リアクション
残され島 「ふむ。特別、小屋を移動したような痕はないであるな」 しばらく前まで学生たちがすし詰めで避難していた小屋を丹念に調べながら、草薙 武尊(くさなぎ・たける)がつぶやいた。 他の者たちは思い思いに島中に散ってしまっている。 ある者は、現状を打破するためにこの島のカラクリを調べて、引率者たちに一矢報い、堂々と帰りの切符をもぎ取ろうと考えている。 また、ある者は、これはこの島を自力で脱出する訓練なのだと考えて、その程度のことはクリアしてやると船の製造を始めている。 またまたある者は、例年の夏合宿はサバイバル訓練が恒例のため、今回も雨露を凌ぐテント村と日々の食料の確保を始めている。 それ以外の者たちは……、もちろん遊ばないでどうする。どんなときにもマイペースである。 ただ、全員に関して共通なのは、ほとんど動揺はしていないということだった。パニックに陥った者は一人もいない。まあ、不安を隠しきれない者は何人かいるようだが。 理屈っぽい者たちはどうせ訓練とたかをくくっているし、理屈なんてどーでもいい者たちはとにかくフリーダムだ。 「島を動かす手間を考えたら、小屋の方を運んで別の島に連れ去ったと思ったのであるが、どうやらそれは外れだったようだな」 小屋にロープの痕や、フックのような物がないことを確認して、草薙武尊が腕を組んで考えた。記憶は曖昧だが、小屋の周囲の風景も変化したようには見えない。別の島だとすると、小屋の周りの風景や地形まで同じに作るのは明らかに無駄な手間だろう。 「なあんだ、小屋ごと飛ばされてきたと思ったのに、違うのかあ」 ちょっと残念そうに、ラピス・ラズリ(らぴす・らずり)が言った。 「そうすると、この島自体に自航能力があるということになるわけであるが、とにかく一周してみるしかないであろう」 今回は比較的荷物検査が緩かったので、食料と島から出られる乗り物以外は許可されている。愛用の軍用バイクにまたがると、草薙武尊は島の探索にでかけていった。 「島が動いたのかあ。だとしたら、そこに建てる小屋って、やっぱり、こんな感じだよね」 ラピス・ラズリが、これから作ろうとしている小屋の設計図をパラミタがくしゅうちょうに描いていった。 立川 るる(たちかわ・るる)が温泉を探すと張り切ってでかけていったので、もう基本の設計は出来ている。あとは、日曜大工セットを用意して、材料が届くのを待つだけであった。そのへんは心配しないでも、誰かが集めてきてくれるだろう。いつか、ここにりっぱな温泉宿を建てるのだ。 「うっ、なんだこりゃあ、新種のフラワシか!?」 ラピス・ラズリの設計図を見た雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が絶句した。 「違うよ、鯨さんだよ」 「鯨……」 ラピス・ラズリの答えに、雪国ベアがさらに絶句した。どう見たって……いや、やめておこう。それよりも、本当にこんな形の小屋を作るつもりなのだろうか……。 「鯨さんの形の小屋かあ、いいなあ」 絵を見ていないソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が、お気楽極楽に言った。 「そうかあ、きっと、この島はでっかい鯨さんなんです」 ポンと手を叩いて、ソア・ウェンボリスが思いついたことを口にした。 「きっと、島がゆれたのは鯨さんが泳いだからですし、火山に見えますけれどあそこから出ている白い煙はきっと潮吹きなのです! これで謎が解けました!」 「それは面白い説ですね。あながち間違ってはいないと思いますよ」 そばに居た高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)が、ソア・ウェンボリスの鯨説に賛同する。 「うん、そうだよね」 「はあっ!?」 意気投合するソア・ウェンボリスと高月玄秀に、雪国ベアとティアン・メイ(てぃあん・めい)が声を揃えて顔を顰めた。ここは地球である。そんなのがいるはずがない。 「御主人、あまりの暑さに熱中症が悪化してアホの子に……」 ソア・ウェンボリスの額に手を当てて、雪国ベアが言った。 「もう、ベアったら。私そこまで子供じゃないです。きっと、鯨さんはいるんです! 探しに行きますよ」 「ちっ、仕方ねえなあ」 ソア・ウェンボリスに引っぱられて、雪国ベアが海岸へとむかった。 「私たちも、海岸に行きましょうよ」 食料貯蔵用の氷室にする予定の穴を掘っていた手を止めて、ティアン・メイが高月玄秀をうながした。 「そうだな。少し海岸沿いの土地を調べるとしましょう。ついてきなさい、イチャウチャウ」 なぜか、連れてきたペットのイチャウチャウの方をうながして、高月玄秀が歩き出した。 「ああ、待ってよ、せめて海の中にも行きましょうよ」 せっかく持ってきた水着が着たくてしょうがないティアン・メイが、高月玄秀を海岸の方へと押し出しながら言った。もちろん、見せたい人間は決まっている。 「いってらっしゃーい」 ラピス・ラズリがみんなを見送って手を振った。 ★ ★ ★ 「うーん、何か役にたつ物があるかもと思ったけど、何にも見つからないよね。