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黒羊郷探訪(第3回/全3回)

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黒羊郷探訪(第3回/全3回)

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終章

 三日月湖の戦いから数日。黒羊郷でいよいよ大規模な戦争の準備が整いつつあることを知らず、教導団の生徒らは、束の間の休息を取ることになる。
 旧オークスバレーからの援軍に続いて、物資・資金も届けられる。生徒には各々報奨(お小遣い?)が配られた。また、各部隊については兵を増員され、部隊としての活動のため幾らかの資金を得た。(第四師団では、以前のパルボン、ロンデハイネ、レーヂエら部隊長の率いた部隊に代わり・の位置に、仮的にではあるが、獅子小隊、ノイエ・シュテルン、騎狼部隊といった既存の・これまでの戦いで活躍してきた部隊が位置付けられることとなった。)(*三日月湖における個人の戦功では、イレブン、宇都宮、霧島、ジェイコブが採り上げられた。)
 しかしもちろん、本営チームを中心に、黒羊郷との戦いに備え、教導団側も三日月湖を軍事拠点として整えつつある。バンダロハムの復興や、それに行方不明者の捜索なども引き続き行われているところ。今回は、三日月湖の戦いと同時に、様々な事件が起こったのだった。偶然ではないかのように。そしてまた波紋を呼びそうなことは少しずつ、各所で起こりつつあるのだが……


7-01 騎狼部隊の休息とそれから

 三日月湖のほとりで、騎狼を休ませているイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)
 左腕を包帯で巻いている。ボテインを見事捕えた一騎打ちでの名誉の負傷であるが、そのボテインも人質交換の一件で討たれたのであった。敵は人質交換が済むと、グレタナシァのならず者どもを差し向けてきたらしい。それならばと、潜んでいた霧島が一撃のもとに狙撃を当てたのであった。もう一方の将メサルティムについては、偵察の報告にその名が聞かれたきりで、その後戦線で名が聞こえてくることがなかった。道満については、本国に一旦送還された……という噂が聞こえている。
 戦いは、これで終わりではないだろう。
 冷たい風が、頬を撫でる。近くには、パントルが残していった騎狼旗が、風に揺れている。
 パントルは、イレブンたちより一足先に、黒羊郷へ向かった。
 一足、先に……とは。
 それは、イレブンは、ここですでに独自の行動に移り始めているということの示唆でもあった。
 パントル・ラスコー(ぱんとる・らすこー)の残していった騎狼旗。
 騎狼部隊は……とうとう、広く認知される存在となった。ということもある。パントルが、そんな騎狼部隊のために、騎狼部隊の旗を作製したのだ。白地に、深い青色の狼の横顔が描かれている。(このデザインにはデゼルのアイデアも採用されている。)
 グロリアーナ・イルランド十四世(ぐろりあーな・いるらんどじゅうよんせい)は、戦後の会議の場で、騎狼部隊の活躍を強くアピールしていた。
 実際、オーク戦以降、予想外に、騎狼の存在は広く知れ渡るところとなり、旧オークスバレーではイレブンや一条らのかつての発言にもあった通り、騎狼産業が急速に発展しつつあり、教導団で公式に認められるものとなったのは、皆様もすでに周知のことかと思う。
 これは、第四師団や騎狼部隊の活躍によるものだと言える。
 ところで、前回これもイレブン・一条ら騎狼部隊員のアイデアによって登場した……
 ……騎オーク。
 おそらくこれはさすがに非公式のままだと思うが、
 デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)はエガオで、「騎オーク……イレブン、アリーセ、これにはオマエラが乗るんだよな」ゴゴゴゴゴ。
 乗り物としてではなく、戦いに使用できる訓練された騎狼はまだ多くはないので、騎狼を借り受けようという者らに対し考案されたのが、騎オークであり、前回の戦いにおいて、まさしく騎狼貸し出しを願った龍雷連隊にこの邪まなる乗り物が与えられるところとなったのだった。
 乗り物としての価値は騎狼に比べるべくもないのだが、龍雷連隊は浪人同様、貴重な乗り物として騎オークを大事に育てていくこととなる。
 龍雷連隊の草薙真矢(くさなぎ・まや)は、これを、走って戦える特別偵察兵゛アーク゛として使役したいと願い出ていた。
「感謝しているよ。(ちょっとくさいのりものだけど……)
 デゼルさんも、乗ってみる……? もともと、騎狼部隊から払い下げられたものだし」
「い、いや。だからオレは……」
 ということで、デゼルにも騎オークが還元されることになった。
「オォォク……! デゼル様……!」
「ハッハァー!! 乗り心地はイマイチだけどな……」
 その頃本営では、そんな騎狼部隊メンバーの各LC1が何やら悩んでいた。
「……嘘だっ!!」
 ルケト・ツーレ(るけと・つーれ)は、本陣をウロウロと歩き回り、……アレがそう簡単に死ぬか、というか、アレにはオレがトドメを刺すと……いや、仮にも軍の上司だから、その地位から落として……イヤイヤイヤ! そういうことを考えちゃダメだろ、でもコレまでの事を思えば……ぉぉぅあぅぉおおぉぉぉ……。と、何やら奇声を発しているいるのだが。
 そう、何かとちょっかいをかけてきたパルボン(アレ)なのだが、戦場から戻ったルケトに聞こえてきたのは、パルボン戦死の噂……少なくとも、行方不明になっている。パルボンが戦ったあたりはその後、炎に巻かれ全焼したあたりで、遺体は見つからないという。
 カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)も、同じく本営で腕組みして、やはり何からウーンと唸っている。
「撲殺寺院が黒羊郷に滅ぼされることになっていたなんて……。けれど、よく考えれば捕らわれている者もいる筈じゃない?
 こうしちゃいられないっ。イレブンに……ってみんな街で休息を取っているんだっけ」
 カッティの方はそう思うとすぐに立ち直った。カッティは辺りを見回す。というか、ここに残っているのはカッティとルケトだけだ。
「ルケトちゃん? どうしたの。恋のお悩み?」
「ア、アア。カッティ……な、何でもないんだ。恋だって? まっ、まさか(not恋心yes殺意)」
「外に出た方が悩みも晴れるかも。みんな街だって。行こうか」
「アア……そうだよな」



