リアクション
第II部 戦 第4章 決戦、ハルモニア 「風」 ……風が冷たい。と言いたげな、黒羊側ヴァレナセレダ方面軍指揮官、チェルバラ(ちぇるばら)だ。 くるくる巻き毛に金のお髭。口紅が厚…… 「チェルバラ様っ!」 黒羊軍によって占領中のハルモニア城最上階で、風を受けるチェルバラのもとへ、兵が駆けてくる。 「チェルバラ様、砦1、3、4、6と次々に、敵の手に落ちています!」 チェルバラは振り向く。 「何故」 口紅が真っ青になった。兵は少し驚くが、続ける。 「6は地下から少数で攻められた模様、防備に置いてあったトロルが利用されたとのこと。1、3、4は敵は戦力を集中させ順々に落とされた模様です」 「マリー、マリーは?!」 黒羊の将マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)は、総力を上げ敵側砦8、9を落としていた。しかし、その後…… 「な、何ですって? マ、マ、マリーが前線を捨ててヴァシャへ向かった……」 マリーは砦8を落とすと、すぐにそれを難民に解放した、という。同じように続けて砦9も落として、砦にある物資ともども難民にと明け渡した。マリーは、人質だった逢様も連れていってしまっていた。 「どういうコト?! 戦争は、戦争は無意味だとでも言いたげなの?」 チェルバラには、マリーの意図が理解できなかった、何故なら…… 「はっ。チェルバラ様、マリー将軍は、かような大小二つの葛篭を残していかれました。 あ、それから、チェルバラにお髭が曲がっていてよ、と声をかけておいてくれと」 「髭はいい」 チェルバラはしかし一応、髭を正すと(それはすぐにまたくるくる巻きになった)、 「葛篭ですって? 大きいのを開けるに決まってるジャない??!」 チェルバラが大きい方の葛篭を開けてみると、そこに入っていたのは、(前回マリーが着用した)騎凛ちゃんコスプレセットであった。「ジャストサイズでありますぞ!」 小さい葛篭には、マリーからの重要なメッセージが入っていたのだったが、チェルバラがこれを開くことはなかった…… 「ク、ク、ク」 「チェルバラ様……?」 「キャーッ! クヤシイワ! マリィィィィィィィィィィ!! ワ、ワタクシ様を、ワタクシ様を、ワタクシ様を捨てたのね!? やぱっりアイツ、最初からワタクシ様を裏切るつもりで……」 「は、はァ。しかしチェルバラ様、マリー将軍は」 「お黙りなさい?!」 「ぐゎ!」「ぎゃ!」「ぶしっ」 兵達がふっ飛ぶ。 「キャァァ! キャァァ!」 「だ、誰かチェルバラ様を止めろ!」「チェ、チェルバラ様どうかお鎮まり下さいっ……ぎゃ!」「ぐぁ」「ぶしっ」兵達がふっ飛ぶ。 「はぁ。はぁ。大丈夫……ワタクシ様なら、冷静よ。 そう、マリー、あのマリーがヴァシャへ……」 チェルバラはすぐさま息を整えると、髭をさすりさすり窓際へ。 「雪」 ……ここは寒いとこロネ。ウンザリしチャうワ。 ……。ハルモニア城。これで敵の手に戻されるか。チェルバラは呟いた。 * その後、ヴァシャへ向かうナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)達のもとに、ハルモニア城解放の知らせが届くことになる。ヴァシャへ向かっていた多くの者が、そこで足を止め、引き返し始める。 その報に、ナナも離れつつあったハルモニアの方を振り返り、両手を合わせ喜んだ。皆のことを思う。人質も無事、解放されたという。 「では、逢様も……」 だが、中にはそのままヴァシャへの歩みを止めない者達も、いた。 古いヴァルキリー達に混じっている、この男も…… レーヂエ。ネェ。レーヂエ(れーぢえ)。 「……聞いてる? お城、解放されたらしいケド?」 「ああ。サミュ。聞いたぞ。月島達、やったな」 「レーヂエは……戻らないの??」 「ああ。……そうだな。もうちょっと、先へ進んでみよう。サミュは、一度ハルモニアへ戻ってはどうだ?」 