コンパスぐらいあるかと思ったなだけどなあ……」 誰もいなくなった小屋の中を隅々まで物色しながら、久世 沙幸(くぜ・さゆき)が言った。床に四つん這いになり、棚の下あたりをごそごそとやっている。人がいないとはいえ、若草色の地にオレンジ色の小花模様をあしらったビキニのお尻をツンと突き出した姿は、ちょっとあられもない。 「そんな物が最初から用意されているはずはないですわよ。さっきも言いましたのに……」 久世沙幸のいい眺めをじっくりと堪能しながら、黒いビキニ姿の藍玉 美海(あいだま・みうみ)が言った。同じようにコンパスを探していた緋桜 ケイ(ひおう・けい)などは、さっさと見切りをつけてここを後にしている。 「ふう。やっぱりだめかあ」 観念して、久世沙幸が立ちあがった。音をたてないように、藍玉美海が舌打ちをして残念がる。 「さぁ、行きますわよ。まずは食べ物を確保しないといけませんものね」 何か思惑があるのか、藍玉美海が森の方へと出ていこうとする。 「ああ、待って、ねーさま。また勝手に進んじゃうと、迷子になっちゃうよ。この先はだめだからね」 「くっ」 久世沙幸に呼び止められて、藍玉美海が足を止めた。さすがに、過去のあれやこれやで、言い返すことが出来ない。 「仕方ありませんわね。では、沙幸さん、先にお立ちなさい」 あっさりと、藍玉美海が道を譲る。前に立っては、久世沙幸の肉感的な太腿とかお尻とかを鑑賞することが出来ない。ここはぜひ道を譲るべきであろう。 「なんだか、邪気を感じるんだもん……。まあいいかあ。いこ、ねーさま」 いつものことだと、得体の知れないピンクの邪気を無視して、久世沙幸は歩き出した。 「いってらっしゃーい」 また、ラピス・ラズリが二人を見送った。 ★ ★ ★ 「まったく、途中で放り出すなんてだめだよねぇ」 ティアン・メイが掘っていた穴を二重螺旋ドリルで深く掘り下げながらアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)が言った。ここに、ちゃんと氷室を作って食料を貯蔵するつもりだ。なにしろ、今のところ脱出まで何日かかるか分かっていない。安定した食料確保の保証がない限り、保存は重要だ。 「後で、こっちも頼みますねー」 「分かってますよぉ。温泉旅館を目指しましょうー」 ラピス・ラズリに声をかけられて、アリス・テスタインが元気に答えた。 すぐ傍には、葉月 可憐(はづき・かれん)が残していった氷塊がある。これを穴に埋め込んで天然の冷蔵庫にしようというわけだ。氷術で定期的に氷を補充しなければならないが、食品そのものを氷づけにするよりは理にかなっている。 それとは真逆で、水を溜めた池を暖めれば、お風呂ができあがる。やはり保養地には、温泉は必須である。細かいところが微妙にずれているが、気にしたら負けだ。 「このへんが、温泉が湧きそうだぜ。ちょっと一キロほどほじくってくれ」 「任せてよねえ」 泉 椿(いずみ・つばき)に指示されて、アリス・テスタインが地面を掘り始めた。 温泉旅館ラピス・ラズリは、地道に完成に近づいていっているようである。 「このへんでいいかなあ……」 「こらあ、あたしのパラ実離れ小島分校の校舎で何をしている!」 椰子の葉を組み合わせて作られた小屋というかテントというか、とりあえず建物と呼んでいいか迷う物の陰にこそこそと隠れた秋月 葵(あきづき・あおい)にむかって、泉椿が怒鳴りつけた。 「ここはな、パラ実が占拠したんだよ。なんだ? 着替えでもするつもりだったのかあ」 何やら、ぴらぴらした衣装をたくさんかかえた水着姿の秋月葵を、泉椿がじっと睨みつける。 「着替えるんなら、所場代払いな。そうだ肉でもいいぜ」 「ええっと……」 脅されて困った秋月葵は、すぐ傍をアヒルがてちてちと歩いているのに気づいて、それを捕まえて肉代わりにしようと手をのばした。 「ちょっと待て! 我らがアヒル園長……いや、アヒル分校長に何をしやがる!!」 あわてて飛び出した泉椿が、さっとアヒル園長を拾いあげて保護した。 「よしよし、怖かったですかあ。ええい、怯えてるじゃねえか。いいか、アヒル分校長は食材じゃねえんだ。覚えておきやがれ。よしよし、もう大丈夫ですよー。すぐに、悪い奴はやっつけて……、おい、どこ行きやがった。逃げやがったな!」 アヒル園長に頬ずりをしている間に秋月葵に逃げられて、泉椿が叫んだ。 「ふう、危ない危ない。もうちょっとで見られるところだったんだもん」 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)が設置していったテントの中に隠れて、秋月葵は人心地ついた。 「さあ、変身よ!」 テントの中が光で満たされる。 「突撃魔法少女リリカルあおい! みんなを助けちゃうんだもん!」 テントから飛び出して名乗りをあげるも、他の者たちは地面を掘るのに一所懸命で誰も構ってくれない。 「いいんだもん。とうっ!」 空飛ぶ魔法↑↑を使うと、秋月葵は上空から島を調べるために飛びたっていった。 |
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