服(朝霧さんの?)にしてみました」
 ユウ、「……(でもちょっと似合ってるかもと自分でも」
「で、俺の方はというと、既存の服をビキニにしてみた。これで超感覚で耳としっぽを生やして、獣人だ」朝霧も、獣人と契約を結んでいる。「セイカの方は、帽子と服は脱がして、ワンピース仕立てにして、SPルージュで雰囲気変えて、俺の妹ということで。
 おっ。このセイカ……可愛い」
「はあ、はあ……」
「垂、騎凛先生苦しそうだよ。それどころじゃないっ」
 ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)は、ジャタ族の衣装に、ブラックコートを巡礼風に。この時期、黒羊郷に行く巡礼が見られることは村で聞けた話だった。
 ライゼは、騎凛にヒールとキュアポイゾンを使う。サクラ・フォースター(さくら・ふぉーすたー)も、ナーシングで応急処置を施し、何とか騎凛を、一時的にでも歩ける状態にした。
「騎凛先生。つらいでしょうけど、今しばし……」
 サクラは、ルイスとセットで巡礼に付き従う護衛に扮装。「流しの武芸者が傭兵をやってる、といったところでしょうか?」
「僕は、徒手の武僧として振る舞いますよ」ルイスは、顔までよごして気合が入っている。
 三厳、ルゥ、カナリー、それもグレゴリアも、ライゼ同様、巡礼の姿。
「わしとて聖職者の端くれよ。生前はトゥールからローマまで歩きに歩いたものだ」しかしグレゴリア・フローレンス(ぐれごりあ・ふろーれんす)は自らの格好を少し見返し、「……ううむ、それにしてもこの黒ローブ、異端っぽい……神よ許し給え」
 ともかくこれで、基本的には巡礼の(女の子)一行にその護衛、ビキニとワンピースの獣人姉妹、そしてメイド……という具合になった。……だ、大丈夫か。
 ユウ、「…………(もしかしたら自分、けっこういけるかもと」



1-02 ヴァレナセレダへ向かうそれぞれ

 騎凛らの居所から、そう遠くはない山の一角。
 盗賊の網を逃れた菅野 葉月(すがの・はづき)が、小さく火を焚いている。この辺りの山の夜は、随分冷える。一時は、幾らか雪もちらついていた。あ、それからミーナに言わせると、変なのも一緒に拾ってきてしまったのだけど……。
「すまなかった。俺は行こうと思う(騎凛のもとへ)。では、菅野、ありがとう……」
 久多 隆光(くた・たかみつ)だ。
 グランドシナリオの後、盗賊のところに身をくらませていた(その後の急展開は本シナリオ第二回参照)。
「あ、そうなんだ。頑張って騎凛先生と一緒になってね、久多さん。じゃあね」ばいばい、という感じでミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)
「……」
「ミ、ミーナ……! えっと……久多さん。僕はこの先の地理には詳しくないから、盗賊の仲間になっていた久多さんに案内してもらえると、ありがたいのですが?」
「ええー……(葉月と二人がいいよー)」
「……ああ、そうしたいところ、そうするべきだろうが、そっちの魔女さんのこともあるし」
「久多さん。えっと、さっき僕の、む」(前回18頁参照)
「わ、わかった」
「葉月はワタシのもの! 近づく虫は駆除に限るよね!」
「……」ど、どうしろと……。うううっ、最近、苦い思いが多すぎるぞ。これは、俺にとってのいかなる試練なのか。だけど、だけど俺はこれを乗り切って、必ず騎凛に会う! 俺は、決めたんだ。俺は騎凛に……騎凛に……
「おーい、クターーー!」「おい、火のにおいがしねぇか。こっちだ!」「教導のやつら、まだ、このへんをうろついてやがるか」
「は、葉月」
「ええ、ゆっくりしてられないですね。騎狼でこれだけ駆けてるっていうのに」
 菅野はぱぱっと火を消して、立ち上がった。
「……ああ。この辺りの山一帯は、盗賊の庭みたいなもんだから。
 案内するぜ。俺も一刻も早く、……騎凛に会いたいし。ともかくこの先に、砦がある。そこをどう抜けるかだ」