「レーヂエ! どうして、そんなコト……! 言ったハズ。俺は、レーヂエと一緒ダと」 4-01 決戦、ハルモニア(1) 少し前。ハルモニア解放軍は、戦力を集中させ、一つ一つ砦を落としていくことを決定した。 「リーダーがああではどうしようもないな」同時に攻めて勝てる人数ではないだろうに……ハルモニアの副官ルミナ・ヴァルキリー(るみな・う゛ぁるきりー)も、再編成に賛同した。 「す、すまぬ。俺の、俺のせいで……」 バルニア(ばるにあ)も、前回の戦いぶりを反省しているようだ。 「反省はできるんだね、あの人。ね、おねーちゃん、ってあれ? そうか」 セシリア姫は、策を携えて戦友ひなと一緒にすでに別ルートへ向かっているのだ。それに、 「すまぬ……すまぬ」バルニアにはまだ言いたいことがあるようだ。「御凪、おまえが胃痛で倒れたなんて……すまぬ、俺の、俺のせいだ……」 「……それは、……おねーちゃん達が……」 ともあれそこでこのミリィ・ラインド(みりぃ・らいんど)が、胃に大穴の開いたぶちぬこ隊隊長・御凪 真人(みなぎ・まこと)に代わって指揮を預かることに。 そんなミリィを隣で見つめる、魔女の福音 『アラディア』(まじょのふくいん・あらでぃあ)。ミリィだけでは不安もあるし、セシリアがここに残していった魔導書だ。ミリィと共に、ぶちぬこを指揮する。 「バルニアさん……と言ったかしら。纏めて砦を落としたい気持ちはわかるけれど、完勝を重ねて士気を上げていくのも一つの手と思えない? あなたの大事な部下の負傷も最低限に抑えられるわ。良い隊長でいたいなら部下のことも考えないとね」 バルニアはしゅんとしたが、いたく反省したようであった。 月島 悠(つきしま・ゆう)も頷く。 「戦力の集中運用、だな。ハルモニア城を囲う三つの砦のうち一つはこちらが抑えているわけだ。そこを拠点に、残りの二つを攻め落していこう」 先にどの砦を攻めるかで、些かの話し合いになったが、こちら側にある砦5から近い4、3、1と攻めていくこととした。どの砦も一つ一つなら兵力はさほど恐れるものではないのだ。また、砦6については、すでに5に入っているセシリア、ひな組が攻略に向かっているのだった。 「俺達も、指示に従って存分に戦うぜ☆」 シュレイド・フリーウィンド(しゅれいど・ふりーうぃんど)らも今回は出陣する。フィーネは少し外に出ているがすぐに戻って来るという。レイディスの姿が見あたらなくなっているのだ。おそらくレイディスのこと、例の方向感覚を発揮して迷っているのだろう、ということだったが…… 「あたし達もね。ハルモニア城奪回作戦に協力だ!」 朝野四姉妹も、その場に居合わせた。朝野 未沙(あさの・みさ)は、ハルモニアに滞在中、裏で恐ろしい実験に取りかかっていたのだが……皆はまだ知らない。 元気よくハルバードを振り回す、朝野美沙。 「にゃはは……」 朝霧のメモリーカードとして残された朝霧 栞(あさぎり・しおり)も作戦に参加するが、栞は栞の考えを出し、一人先に砦8の地下より、最後に攻める砦1に向かっておくという。 「では、私も栞さんと一緒に行きましょうか」ニケが名乗りを上げた。「ヴァルキリー達は、ルミナさんに従って戦ってもらいましょう」 ハルモニア・ニケ(はるもにあ・にけ)と栞はこうして、地下へと下りていった。 いよいよ、本格的な戦いに移る。 連戦を行えば、元々士気の低いヴァルキリー達は参ってしまわないか。ぶちぬこ達もずっと訓練してきたと言え、それなりに疲労するとは思う。――月島は、兵達の士気を心配した。何かこれを向上させる妙手はないものか……とにかく、それでも、 「一気にハルモニア城奪還まで持っていきたいところだ」 「うぅ、よしやるしかない! 行こう」 ミリィが言う。軍議を終え、待機するぶちぬこ、ヴァルキリー達もそれぞれに隊列を整えた。戦場へ。 |
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