天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

リアクション公開中!

【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

リアクション



第II部 戦


第5章
ジャレイラ……


 黒羊郷の新しい神として、また、黒羊軍の最高指揮官として自ら兵を率いるジャレイラ・シェルタン(じゃれいら・しぇるたん)
 ヒラニプラ南部において、黒羊郷に敵対する地方――黒羊郷の裏側に通じるヴァレナセレダや、撲殺寺院の本拠地である北西山麓等は、チェルバラ(ちぇるばら)やグレドロラルゴ(ぐれどろらるご)といった黒羊軍における信の厚い将が各方面の指揮を預かり制圧していっている。
 ジャレイラ自身は、黒羊郷にとって最大の敵となるシャンバラ教導団に立ち向かう。古くからヒラニプラにおける信仰の地として栄えてきた黒羊郷にとって、新しくヒラニプラに居を構えた軍事組織である教導団は、打ち倒すべき存在なのだ。ヒラニプラの領土を荒らされるわけにはいかぬと。
 教導団の中でも、ヒラニプラ南部を担当するのが、第四師団である。
 教導団も黒羊軍の動きを察知し、第四師団を送り込んできた。その遠征軍本営のあるのが三日月湖。ジャレイラは、すでに三日月湖の北に迫っている黒羊軍やその同盟国の軍と合わせ、自らは三日月湖の背面を衝くべく、東の谷ルートを取った。

 教導団はこれに対し、李梅琳に1,000を率いさせたが、吊り橋の戦いで、ジャレイラは梅琳の先鋒を撃破。(「ヒラニプラ南部戦記・序」第2章(雪の谷の戦い)参照。)
 黒羊軍は次に、教導団部隊の中軍の位置にあった【鋼鉄の獅子】とあたることとなった。
 だがジャレイラは、このとき後方より聞かれた騒動(周辺部族による襲撃とも義勇軍一部の反乱とも)を収めるべく、前線の指揮を メニエス綺羅瑠璃(きら・るー)に預け、一時そちらへ向かうこととしたのであった。


5-01 ジャレイラ(1)

「ちょ、ちょっとヒラニィ! そんなに勝手に陣地内を歩き回ったら……」
「おぬしは侍従。わしは客分じゃからの。はっはっは」
 教導団の一員である琳 鳳明(りん・ほうめい)は、思わぬ事件に巻き込まれてのことであったが、黒羊郷に至ることとなった。そこで見た復活祭でのジャレイラに引っかかるものを感じ、(もともと黒羊郷への巡礼として紛れ込んでいたこともあり)侍従として付いていってみることにしたのだ。
 黒羊郷の神とされるジャレイラに対し、ここでは一民にしか過ぎない琳が侍従として従軍に叶ったのは、今彼女が追い回している……
 南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)。土地で出会い契約することになったこの地祇のおかげでもあった。
「こ、こら、いつの間に客分になったなんて、あ……ジャレイラさん……様」
「ここはもともとわしの土地みたいなもんじゃ。当然じゃろうて。ほう。ジャレイラか」
 ジャレイラがこちらへ歩いてくる。
 今、彼女らがいるのは、東の谷の吊り橋の北側の黒羊側陣地。
「……ちょっとヒラニィ、いくらなんでも。今は、この地で神と呼ばれる人なんだから」
「何を言う。わしはこの土地の化身じゃ。ジャレイラなど子どものようなものじゃぞ?」
「ちょ、ちょっとぉ」
「……。いいぞ。その通りだ。気にしないでいい。
 地祇殿に、色々とこの地のことを教えてもらいありがたい。感謝している」
「ふん。ここに暮らす者や、人々の考え方は随分変わったようじゃから、地形のことくらいしか、よくわかることはないがの。
 本当に、変わってしまったようじゃからのぅ。……。
 ときに、ジャレイラ」
「……」琳は、本当にこんな物言いでいいのかしら、もう知らないよぅ……といった感じで黙って聴いている。
「なんだ?」
「わしの記憶のまだ浅い部分に、お主の姿がある」
「我は……確かにここの生まれではない。
 最初は土地の者と相容れぬところも多く、わからないこともあった。
 だが、それなりに長い時をかけ、ここに馴染んできたし、何よりこの辺りの者達と協力し合い、土地の魔物や侵入してくる敵の排除にあたってきたのだ」
 ジャレイラは黒羊郷の神とされる前から、この地で゛しるしの女゛と呼ばれ、土地の民と共にそういったことをしてきていたのだ。
 彼女はこの辺境における英雄のように扱われていたし、この地を守ってくれる者として信じられていた。
 神の交代する千年祭において、ジャレイラが新しくこの地を守る神となることは、多くの民に受け入れられたことなのだった。
 ゛神は別の土地から遣って来る゛
 しかし、ジャレイラは何処から来たのだろう……?
 それに、「……一体お主は何者なのだろうの」
 ヒラニィが続けて問う。
 琳が見たのは、光条兵器。復活祭の後にも、吊り橋の戦いにおいても。ジャレイラは……剣の花嫁には違いない。
「やはり、同族は気になるか?」
 ジャレイラの従えている綺羅瑠璃も、それにティアも、剣の花嫁だ。
「マヤカシなどかけんでも、お主自身を曝け出せばやつらは勝手に付いて来るだろうよ」
「マヤカシ……。そのようなつもりはないのだが。我はただ……」
 ジャレイラは、何か考え込む。
 ヒラニィは、チョコを取り出して食べ始めた。(「これはわしのチョコだ。もの欲しそうにしてもやらんぞ?」「べ、別に……いらぬ。チョコなど」)
「何してる」将校が来た。「ジャレイラ様? この爺ィ、貴様! ジャレイラ様に向かって、何をこの無礼者!」
「まあ、待て。土地の精霊だ」
「はっ。そうですか……ジャレイラ様。例の部族のことで……」
「わかった。すぐに行こう」