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リアクション
★ ★ ★
「イルミンスールの七不思議、動く島の話、聞いたの。この島もそう?」
てくてくと山を登りながらオーフェ・マノリア(おーふぇ・まのりあ)が、横を歩くエンデ・マノリア(えんで・まのりあ)に訊ねた。
「うーん、スコールで島が流されるという話は聞かないから、この島は人工の島なんじゃないかなあ」
さすがに台風ならいざ知らず、いや台風であっても、島を押し流すなどということはありえない。
天御柱学院のある海京の近くにあった島ということは、この島も海京と同じかイコンの秘密基地みたいな物なのかもしれないとエンデ・マノリアは考えている。
「そうなの?」
よく分からないまま、オーフェ・マノリアが聞き返した。
「多分。だから、その証拠を探しに行くんだよ。頑張って頂上を目指そう」
なんとか山の頂上まで辿り着くと、コア・ハーティオンたちを始めとして、山を登っていた者たちはほぼ火口周辺に集まっていた。
「よく来てくれました。やはり、ここにはいろいろと発見がありましたよ」
コア・ハーティオンが一同に言ったが、ほとんどの者は思い思いに付近を調べていてあまりまとまりはない。
「なんだ、海京見えるではないか。というか、天沼矛……」
カメラのズーム機能を使って水平線近くを見ていた毒島大佐が叫んだ。
天候が悪かったのではっきりと見えなかったので失念している者が多かったが、頭上にはパラミタ大陸があるのだ。それさえ見えれば、当然天沼矛も見える。そして、その下に海京がある。
たとえ海京が見えなくても、位置など簡単に分かるはずなのだ。
これも忘れてしまいがちではあるが、地球は球体である。無限に遠くが見渡せるわけではない。東京湾からアメリカ大陸が見えないのも、球面特有の問題である。
「にしても、ちっさいのだよ」
最大望遠で、やっと天沼矛の下にちっちゃく島が見える程度である。いかに海京が広いといっても、天沼矛やパラミタ大陸と比べたら、ほとんど点だ。薄い皿の上に長い棒を突き立てて、その上に大きな箱を載せた物を横から見たと想像すればだいたい感じがつかめるだろう。まずはパラミタ大陸を探すべきだったのである。
とはいえ、これだけみんなが混乱したというのは、他にも理由がありそうだ。なにしろ、最初は誰一人天沼矛さえ見つけられなかったのだから。
「低い海岸におきざりにされ、さらに方角を錯覚させられたということか」
海京とはこの山を挟んでの反対側に、絶賛バーベキュー中の海岸を見下ろして源鉄心が言った。
「さすがに、僕らの固定概念を逆手にとられたというところだね」
フィーア・四条がうなずく。もっとも、島の植物たちから、ここが自然の島ではないと聞いていたので、この現実はさもありなんという感じだ。
つまりは、小屋の中にいる間に、この島は180度近く回転していたらしい。そのため、上陸したときには見えていた海京が、あたかも消えてしまったように思えてしまったのだ。実際には、山を盾にして、反対側ではちゃんと見えていたわけである。
だが、それに気づかないでいる間に、この島は海京から100キロ近く離れてしまったようだ。そのため、海岸からはまったく海京が見えなくなってしまった。しかも、偶然か故意か、山からたちのぼる煙や雲でパラミタ大陸を正確に確認することも出来なかったのである。そして、この山に登るための時間によって、また海京から遠く離れてしまったというわけだ。
「分かってしまえば、どうっていうことなかったね。これで方角がはっきりしたんだから、後は船を作れば脱出できるね」
ああよかったと、エンデ・マノリアが言った。
「そうなの? そんなことしないでも迎えに来てもらえばいいのに」
未だに現状を理解していないオーフェ・マノリアが言った。
「おいてけぼりじゃなかったのですね。ああ、よかったですわ」
イコナ・ユア・クックブックもほっと胸をなで下ろした。
「いあいあいあいあいあ……。はたして、そうでしょうか、皆さん」
それまで黙っていたいんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)が、満を持して平たい口を開いた。