 さあ、ここはその黒羊旗の立つ砦。その入り口の前で。
「見てわからないのか? こいつ等はタヌキの獣人だ。争いに巻き込まれて親を失ったから、うちで面倒を見てるんだ」
「はあ、はあ……」
「わかった、わかった、この辺には獣人どもが多いからな。ところでそのタヌキ?の獣人。顔が真っ青だが……」
「ああ。そうなんだ。千年祭に参加するために来たが、俺のこの妹が体調を崩してしまったため、ハルモニアにいる友人のところに寄りたい」
「ハルモニアに友人か。気の毒だが……いや、ともかく、ハルモニアには今は近付かぬ方がよい。千年祭を見に行くなら、黒羊郷にだって数多く寺院があるし、そこに行けば無料で診てくれるさ。それより……」
 門兵は、じろりと、こちらを見てくる。
「な、なにか……?」
「いや、おいその妹タヌキ、相当やばいんじゃないのか? 死にそうだぞ」
「はあはあ、はあはあ……」
「むう……。ここにも、砦付きの軍医はいる。幾らかの処置はできるだろ、ここで少し休んでいくといい」
 まずいな……朝霧、ルイスは、顔を見合わす。兵は、騎凛を運ぶため、人を呼ばせた。
「どうした?」
「あ、いや……数年ぶりに来たものだから、ハルモニアの最近の様子を……(ルイス、ルイスどうする?)」
「(交渉失敗とあらば仕方ありません。突破を図ります。そのためにロボを……。しかし、今少し待ちましょう)」
 ルイスは、携帯を握りしめている。一度鳴らせば、潜入しているロボが動く。
 砦から、数名が出てきた。出てくるや……
「! おい、そいつら」
「む、どうしかしたか。病人がいるのだ。手を貸して……」
「や、ちょっと待て。山の……」出てきた男は、声をひそめ、「……から連絡があったろ。この集団、数が一致しないか?」
「ああ、しかし……」兵らは、じろじろと、こちらを見てくる。
「ど、どうされましたの??」
 兵らはこぞって、ユウをじろじろ見ている。
「……ぽ」「ぽ」「ぽ」
「……ユウ……」三厳、再び合掌す。
「ごほん。……失礼、違ったな。男女の数が合わない。
 まあいい。教導の奴らの居所は、さっき捕えた弁髪ダリ髭の野郎に拷問くわえて吐かせてやるさ」
「!」「弁髪……」「ダリ髭……」
 マリーしかいない。
「ああ気にするな。こっちの話だ。
 さて、どうする。何なら、タヌキだけ残してって、あとは先に行ってもいいぜ?」
「お、おい!? なんだ、中で……」
「ん?」
 砦の硝子が次々に割れ、内部で騒動が起きている。
「はっ。ルイス……?」
「ええ、騎凛先生を置いていくわけにはいかないでしょう。
 朝霧さん、教官を頼みます。……少し蹴散らしていきますから」
 朝霧は、頷いた。ルイスは武器を取る。
「あっ、おいお前ら!」
 朝霧、騎凛を背負い、走る。小さな巡礼たちも、走る。
「自分も、騎凛先生を護りとおします。騎士として!」
 ユウ・メイドver.も剣を抜いた。
「おっ、このメイド?」
「こいつら怪しいぞ」
「おい、出口を固めろ!」
 出口では、
「たぁっ!」
 隠れ身で門の脇に身を潜めていた三厳が、兵を打ち払う。
「おのれっ」
 追おうとした兵に、ルイス、サクラ、ユウの三人が、立ちふさがる。
「貴様ら、何者だ!」
「食えれば仕事は何でもよかったのさ。このところの騒ぎには感謝してるぜ?
 ってわけで、ただの傭兵ですよ?」
 カン。黒羊の兵と打ち合う、ルイス。
 兵は、続々砦から出てくる。ロボは……無事逃げたか? 出口にも兵が出てきているが、もう朝霧らの姿は見えない。
「……うーん、軽く無双を要求されている気分ですね。実力が伴っているかは別として」
 奈落の鉄鎖を振り回し、チェインスマイトで攻めるサクラ。
「ルイス、そろそろバーストダッシュ(脱出)でしょうか?」
「ええ、それにしてもかなりの数。早く脱しないと取り囲まれ……ユウさん? ユウさん?!」
「はぁっ!」メイド姿で、敵のど真ん中で華麗に舞うユウ。
「もしでき得ることなら、わかっていたならロボに伝えて、マリー殿の捕らわれている位置だけでも見つけておければ……」
「だけど、あのマリーさんが捕らわれるとは一体何故……?」
 戦う三人のもとへ、敵兵をかき分け近付いてくる者があった。
「どけ、どけい! 私が黒羊郷、西の関所の守将ゴーランドラ。弁髪の次に血祭りに上げて欲しい奴らはどいつだ?」
「何?」
 黒光りする全身鎧の将。マリーを見上げる以上の巨体だ。……こいつが。黒鉄球を振り回し、ゆっくりにじり寄って来る。
「てぁっ!」ユウが、舞う。
「ユウさん、危険だ!」



「う゛う゛う゛……さ、さう゛いな。サミュ……。かか、帰るか?」
「ン? 何処に帰るのレーヂエ。ここ山の中だヨ」
「……だよな。う゛ーうう゛」
 雪降る山道を行く、サミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)(犬耳)とレーヂエ(猫耳)。
「あっためあおうカ?」
「……そ、そうか……?」
 雪。すでに、二人の肩にも頭にも降り積もってきている。
「ネエ、レーヂエ? ヴァレナセレダってどの辺かナ?」
「ヴァ・レ・ナ・セレ・ダ・・?」
「ウン。ヴァレナセレダ向かってるんだよネ。ハルモニアのあル……」
「……」「……」
 風が、とても冷たい。(犬)耳(も猫耳)も冷え切っている。
「……ここは何処だ? サミュ……」
「山の中……」
 ぴゅうぴゅう。ハックション。
「ふっふっふ」
「サミュ?」
「じつは宿でお弁当つくってきたのダ!!」
「……お、おお! そ、それはいいぞ。そろそろ、お昼の時間だものな」
「レーヂエ……今、真夜中だヨ」
「……」「……」
 辺りの真っ白い木々の合い間合い間から、見たこともない黒い獣人たちが、その様子を、目を鈍光らせて見つめている。