「るー☆」
 ルー・ラウファーダ(るー・らうふぁーだ)の頭の上にちょんこと座っている小さな龍は……
「キュー」
 クー・キューカー(くー・きゅーかー)。三日月湖から敵を追い払った翌日、北の森付近をデゼルが捜索していたとき、ルーが、近くの森から連れてきた。そのまま、デゼルの新しいパートナーに。
 カッティ、ルケトがやって来る。
「では、行こうか」
「あ、あれ? ……休暇はもう終わり?」
 浪人三人衆も、集まってくる。
 そう、この後、騎狼部隊の中心メンバーたるイレブンとデゼルは、戦で共に戦った少数の兵らを率い、謎の行動に出ることになる。
 彼らは、何故か独自に三日月湖を離れ、北へ向かったのであった。
 また、イレブンはこの途中、思わぬ人物と出会うことになる。
 黒羊郷を抜けて、本隊と合流すべく帰途にあったノイエ・シュテルンのクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)である。
 イレブンは、クレーメックに騎狼を貸し与え、クレーメックはこれによって、やっと本隊の駐屯する三日月湖へ帰れる目途が付くことになった。互いの情報を交換し合い、彼らは別れる。
 騎狼部隊は、クレーメックから話を聞いた後、黒羊郷がそのような状況であるなら、先に向かっているパントルによくよく注意するよう呼びかけるか(街にはノイエ・シュテルンのハインリヒやケーニッヒも潜伏している)、あるいは一旦呼び戻した方がいいのでは、との意見も出る。
 そこで、
「クッ」
 クーが手紙を持って先行することになった。
「るー☆ るーちゃん くー いっしょに いーきーたーいー!」
 クーと離れたくないルーであったが……
「いや、それはまずい。オレたちは、戦闘に出ている。ルーも含め、顔が割れている可能性があるから、な。却下だ」
 ひゅんっ。ぴし。「あっ痛ぇ……ルー、石投げたな」
「るー☆ しらない いし それちいさなこいし」
「コブシ大のが小石かよ……っ!」
 こうして、クーも一足先、パントルのいる黒羊郷へ向け飛び立った。「キュー」
 クレーメックは、一人、身を隠しながらここまで来たのだが、部隊で移動するとなれば、この先々は黒羊郷に同盟する国々が立ち並ぶ、無事たどり着けるのか、心配したが、彼らは……先の戦いで倒れた黒羊の兵から、その黒い鎧や外套などを奪い取っていた。これは、グロリアーナのもったいない精神が活かされたものであったのだが。
 この先、山や森を出なければならないようになれば、これが役に立つであろう。
 そして、騎狼部隊は、黒羊郷付近に到着すると、黒羊郷に入ることはせず、まずはその近辺に潜伏することになるのだ。
「群れを作れ、相棒達」
 イレブンらは、何と自らの騎狼たちに別れを告げ、見送る。
 騎狼部隊員らも、同じだ。
「今まで培った相棒との絆を信じろ。いずれ、集う」
 カッティは、今まで一緒だった騎狼をぎゅっと抱きしめる。騎狼もさみしそうだ。狼のおしりをぽん、と叩くと、
「怪我はしないようにね!」
 ちょっとだけ、バイバイ。と、手を振る。
 見えなくなっていく騎狼たち。
「名付けて゛狼山の計゛。この山が黒羊たちを取り囲む。時が経てば、羊は狼の胃袋の中だ」
 こうして、イレブンらは、カッティを偵察兵とし、その他の隊員は見つからないよう山陰や洞窟に陣取る。イレブンはまた同じように、隊員らの鳥(強盗鳥)も放した。
「じゃあ、オレはオレの行動に移るぜ」
 デゼルは、騎オークを連れ、言う。
 イレブンはデゼルを見て一言、
「頼んだ」
「ああ」
 二人の間には、確かな信頼が感じ取れた。
 この作戦は、何を意図したのか。しかし後に、黒羊郷を周辺とした各所で、砦や関所が謎の集団による襲撃を受けたり、他にも何やら黒羊の軍に対しよからぬ企みをしている潜伏者がいる……という噂が聞かれるようになる。