「この島へ集められた真の意味を、皆さんは理解しておられるのですか? 否、皆さんは、ちっとも分かっておりません」
わざわざ一同を自分の前に集めると、いんすますぽに夫が語り始めた。
そのころ、葦原 めい(あしわら・めい)と八薙 かりん(やなぎ・かりん)は、まだ頂上には達していなかった。百合園女学院公式水着に着替えるのに手頃な場所がなかなか見つからなかったのと、慎重に進んでいたのに森から出た所で突然変なリア獣に遭遇してそれを回避するのに手間取ってしまったからだ。まったく、野生動物はいないというはずだったのに、なんでパラミタの生物がこの島にいたのだろう。まさか、ペット投棄だろうか……。
「コアちゃんや源ちゃんはもうとっくに着いちゃってるよね」
「少し慎重すぎましたね。急ぎましょう」
葦原めいと八薙かりんはそう言葉を交わすと、頂上を目指して急いだ。
「……というわけで、僕たちは、偉大なるだごーん様の力となるべくここに集められたのです」
「えーっと、よく分からないんだもん……」
困惑した顔のオーフェ・マノリアが小声でつぶやくように言った。
「よくわからないどころか、まったく分からないのだよ」
訂正するというよりも言い切るように、エンデ・マノリアが言った。
「なんということを。ああ、お許しくださいだごーん様。いいですか、もう一度ちゃんと御説明いたしましょう。いあ いあ 苦節18年、人生楽あれば苦あり、滅却心頭火自涼、アイキャンフライ、ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ ざぶーん!」
「だから、意味が分からないっていうの。いいかげんしめるわよ!」
日堂真宵が、いんすますぽに夫に詰め寄った。
「分かりました、本当のことをお話ししましょう。僕だけが知っている、この島の大いなる秘密と宝のことを」
「宝?」
火口のそばで、しきりにダウジングを行っていたティー・ティーが興味を持って聞き返した。
「ですが、誰かに聞かれてはいけません。皆さん、もう少しこちらへ……」
いんすますぽに夫が、自分の前に一同を密集させた。
「ふんぐるい、むぐるうなふ、僕の生け贄をうけとりたーまーえー!! アタックチャーンス!」
突然そう叫んだかと思うと、いんすますぽに夫が、日堂真宵ごとティー・ティーとオーフェ・マノリアに体当たりをかけた。そのまま、イコナ・ユア・クックブックと毒島大佐を巻き込んで、団子となって火口に落ちる。
「ティー! イコナちゃん!」
すぐさま飛び出した源鉄心がかろうじて、オーフェ・マノリアの脚をつかむ。他の者たちが、逆さになったオーフェ・マノリアに鈴なりにぶら下がってかろうじて落下が止まった。
「痛い痛い痛い」
「我慢してくれ、みんな手を貸して引き上げてくれ!!」
悲鳴をあげるオーフェ・マノリアに、源鉄心がコア・ハーティオンにむかって叫んだ。
「よし!」
すぐにコア・ハーティオンが手を貸した。そのすぐ後ろでは、フィーア・四条が手伝うべきかとじっと様子をうかがっている。
「今です!!」
そのとき、いんすますぽに夫が叫んだ。その声に応えて、物陰に隠れていたお化けキノコに乗っただごーん教団の事務員たちが、コア・ハーティオンたちを一気に火口に突き落とした。
「うわああああ!」
「みごとです。クトゥルフ様の御許でまたお会いしましょう」
一同が火口に落ちていく中、いんすますぽに夫が両手を高くかかげて祈りを捧げた。
「みんな、今行くですぅ!」
唯一難を逃れた神代明日香が、空飛ぶ魔法↑↑を駆使して火口に飛び込んだ。
「こ、これって……」
一部始終を下から目撃した葦原めいが愕然として立ちすくんだ。
「集団自殺です!」
声が聞こえなかったため、事態がよく飲み込めずに八薙かりんが叫んだ。
「それとも、大量殺人事件!? とにかく、みんなに知らせなきゃ。戻るよ、かりんちゃん!」
二人だけでは手に負えないと、葦原めいと八薙かりんは急いで山を下りていった。
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