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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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第3章
再起


 ここは、黒羊郷。
 いよいよ、黒羊郷は、対教導団に向けての秘蔵の兵力を駆り出そうとしていた。
 その前に、ここで起こった戦いのことを少し思い出しておかねばならない。それは、結果的には小規模な内に抑えられたものになったが、一歩違えば、多大な打撃を与えるものになり得る可能性を秘めたものであった。


3-01 九騎

 騎狼部隊たった50強の兵力には過ぎなかったが、その機動力と、隠密性も含んだ俊敏性を生かし、(勿論、イレブンの策あってのことだったが)黒羊要塞の内部にまで攻め入った。
 デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)は、イレブンのその戦いぶりを、後に、逃げ延びた騎狼部隊隊員から聞いた。デゼルのもとへ落ち延びたのは、たった五騎のシャンバラ騎狼兵だけであった。
 デゼルが集めた蜂起勢力は、300には達し、イレブンが味方に付けたご当地12セイカの勢力等も合わせると、500近くには膨れ上がっていた……それでも、黒羊郷を落とすことはできなかった。
「ここまで、数の差を把握していなかったのは、情報収集を甘く見すぎた結果だろうな……」
 デゼルは苦い表情でそう言う。準備期間の短さからくる、錬度の低さや連携の甘さで敗北は覚悟していた。しかし……
「黒羊郷の兵力は4,000とも5,000とも……か」
「いえしかしデゼル殿」シャンバラ兵が応えて、「それは各地へ出払っている部隊を含めた数とも言い、現在黒羊郷に残っている数はその半分の2,000から2,500程度だとも言います。あるいは、多く見積もっているだけとも」
「アア。何れにしても、桁が違ったわけか。すまなかった。あんた等も、よく生き残ってくれた」
「デゼル殿……」
「デゼル殿、しかし私は今も、我々は惜しいところまでいったと思っているのです。デゼル殿ら蜂起勢も、要塞の付近にまで達していたという」
 デゼルは、山で交友を持ってきた他の勢力らと山を駆け下りた、夜のことを思い出す。
「我々が、門の辺りで戦っているときに、確かに山を下ってくる大勢のかけ声が聞かれた。我々も、もう少し内部を撹乱できておれば」
「そうです、落ち込まんで下さい。私らの先の戦いは、黒羊郷を少しなりとも揺るがしはした筈。敵の多さに怖気づいた者もおるでしょうが、敵とて」
「わかったぜ。ありがとうな、皆。今は、オレが騎狼部隊を纏めなきゃな。(イレブン……。)
 まぁ、身内のあんた等がそう言ってくれるのはありがたい。だが、蜂起に関わった勢力の親分等には、きちんとけじめを付けないとな。これから、謝罪行脚だぜ」
「無論、付き合いますとも。これより、たった九騎からの、この地での新しい騎狼部隊の再起の始まりですな。デゼル殿」
 デゼル、そのパートナーら、兵らは騎狼に再び乗ると、木立の中へと進んでいった。



「オークの騎狼、か」
 黒羊要塞の下層に、先の戦で果てた騎狼の死骸が集められている。
「ふむぅ。もともとはオークがこれを乗り回し、峡谷を暴れ回っておったわけだ。やつら、よくこれだけ従順で乗りこなせるものにしたな。ここまで戦に使えるものにするとは」
「はっ……ラス・アル・ハマル(らす・ある・はまる)様。
 もとはまさしく、オークとの戦いで出てきたオークの乗り物というに過ぎませんでしたが、現在では、シャンバラ教導団で開発が進められ、本校の購買でも実験的(乗用)に売られている程だと言います。しかし、産地である第四師団においてはかくのように、戦用のものとしてもほぼ完成形に近い形で馴らされ、騎狼部隊の名は辺境に轟いておると」
「むぅ。ここにあるものはもう使えん。この先、オークスバレーを落とし、何としてもこれを我が黒羊軍の戦力増強の為に生かしたい。
 信徒兵にこれを乗りこなさせば、恐いものはないだろう」
 信徒兵。
 そろそろ、信徒兵を実戦に駆り出すか。
 黒羊郷の教祖ラス・アル・ハマルは黒い笑みを浮かべた。
 ちょうどいい。まずは周囲の反抗勢力を滅ぼすのにその力を見せてもらうとしようか。これが、黒羊郷の本当の力だ。
 実戦は一度やらせればいい。そうしたらすぐに、ジャレイラのもとへまず送ろう。
 やつらは背くことは決してない。
 背くもの……我らの教えに反するもの、根絶やしにするのだ。