リアクション
島の外周 「おかしいなあ。海岸から見えていた海京が見えなくなったから、俺たちが方向感覚を狂わされている可能性は高いはずだと睨んだんだが」 島の外周をぐるりと歩いて回りながら、樹月刀真がつぶやいた。 太陽の位置から現在の東西南北を割り出そうとしている者は彼の他にもたくさんいるのだが、どうにもスコールの降った後であり、天候がいいとはお世辞にも言えない。たまに光がさすものの、空は晴れたり曇ったりだ。おかげで、水平線もどんよりとした雲で被われている。 見あげれば、パラミタ大陸がちゃんと見えるのだが、ずっとそのパラミタで住んでいた学生たちとしては、そのパラミタを見あげるという行為自体をすっかり忘れてしまっている者がほとんどだった。そのため、一番身近なランドマークに気づいていない。 「西がどちらかさえ分かれば……。とにかく、西に進めば日本に辿り着くはずなんだがなあ」 そうは思うものの、すでに海岸が面しているのが西であるという保証すらなくなっている。本来は、海京のすぐ東にこの島はあるはずなのに……。 ★ ★ ★ 「だから、きっと鯨さんが凄い速さで泳いできちゃったんですよ」 「御主人ったら、まだそんなこと言っているのかよ」 ソア・ウェンボリスの空飛ぶ魔法↑↑で一緒に低空を飛びながら、雪国ベアは島の外周を丹念に調べていった。 「ちゃんと、鯨さんの頭を見つけるんですよ。説得して海京に帰ってもらうんですから」 そんなソア・ウェンボリスはきっちりと無視して、雪国ベアはトレジャーセンスで自分たちの乗ってきた船を探していた。闇雲に宝を探しても意味がない。現在の自分たちにとっては、脱出に使えるあの船が最大のお宝のはずである。 「反応はあるんだがなあ。方向は分かっても距離が分からないんじゃ、どこの海の上に浮かんでるのか……、んっ?」 何度か、トレジャーセンスで調べていた雪国ベアは、三角測量でその方向を纏めてみた。 「これは……」 「どうしました、ベア。鯨さんの頭を見つけたんですか?」 ふいに止まった雪国ベアの所に、ソア・ウェンボリスが急いで戻ってきた。 「ああ、見つけたぜ」 断崖の前に浮かんで、雪国ベアが答えた。 砂浜 トテカン、トテカン。 戦部小次郎の筏作りは順調のようだが、一応、パートナーたちと四人は乗れるような大きさを作っているため、イングリット・ローゼンベルグのような自分専用でいいという筏のようにすぐには完成しない。ちゃんと船縁があって、一定の積載量を有したボートに近い筏だからだ。 「問題は、航路ですね。GPSが使えると思っていたのですが、携帯のアンテナが立たないのでは難しいですし……。その点は、この島を離れれば電波状態が回復するかもしれませんし。あとは、リースの食料の確保次第というところですか」 長居する必要はないものの、焦って準備不足になっては意味がない。近くに張ったテントをベースとして、戦部小次郎はじっくりと腰を据えて脱出を進めていくつもりだった。 一方のイングリット・ローゼンベルグの筏は、思いっきり水上を疾走している。とはいえ、帆がついていたり、ペンギンによって引っぱられているとはいえ、作りは実に華奢だ。はたして、外洋に出て高波にあったときはどうなるか分かったものではない。 「みんな、真面目だねー」 フラワシに作らせた砂のベッドに寝そべりながらシュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)はのんびりとお菓子をつまんでいた。非物質化して持ち込んだものだ。さすがに、ガイドさんたちの目でもそこまでは見抜けなかったらしい。 「あ、そこ、三角屋根の塔を二つ作ってね」 フラワシに命じて、かなりりっぱな砂のお城を作っていく。コンジュラー以外の者が見たら、自然と砂が盛りあがって形になっていくという、とても奇妙な光景に見えることだろう。 いよいよ、シュリュズベリィ著・セラエノ断章の砂の城が完成というときだった。 「よーほーほーにゃー」 大波と共に、宙を舞うペンギンたちと共にイングリット・ローゼンベルグの筏が勢いよく砂浜に乗りあげてきた。さんざん遊んで、御満悦の帰還だ。 ざっぱーん。 ズン! 「ああっ、何をする」 「いけー、手下共。略奪にゃー」 みごとな砂の彫刻として完成していたシュリュズベリィ著・セラエノ断章の砂の城の土手っ腹にイングリット・ローゼンベルグの筏が突き刺さっていた。当然、城が崩壊する。 「ああん、せっかく作ったのに。このー、このー」 シュリュズベリィ著・セラエノ断章が、本性を現して砂の城を完膚無きまでに破壊し続けているDSペンギンの頭をぽかぽかと殴った。 「イングリッド海賊団の海賊に何をするにゃ〜」 「あーん、ルイ、助けてよー」 イングリット・ローゼンベルグも加わって、なんだか子供の喧嘩のようになっていく。 「わーい、ペンギンさんたちが遊んでいます。さあ、みんなも混ぜてもらうです」 同じDSペンギンたちを見たヨン・ナイフィードが、自分のペットのDSペンギンたちをその混乱の中に投入した。 「こらこら、何を喧嘩しているの、やめなさい。ああっ、もう、睡蓮手伝って!」 見かねた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)を呼びつつ間に入った。 「ええっと、あの子だけだっけ?」 ほほえましくヨン・ナイフィードを見守っていたアキラ・セイルーンが首を捻った。 無理もない、紫月唯斗の今の姿は、いつもの姿とは違いすぎる。なんでも、女体化の秘術を編み出したらしいのだが、詳細は謎につつまれていた。秘術なのでさもありなんが。 「まったく、ヨンはお気楽じゃのう。わしのように、ちゃんと備えをせねば」 そう言うルシェイメア・フローズンは、ギャザリングヘクスで強化した氷術で、りっぱな氷の帆船を作りあげていた。 やっとターザンごっこに飽きて海岸へと戻ってきたというのに、アキラ・セイルーンとヨン・ナイフィードは遊んでばかりだ。トレジャーセンスでこの島がレアな島だということまでは分かったが、それ以上の成果は上げていない。ここは、脱出用の筏を魔法で作りあげて、アキラ・セイルーンたちに格の違いを見せつけてやらなければ。 「ほーう、りっぱな帆船ですね。しかし……」 何人も乗れそうなりっぱな氷の帆船を見あげて、戦部小次郎が感心するそぶりを見せた。だが、ちょんと押しただけで、あっけなく船に穴が開く。 「こ、こら、何をするのじゃ!」 ルシェイメア・フローズンが怒る間もなく、氷の帆船が横倒しになって粉々に砕け散った。 「溶けてますね」 戦部小次郎が指摘するまでもなく、かなり緯度が低いはずのこの島では氷の船など長時間原形をとどめていられるわけもなかった。 「むむっ。ならば、いっそ、あいつを海に浮かべて箱船にでもするかのう」 ルシェイメア・フローズンが、海岸の端にでーんと鎮座ましましている第七式・シュバルツヴァルド(まーくずぃーべん・しゅばるつう゛ぁるど)をさして言った。 巨大な城のような魔鎧は、鎧というよりはまさに建物だ。ここに運んでくるのも、船の後ろに筏を曳航してその上に乗せてきたぐらいである。 今、その中では、東朱鷺がこの島での調査レポートを纏めている最中である。 「沈むんじゃないんですか?」 絶対に沈みそうだと、第七式・シュバルツヴァルドを見た戦部小次郎が答えた。 |
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