7-02 私は何処?

「私は何処? 何故、森の中に……」
「困ります。グロリア殿……」
 三日月湖の戦が終わり、ジャック、佐野らの援軍も無事到着した中、何故か森の中に迷い込んだ一隊があった。援軍のうち100を率いていたグロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)ら後軍がごっそりそのまま森の中へ迷い込んでしまったのだ。(ジャック&佐野「ジャック、佐野らの援軍も無事到着した中」→「無事到着してない!」)
「はっ。そうか遠征軍に合流する途中でしたね」
「グロリア殿。あっ、灯かりです。行ってみましょう!
 グ、グロリア殿……?」
「レイラ、レイラ!」
 機晶姫レイラ・リンジー(れいら・りんじー)の調子があまりよくなく、動作が若干、鈍っているらしい。
「……(No! No!)」
「あ、灯かりが近付いてきますぞ、グロリア殿。一つ、二つ、数も少ないし敵の部隊ということは」
「はっ。敵兵だ。でいっ」
 ひゅんひゅん。灯かりの方から声がして、飛んできたスパナ。
「あっ、痛!!」
「ああ、大丈夫ですか。兵の皆、敵襲です。陣形を組みましょう。ええ、こういう場合は……」
 灯かりが近付いてきた。
「あれ。教導団の部隊だね? どうして?」
 プリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)であった。
 もう一つの灯かりは、ジョーカー・オルジナ(じょーかー・おるじな)である。
「はい。新人士官候補生のグロリアです。実は、ジャックさん、佐野さんに続いて援軍のうち100を連れ後軍として付いていったところ、見失い、迷ってしまいまして……」
「なーんだ」
「温泉のプリモ女将ですね。あなたは、どうして……?」
「あっ、あたしは。……。
 なんであたしは森の中にいるの? はっ。そうか、騎凛先生に合流する途中だったよ。
 ……っていうわけ」
「ああ。なるほど。同じですね」
 全兵、「…………」
 そう言えば、宇喜多 直家(うきた・なおいえ)の姿が見えないのだが。彼はと言うと……プリモ不在の温泉を任され、山鬼の家で助けた女性らを女中として教育(だ、大丈夫か……)するため、旧オークスバレーへと戻っていったのであった(前回の被害状況については「佐野殿に請求するのじゃ」)。旧オークスバレー次回シリーズには、゛プリモ・スパ・リゾート゛が増設され、そこには゛四守護神の銅像゛が建っていたりすることになる……かも知れないが、それはまた別の物語、になる。……ともあれここはひとまず、
「まあ、あたしに任せてよっ。あたしがちゃんと導いてあげるから」
 兵、「ちょちょちょ、ちょっと待ってください。プリモ殿。さっき、なんであたしは森の中にいるのって……言ってませんでした? 我々をこの上一体まだ何処に導こうと……」
「気にしない、気にしない。さぁ、行くわよみんな」
「大丈夫。プリモに兵を束ねるのは無理っぽいから、戦闘時の指揮はワタシが責任を持って行う」
 オルジナが胸を張って言った。
「いや、たぶんそういう問題では……」
「さぁさぁ、こっちよ、みんな」
「あ、プリモさん……そっちは、私たちが今来た方向……」
「あっ、そうか。じゃあこっち」
「え。そっちは、プリモさんが歩いてきた方向……」
 全兵、「はあはあ。ここは何処だ? なんで我々は森の中にいるのだ??」
 レイラ、「……(No! No!)」
「レイラ、レイラ! プリモさん、何だか皆の頭が限界になってきたみたいです」
「やばいね。うーん。じゃあ、そっちでもこっちでもないあっちの方向へ行きましょう!」
「そうですね、そうですね」
「ワタシは知らんぞ……」
 こうして教導団の兵100もまた黒羊郷付近に潜伏することになる。

