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リアクション
★ ★ ★
「やれやれ、皆さん元気ですねえ。がんばれー。応援しゅうりょー。……さて、これで私の務めは果たしましたよっと……おや?」
海岸に折りたたみのピーチチェアーを出して寝そべっていたプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)は、相変わらず天候の回復しない空と海を見つめていた。
少し深い色の海に、うっすらと色の帯が見える。おそらくは海流だろう。はたして、島に着いたときにあんな海流はあっただろうかと、ちょっとプラチナム・アイゼンシルトは訝しんだ。空に垣間見えるパラミタ大陸も、心なしか見える度に少し違うような気がする。
「後で、マスターたちに伝えておきますか。それにしても、得体の知れない海流がそばを流れているのだとしたら、迂闊に海に入るのは危険でしょうに」
そうつぶやくと、プラチナム・アイゼンシルトは海に入っていく者たちを見守った。
「バーベキュー用の魚を釣るんなら、ボクもやりたい!」
手にした釣り具を、ビキニのむきだしの肩に担ぐと、鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)が鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)の後をついていった。
「普通に釣るだけですよ。じゃあ、俺は投網で魚を捕まえるかな」
水着の上にしっかりとトレードマークのブラックマントを羽織った鬼龍貴仁が、鬼龍白羽に言った。
「わたくしも御一緒いたします」
ワンピース水着を着た常闇 夜月(とこやみ・よづき)も二人についてくる。
「じゃあ、落ちるとあぶないから、二人はここで釣っていてくれますか。俺はあの岩の先で魚を獲っていますから」
泳げない鬼龍白羽を気遣うと、鬼龍貴仁が波飛沫がかかる岩の上に移動して網を投げ始めた。水着にエプロンを着けた調理担当の医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)が、彼とペアとなって、獲れた魚を魚籠に移していく。
「じゃあ、僕たちも釣りを始めるよ」
そう言うと、鬼龍白羽がそばにあった石をひっくり返す。
しゃわしゃわと何かが逃げだしていった。それを、躊躇することなく、鬼龍白羽が素手で捕まえる。
「ひっ、それは、なんでございますか……」
顔を引きつらせながら、常闇夜月が鬼龍白羽に訊ねた。
「何って、フナムシよ」
なんでもないように、鬼龍白羽が答えた。
「ムシ!! きゃあ、捨ててくださいまし。捨てて、捨ててえ!!」
あわてて後退りながら常闇夜月が叫んだ。
「何をそんなに騒ぐのよ。ただの釣りの餌じゃない」
「きゃあ、来ないでくださいませ。嫌ー!!」
ほれほれと獲れたてのフナムシを釣り針につけてブラブラさせる鬼龍白羽をみて、常闇夜月は猛ダッシュで逃げだしていった。
「なんだか騒がしいよね」
断崖をロープで下りながら、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が言った。
「そんなことに気をとらわれないで、早く水に沈むのだ」
ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)がカレン・クレスティアを急かした。
島が移動したのであれば、島の下は何もないはずだ。二人はそれを確かめようというのである。
とりたてて潜水用具を持ってきたわけではないので、素潜りで海の中を調べる。
水中は他の学生たちが漁をしたり遊んだり、あるいは二人と同じように調査をしているので思った以上に視界が悪い。みんな、海底の泥をかき混ぜすぎである。
そう、底。とりあえず、海岸近くにはちゃんと底があった。しっかりと立つことが出来る。だが、この足場が、ずっと沖まで続いているという確証はまだない。
「ぷふぁー。どう、スクリュー音とかいないかなあ」
息継ぎに海面に顔を出して、カレン・クレスティアがジュレール・リーヴェンディに訊ねた。
「いいや。そのような音はしないが……」
同じように浮かびあがってきたジュレール・リーヴェンディが答えた。
「どちらかというと、ポンポンという音しかせぬ」
「火山の音かなあ」
ジュレール・リーヴェンディの言葉に、カレン・クレスティアが首をかしげた。
「とりあえずもう一度潜ろうよ」
ジュレール・リーヴェンディをうながすと、カレン・クレスティアは再び海中に潜っていった。
ドドドドド……。
カレン・クレスティアたちが潜った岸壁のそばを、草薙武尊のバイクが走り去っていった。
水中では、ウォータブリージングリングを使って潜ったエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)とノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)の二人が、海底に何か人工物がないかと探していた。
「ぶくぶく(何か見つけましたか?)」
「ぶくぶく(ううん、まだだよ)」
口から泡をこぼしながら、エリシア・ボックとノーン・クリスタリアがアイコンタクトで会話を交わした。
ノーン・クリスタリアのダウジングでは、何かがありそうなのだが、範囲が広すぎて一点に絞れない。
「ぶくぶーく(まったく、こんなときにいないとは、陽太も役立たずですわ)」
「ぶくぶ(仕方ないよ、今それどころじゃないもん)」
新婚中で今回参加しなかった御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のことを考えて、二人がちょっと愚痴をこぼした。
「ぶくぶく(とりあえず、島を一周しましょう)」
「ぶくー(はーい)」
少し濁って視界の悪い海底を、二人は泥土を巻きあげながら歩いて行った。まだ、海を濁らせているのが自分たちだとは気づいていない。
ずばあ!
