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夏合宿、ひょっこり

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夏合宿、ひょっこり

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「しまった、最初の選択を誤ったかも……」
 途中の川で汲んだ水の最後の一口を水筒から飲み干しながら日堂 真宵(にちどう・まよい)がつぶやいた。
 食料や寝床なんて物は他の有象無象がなんとかするだろうから、自分はあの怪しい山に登って世界の謎を解明し、一躍魔王のトップに躍り出るという根拠のない夢想に取り憑かれたのだが、現実は甘くはなかった。
 なにしろ、この山、小さいわりに、いや小さいからなのか、結構傾斜がきつい。しかも、ほとんどの斜面がすべりやすくて、上に至る道を探すことからして一苦労である。
 完全なインドア派の日堂真宵としては、この程度の運動量は……致命的であった。
「きっと、白煙はカルデラ湖で温泉が溜まっていると思ったのに……。そして、温泉でひとっ風呂浴びて下りてきたら、下僕共が美味しい料理を作っているというわたくしの壮大なプランが……」
 ゼイゼイ荒い息を吐きながら、それでも日堂真宵は坂を登っていった。
「お山の上からなら、この島の全貌だって一望できますですぅ」
 空飛ぶ魔法↑↑を使って、すすすいーっと神代 明日香(かみしろ・あすか)が山頂を目指して進んで行く。
 海京が見えなくなったのは、この島が移動しているというのが一番ありそうなので、島自体がどんな物なのかを確認するのが一番手っ取り早いと思ったからだ。
 浮遊島のように始終位置が移動するような島はパラミタでは珍しくないし、この島自体が巨大な亀だったりして、超巨大生物の甲羅の上という落ちだってありえると言えばありえる。
「ああ、ちょうどいいところに乗り物が!」
 突然物陰から最後の力を振り絞って飛び出した日堂真宵が、低空飛行をしていた水着姿の神代明日香の縞パンをむんずとつかんだ。
「きゃあぁぁぁぁ!!」
 いきなりパンツを引き下げられそうになり、神代明日香が悲鳴をあげた。
「さあ、わたくしを頂上まで運ぶのよ」
「ちょ、ちょっと、手を放すですぅ。脱げる、脱げちゃうですぅ!」
「放すものですか。ここで手を放したら絶対遭難する!」
 空中で身をよじって暴れる神代明日香のパンツに必死ですがりつきながら日堂真宵が叫んだ。
「あの者たちは何をやっておるのだ?」
 先行していた毒島大佐が、下でもみ合っている神代明日香と日堂真宵を見下ろしてあっけにとられた。
「とにかく記録であろう」
 すかさずカメラを手にとって撮影する。
「ちっ、下からでないと決定的なアングルの写真が撮れないとは……」
 ファインダーの中に夢中になっていると、いつの間にか近づいてきていた日堂真宵が、ガツンと毒島大佐にぶつかった。
「はうあっ」
 引きずられていた日堂真宵が毒島大佐とおでこをぶつけてひっくり返る。その間に、神代明日香が脱出していった。
「あーん、ゴムがのびちゃったですぅ」
 必死にパンツを手で押さえながら、神代明日香が一気に頂上にむかって飛んでいった。
 
    ★    ★    ★
 
「どーなー、どなどな、どーなんなー。おやまにすてられにいっちゃったー。ぽよぽよ」
「イコナちゃん、その歌はどうかと思うぞ。別に、イコナちゃんを山に捨てに行くわけじゃないんだから」
 源 鉄心(みなもと・てっしん)が、変な歌を歌いながら山を登っていくイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)に突っ込んだ。
「だって、なんだかとても悲しいんですもの。ねえ」
 右手に持ったティーカップパンダと、左手に持ったサラマンダーに話しかけながらイコナ・ユア・クックブックが答えた。
「お肉はないですが、さっき森で見つけた木の実がありますから、それでも食べますか?」
「うん」
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)にもらったヤマブドウの実を口の周りを真っ赤に染めながら、イコナ・ユア・クックブックが食べていく。
「はい、あなたたちにもおすそ分けですわ」
 ペットたちにも、一粒ずつ分けてあげる。
「こんなに疲れるのだったら、海の方がよかったですわ。ティー・ティーさんだって、水着が着たかったでしょう?」
「そ、そんなことはありませんよ」
 イコナ・ユア・クックブックに本音を見透かされて、ティー・ティーがちょっとどぎまぎした。
「コアは、もう頂上に達しているようだな。もう少し急ぐぞ」
 テレパシーで、コア・ハーティオンとコンタクトをとって源鉄心が二人を急かした。
「はい」
 源鉄心にうなずくと、ティー・ティーがイコナ・ユア・クックブックをかかえて翼を広げた。