 更に……



7-03 弾けるおっぱい・沙鈴の旅

 画面いっぱいにおっぱいが映る。おっぱいが行く。
「どうせ顔なんて覚えてないんでしょ!(はぁと)」
 ここにもまた、独自の道を歩もうとする者が……。
 騎凛セイカの旧友にして、軍師候補として、遠征軍に加わっていた彼女。自らの判断で本営から距離を取り、沼人マーケットに潜入(第一回参照)。その後は、舟を借りるからという生徒に泣く泣くお金を貸すはめになったおっぱい先生として南臣の話の中に一瞬登場したが(第二回参照)実際にはしばらくその姿は見かけられなかった。
 第三回では、おっぱいだけになり、彼女は何処へ向かっているのか。
沙 鈴(しゃ・りん)さん、沙鈴さん。ちょっと、弾けすぎです……いや、おっぱいじゃなくて、アクションが……。その弾けっぷり、マリーさんじゃないんですから。あ、だからおっぱいが、じゃなくて……」
 だけど、綺羅 瑠璃(きら・るー)もまたおっぱいだけの姿になっている。
「うぅ、私は沙鈴さんやマリーさんみたいに武器にできる胸は持ち合わせてないのですが……え、貧乳趣味ですか……」
 潜入していた沼人マーケットが閉鎖になると、二人は更に深くに潜り込むことになる。
 ……ここは何処だろう……
 阿頼耶識(アラヤ識)の世界か。
 二組のおっぱいだけがゆらゆらと漂う。混沌となったかと思えば穏やかになったりしながら色を変え渦を巻き八変化する世界。ああ……なんだかあたたかい水の中にいるみたいだ。
「沙鈴サン……沙鈴サン……」
 おっぱい存在だけとなった沙鈴はどんどん先へ先へ流れていく。
 他方、同じようにおっぱい存在になると自らの(乳の)貧しさに戸惑い立ち尽くす瑠璃に、語りかけてくるものは何だ。
 し る し の女……?
 すると、瑠璃の視界に入り込んできたものは……また新しきおっぱいだ。でかい。魔的に。
 ああ、……何だか、遠い昔に見たことがあるような気が。
 ちょっと思い出せませんが、彼女と私はその昔、同じところにいたような……仲間……? ……いえ、あの胸では仲間のはずはありませんね。だけど……
 おっぱいが、おっぱいが流れていく。
 むしろ私が従属していた……? ……いえいえ、私が従うのは沙鈴さんだけです。……だけど……いえ、でも……胸の大きい人に従う定めを負っているのでしょうか……(いえ、大きければいいってものではないですよ、ただ……)…………なにか、琴線に触れる…………
 沙鈴のおっぱい(沙鈴)はもうどこかへ行ってしまった。
 瑠璃(のおっぱい)の隣に揺れているおっぱいは……そこに刻まれているその゛しるし゛は……
 ああ……意識が、私が、溶けていく……………………



7-04 マリーと道満

 黒羊郷。
 祭壇に座するジャレイラ・シェルタン。しるしの女。いや、今は黒羊郷の神となった女性。
 彼女の前に連れられてきたのは、
マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)
「ハァァ!!」
 そしてその隣には……
「この者、蘆屋道満(あしや・どうまん)――と新たに契約を結びし主となることを誓うのだな?」
「ハァァ!!」
 マリーは道満を向き直り、
「ふふり。これは定めであったようでありますな……!」
「……フ。その手の英霊珠がオレに共鳴している。そのようであるな」
 かくしてマリーと道満は禁断の契りを交わす。
 ジャレイラが立ち上がる。
「では、将軍マリーと軍師道満に、これよりヴァレナセレダ攻略を申し渡す!」
「ハァァ!! 行くでありますぞ、道満!」
「フッ。望む所。(今度こそはしくじらぬ。)」



