リアクション
* 「ハインリヒ。あんたはどうするんだ?」 「ハインリヒ?」 いかにもな整った髭を伸ばして、すっかり酒場の経営者然としている彼は自らの名も忘れつつあった。前回から引き続き、ヴァリアの酒場を経営している、ノイエ・シュテルンのハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)である。 「おっと、そうでございましたな。しかしその名はここでは……。 わたくしですか。わたくしは、ここに地上の楽園を築き上げてみせるつもりでございますよ」 「はぁ……?」 「あ。いえいえ、つまり、」クリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)が、きっ、と睨んだのを受けて、ハインリヒはにやりと緩んだ表情を正し、「サービス満点の男の楽園(キャバクラ)を作り上げるのでございます。さすれば、兵や庶民だけでなく、将軍や幹部など上流階級に属す者達も足を運んでくるようになりましょう。女達に、機密事項を探らせるのでございます。まあ、見ててください。あ、デゼル殿も、戦いに疲れたときには、是非」 ハインリヒもすっかり、教導団員とは思えぬ酒場のマスター風出で立ちで、カクテルを振りながらそう言う。 「あ、あぁ。男の楽園、か」 「オイ、デ・ゼ・ル……??」 「あ、ああ。ルケト。どうしたんだ、ハハハ、じゃあ行こうぜ。 あ、何ならルケトもここで働かせてもらうか? 意外と似合うんじゃ」 「おお、それはいい。是非。ルケト殿のようなタイプにもきっとお客の需要が」 ごんっ。ごんっ 「じゃあナ。お互いしっかり、任務を忘れないようにしないとな!」 ルケトは、デゼルを強引に引き摺ってヴァリアの酒場を後にした。 彼らが出ていったあと、ハインリヒはヴァリアに二つ目のたんこぶを作ってもらえた。 尚、そんなデゼルとハインリヒの二人だが、もう一つ別の重要な話し合いもきちんと持っていた。 黒羊郷地下の地図、のことである。 デゼルが、先の蜂起の一件で、敵は前以上に要塞の守りを固めてしまったことに触れると、ハインリヒは、ふと思い出したように、地下に通じる地図をアクィラが作成していることを明かした。(アクィラとはその後しばらく連絡が取れていないのだが、彼は更に地下を調査しているだろうとのこと。) また、すでにケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)がそれを本営に持ち帰っているだろうとも。 と、なれば。もう少し先ほどの蜂起のタイミングをずらしていれば……本営側との地下からの連動も可能だったのか。いや、それは今からでも……。 「ハインリヒ、その地図は……」 「ええ無論、写しを取ってありますとも。デゼル殿、しかし今度は機を慎重に。わたくしも、更なる情報を仕入れてみせるつもりでございますからな」 |
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