「ぶくっ、ぶくぶくー!(な、なんですの)」
突然すぐ近くを何か巨大な影が高速で通りすぎてエリシア・ボックがびっくりした。大口を開けてしまい、あわてて海水を咳き込むようにして吐き出す。
「はははははは、そこです! 私から逃げられはしませんよ! いただきます」
海中からどばっと飛び出した赤褌姿のルイ・フリード(るい・ふりーど)が、手に持った槍を思い切り投げた。逃げ遅れたカジキマグロが、槍に貫かれて盛大に暴れる。
「力比べですか。負けませんよ」
銛につけたロープをぐいと引っぱりながら、ルイ・フリードが言った。激しく暴れまくるカジキマグロのおかげで、周囲に盛大な水飛沫があがる。
「あら、知らないうちに大物が現れたみたい……」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が、ルイ・フリードの戦いに気づいて海面に顔を出して息継ぎした。
魚介類を集めているうちに、水中でゆれるお互いの水着姿にいつの間にか雰囲気が高まってしまい、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)と先ほどまで水中キッスをしていたのだ。
水着に縛りつけた網に入れたアワビやサザエをガラガラと鳴らしながら、セレンフィリティ・シャーレットが水中銃をカジキマグロに放った。
「援護ですか。お気遣いは無用!」
海上にジャンプして逃げようとするカジキマグロを、ぐいと引っぱって海面に叩きつけながらルイ・フリードが言った。
その言葉に、セレアナ・ミアキスが手に持ったランスを投げたものかどうかと迷う。
「大丈夫そうよ」
邪魔しては悪い、いや、本当は自分たちの邪魔となっては悪いとばかりに、セレンフィリティ・シャーレットがセレアナ・ミアキスを再びだき寄せた。
「いいなあ、あんな大物を捕まえて……。それにしても、アリスはどこに行っちゃったのかしら。こっちは魚もろくすっぽ釣れないし……。えーい、こうなったら奥の手ですー!!」
断崖で釣りをしていた葉月可憐が、持ってきていた機晶爆弾を海にポンポーンと放り投げ入れた。気分はダイナマイト漁だ。だが、どこか間違ったのか、機晶爆弾が爆発しないでそのまま沈んでしまった。
「あれれ? 不発なの?」
残念と、葉月可憐がうなだれた。
「誰ですか。こんな危ない物を海に投げ込むなんて。爆発していたら大変でしたわよ」
海面に顔を出したリース・バーロットが、怒った顔で手に持った機晶爆弾を掲げた。
「これはお返しします」
そのまま投げ返そうとするが、海中からではちょっと手がすべって、葉月可憐の所まではとうてい届かないで再び海中に機晶爆弾が沈んだ。
ちょうどそのとき、釣りをしていた鬼龍白羽も何も釣れなくて、いらだちを顕わにしていた。
「こうなったら、ライトニングブラストで、魚を全部痺れさせて一網打尽よ」
「だ、だめでございますよ。人が……」
業を煮やした鬼龍白羽が、常闇夜月が止めるのも聞かずにライトニングブラストを海にむかって無差別に放った。
「うぎゃあ、しびびび……」
海から無数の叫び声が一斉にあがる。直後に、海中で大爆発が起こって白い水柱が盛大にあがった。
ややあって、海面に女の子たちがぷっかりと浮かんで形のいいお尻を水面に晒した。
「ううう、ですが、この程度では、私を倒すことはできませーん」
かろうじて気絶だけはしなかったルイ・フリードだけが海面に顔を出して、気絶したカジキマグロをかかえ込んでいる。
「こらあ、何をしているんです。悪いことをする子はこうです!」
紫月唯斗たちと海上監視員もやっていた紫月睡蓮が、弓に猫パンチをつがえて、連続して放った。
「はうあっ!」
殺傷力はないものの、ぴょーんと飛んでいった猫パンチが、葉月可憐と鬼龍白羽をパンチで吹っ飛ばした。
「みんな、救助に行くのです」
ヨン・ナイフィードの命令で次々に海に飛び込んでいったペンギンたちが、ぷっかり浮いた者たちを浅瀬まで押して救助していった。
「すぐに、みんな海岸にならべなさい。呼吸をしていない者は人工呼吸を……」
「そ、そうだな……」
なんだかそわそわしながら紫月唯斗と戦部小次郎が言ったが、女の子たちに近づいたとたんに駆けつけたペンギンたちに弾き飛ばされた。
いつの間にか、イングリット・ローゼンベルグのペンギンたちまでもが加わって、助けられた女の子たちの口に嘴を突っ込んで人工呼吸をしていくという、一種壮絶な光景が繰り広げられていったのだった。
「やれやれ……仕方ないですね。これらは、私が干物にしてさしあげましょう。うん、いい干物が出来そうでございます」
リース・バーロットたちが取ってきた海産物を拾い集めたクナイ・アヤシが、自分が釣ってきた魚と一緒に手早くさばいていく。浜辺に作った干物台の上に、さばいた魚や貝をならべていって干物にするつもりだ。脱出するにしても、ここで生きのびるにしても、保存食料は必要だった。海産物が捕れる以上、干物は最適だ。
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