7-05 騎凛たちのその後

 ヴァレナセレダ。すでに最初の地、ハルモニアの領土の大部は、黒羊軍によって占拠。ヴァレナセレダのヴァルキリーら一族は、戦えない民は奥地へ避難させ、ハルモニアに残る幾つかの城に、戦士たちが入った。その中に、ぶちぬこ隊もいることになるのだが……
「きゃっ」
「悠くんの成長具合は……もみもみ。まだ全然ですね。ネルさんを見習って……」
「あーん。いや。やめて」
 また完全乙女モードに戻っている月島
 ということは。
 しばらく、敵の攻撃の手は止んでいた。ということでもある。
「うゎーん、せしせしー、みんなにまた会えてよかったですっ」
 こんな会話も聞かれていた。セシリアをもふる、桐生ひな(きりゅう・ひな)。先行偵察に行き一時ぶちぬこ隊と離れ離れになったところで、騎凛と旅をしていた朝霧らと出会った彼女。ということはまた、もちろん、朝霧らも無事、ハルモニアに入り、ぶちぬこ隊と一緒になっていたユウ、ルイスと再会することができた。ということ。
 ユウには、更に思いがけぬ再会が待っている。
 ハルモニアに着いて数日。ハルモニアの最も北、三つ目の城に来たとき。
「ユウ!」
 見るなり、駆け寄ってくる、ルミナ・ヴァルキリー(るみな・う゛ぁるきりー)。何故、ルミナがここに?
 ユウに抱きつく。が、ユウはまだ女装したままだった。
「ユウ……。……え、っと。似合ってる」
「へ……」
 がくっ。膝を着くユウ。
「でもユウはなんで、ずっと女装したまま……むぐ?」朝霧の口を押さえ込むライゼ。「ユウさんにも複雑な思いがある筈」
 ルミナはルミナで、ルゥから旅先での温泉で裸の話とかを聞かされ。
 がくっ。膝を落としたままのユウのとなりに、膝を着くルミナ。
 三厳は顔が真っ赤だ。
 ともあれ、ヴァレナセレダはヴァルキリーの里。ルミナは、ヴァレナセレダの危機を直観して、ここへ来ていたということになる。レイディスのパートナー、シュレイドにしても、ヴァレナセレダの響きに何か共鳴を感じていた。
 騎狼の乗り手、菅野もそのまま、皆に同行――騎狼の後ろに、今度は(「久多さんじゃありませんよ」)、SNM9998995#騎凛}先生を乗せて。久多は、騎凛を雪の洞穴から運び出し、彼らを探していた仲間に合流した。カナリーも一緒だ。だけど、やけに神妙な久多と、それにカナリーもいつもと様子が違う。もちろん、カナリーはパートナーのマリーがいなくなったままなので、もっともかも知れないが。それにしても、何かあったのか。そして、騎狼の後ろに乗せられた騎凛。一時は熱も引いていたのだが……その後、意識を失った。ハルモニアに着いて、充分な手当てを受けても、騎凛の意識が戻ることはなかった。体温はあり、息もあるのだが……原因は、不明だった。
 眠っている騎凛の傍らには、今、朝霧 垂(あさぎり・しづり)がいる。朝霧の、騎凛を見つめる目には、今までの友情とは少し違う、何か……
「セイカ。俺が守ってやるからな。必ず、何とかしてセイカを……。……セイカ」
 朝霧は、騎凛の唇に、そっと……? ……
 また、サミュエル(犬耳)と共にハルモニア入りしたレーヂエは、病床にある騎凛に代わって生徒らの指揮を執る決意をする(できるのか)。
 数日後には、朝野姉妹がここを頼ってくる。黒羊郷の祭に行っていたという。黒羊郷に聞こえていたぶちぬこ隊の噂の中に、知己であるレイディスや月島の名を聞いたのだ。
 彼女ら自身は、祭の儀式に黒魔術的なものを期待していて、闇の機晶石(欠片)まで持っていったのだが……闇の機晶石には、まだ今は何も起こらなかった。もっとも、皆の関心のあったのは、黒羊郷や儀式のことなのだが。
 それは、未羅のメモリープロジェクターにしっかり保存されている。映し出された映像に、ショックを受ける皆。それに、神となった女性が手にしている黒い羊の首は。
 そして程なく、とうとう黒羊郷による本格的なヴァレナセレダ攻略が開始された、という報が皆のもとへも届くことになった。



7-06 マスカレード・チキン

 また、黒羊郷はヴァレナセレダに軍を送り込むと共に、教導団が軍事拠点とし駐屯する三日月湖にも、軍の第二波を送り込む。更に、第三波は……戦の女神ジャレイラ自身が率いるという。
 三日月湖動乱より、一週間程の後、敵の第二波は、黒羊郷側勢力グレタナシァの国境砦を拠点とし、三日月湖を攻めた。
 教導団にも、先の戦い以降旧オークスバレーから到着していた援軍が無傷で残っている。
 最前線にある出城の龍雷連隊と共同し、ジャック・フリート(じゃっく・ふりーと)が防衛に努めた。
「うぁあぁぁぁ、く、来るなぁぁ!!」
「おい、マスカレード」チキンは、相変わらずか、「……やれやれだな」呆れながらも、トリガーを引くジャック。
「敵の位置情報は私がお伝えします」
 一方着実に戦闘に慣れていくタクラマカン・パフェ(たくらまかん・ぱふぇ)
「あ。ジャック。マスカレードが敵に」
「何。あのチキン……!」
 いつの間にか、敵集団に囲まれたマスカレード・チキン(ますかれーど・ちきん)
「ヒィ!」
 恐怖心が己の精神の限界を超えたとき、チキンの何かがキレたらしい。
「ウオオオオオオーーーッ!!!」
 物陰に隠れるしか能のないチキンが見せたその姿は、荒れ狂う鬼の形相……
 巨大なブレードから放たれる斬撃。敵兵だけでない、手当たり次第に、周囲の物を破壊していく。
「あれが機晶石の暴走、か……」
「ジャック、このままでは!」
 どーん。龍雷の城壁がふっ飛ぶ。
「おお。何という」
 最上階から戦場を見下ろす岩造。
「味方の機晶姫か。隊長さん、」甲賀が横合いから、「ファルコンもああやって暴走するものだろうか?」
「むう……わからん」
 ファルコンは、ハヤブサモードで上空から敵を攻撃している。
 このままでは、味方の軍にも被害が及ぶ。パフェは、何とかチキンの動きを止めようと思案する。だがジャックはその豹変ぶりを見て……「使える!」「えっ?!」
 結局、チキンの暴走は、一分経過するかしないかの後に、自動的に停止した。
 敵は、ひとまずグレタナシァまで退いていく。
「すみませんジャック。私のせいで教導団の皆さんにご迷惑を……」
「気にするな、失敗したら……またそこから学べばいい。それに、お前たちの契約者としての責任があるからな。上からの説教は、私が受け持つさ。
 ……まずは、龍雷の皆に謝らねばな」
「城の修理代……」
「それは、本隊に任せよう」



7-07 五つ目の女王器

 さてもう一つ明かされる教導団十二星華編の秘密。
 こちらも、すでに教導団を離れ、別の道を歩んでいる者ら。
「黒羊郷に騎凛に、この何かありそうな人物パルボンか……キリン教官と麒麟の女王器。なんて……駄洒落だよね」
 ぽつり、自嘲気味に呟く、黒崎天音(くろさき・あまね)
「わしが、どうかしたか?」
 パルボン
「いえ、別に」
「……天音は、どうしてこの地へ来た。傭兵の名簿には貴君のような美男子はおらなんだような。
 おぉ、そうか、もしやわしに会いにきたのだったか」
「僕は、」この黒崎天音、実は彼方此方でシャンバラ女王や女王器に関する情報を調べつつ、旅をしている。実際に幾つかの女王器発見に関わっているのだが……そんな中、キリンの響きに惹かれるものがあり、北方から回り道をし、やって来たのだ。
「……ええ。パルボン殿。そのようなところでしょうか」
「ほっほほ。愛いやつよの。
 そうじゃ。だがな。そうでもなかったりする」
「?」
「ほほ。先ほどの話じゃ」
「と申しますと……」
「三行目の話じゃよ」
 天音は、ふ、と微笑した。
「わしは遠征軍の総大将じゃった。そういうことは耳に入っておるわ。だがな、……。
 まさか、黒羊の軍がここまで来ておるとは。もうすぐこの辺りは激戦になる。遠征軍は、そうそう黒羊郷には近付けんくなったわ。そうであればもう、……。
 わしはもともとヒラニプラ貴族じゃ。それなりの伝手もある。行くぞ、天音よ」
「ええ。パルボン殿。何処へでもお供致すとしましょう」
「ほっほっほほ」