リアクション
森の中 「畜生、何だって、こんなことになってんだよ。ええっ、楽しい臨海学校じゃなかったのかよお」 「大丈夫です、問題はありません。いつもの訓練通り、着実にミッションをこなしていけばいいだけのことです」 森の中で悪態をつくハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)に、レリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)が冷静に答えた。 「だあ、普段からこちとら教練で神経すり減らしてんだ。こんなときぐらい、ぱあっと羽目外したっていいじゃねえかよ。教導団の軍服の厳つい女たちと違って、ここには他校の、こう、ぴらぴらした水着、そう水着だよ、水着を着たかよわい美少女がたくさんいるはずじゃなかったのかよ」 「たくさんいるじゃないですか」 「一緒に遊べなきゃ意味ねえだろがあ!」 淡々と答えるレリウス・アイゼンヴォルフに、ハイラル・ヘイルが頭をかきむしって言い返した。 「だいたい、このくそ熱い太平洋で、なんでお前だけぴっちりと詰め襟閉じてんだ、熱くねえのかよ」 「軍人としては、ごくあたりまえの身だしなみですが。あなたみたいに胸をはだけるのは、ちょっと……」 「空気読めよな!」 叫ぶハイラル・ヘイルに、いいかげんにしてくれと、レリウス・アイゼンヴォルフがチラリと睨んだ。 「うっ、いや、少し騒ぎすぎた。だから、ちょっとその目はやめてくれ。分かった分かーったよ、とりあえず食料を集めればいいんだろ」 「ええ、もちろんです。食料を確保しつつ、現在地を検証しましょう。脱出は、それからです」 「はあ、ほんとに……」 にっこりと答えるレリウス・アイゼンヴォルフに、ハイラル・ヘイルが軽く溜め息をついた。 まったく、息抜きになると思って参加したって言うのに、どうしてこうなった。本当は、レリウス・アイゼンヴォルフに、普通科の学生たちみたいにのんびりさせてやりたかったっていうのに……。 そんなハイラル・ヘイルの思いを知ってか知らずか、レリウス・アイゼンヴォルフは結構楽しそうに木になっている果物を吟味していった。 ★ ★ ★ 「あら、あの木の実、美味しそうですわよ」 藍玉美海が、枝の多い木になった果実をさして久世沙幸に言った。 「もう、少しはねーさまも取ってよね」 二の腕とかを枝に引っ掛けないように注意しながら、久世沙幸が柑橘系らしいオレンジ色の木の実をもぎ取った。 「わたくしは、食べられる物を判定する係、肉体労働は沙幸さんですわよ」 しれっと、藍玉美海が言う。 「もう、結構大変なんだよ」 枝の間に身体を差し入れながら、久世沙幸が言った。 「そうそう、沙幸さん……」 「えっ、何……きゃっ!」 ふいに藍玉美海に聞かれて振り返った久世沙幸だったが、その拍子にビキニの上の紐が枝に引っ掛かった。 ――計画通りっ! ですわっ! グッと、藍玉美海が心の中でサムズアップする。 「まあ、大変ですわ。よろしければ、わたくしが手ブラで隠してさしあげますわよ……」 手をワキワキさせながら、藍玉美海が迫る。 だが、久世沙幸の視線は、藍玉美海の肩越しに、その後ろにむけられていた。 「おおっ、こりゃあ。おい、レリウス、見ろよ!」 偶然その場に出くわしてしまったハイラル・ヘイルが大声をあげる。 「ひゃう!」 久世沙幸が、悲鳴をあげると、周囲の小枝をバキバキと折り砕きながら、引っ掛かって取れたブラをつかんで逃げだした。 「あっ、これ、沙幸さん、待ってえ〜」 あわてて、藍玉美海が後を追う。 「いやあ、これぞ臨海学校の醍醐味であるポロリ……。おい、レリウス、どうした?」 にやけたハイラル・ヘイルが、レリウス・アイゼンヴォルフがに声をかけたが、瞬間返事がない。 「おーい、レリウス、楽しんでるかー」 口に手を当ててメガホンを作りながら、ハイラル・ヘイルがレリウス・アイゼンヴォルフに言った。 「ああ、充分……、いや、早く食料を確保しますよ」 はっと我に返ると、レリウス・アイゼンヴォルフは何ごともなかったかを装って歩き出していった。 「うわっ、今のはなんだったんだぁ〜」 キャーキャー叫びながらすぐ傍を通りすぎていった久世沙幸たちに、清泉 北都(いずみ・ほくと)が呆然と立ちすくんだ。 「どうしたのでございますか? 御無事ですか、北都様?」 一時的に空に飛びあがって周囲を確認していたクナイ・アヤシ(くない・あやし)が、硬直している清泉北都に訊ねた。 「いや、何か……幻だったんだろうねえ。それで、何かあったかあい」 「はい。この先に洞窟らしき物を見つけましたでございます」 「じゃあ、そこへ行ってみようかねえ」 清泉北都が言った。 「では、私は食料の確保に参ります」 洞窟の場所を指示すると、クナイ・アヤシは光の翼を広げて再び飛び去っていった。 ★ ★ ★ 「ええと、これはウドかな? よいしょっと。食べられるよね。こっちは……トリカブト!!」 「なになに、毒草ですか。任せてくださいな」 森で食べられる野草集めをしていたミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)のつぶやきを聞いて、水着姿の天鐘 咲夜(あまがね・さきや)が駆けつけてきた。 「まずいの、まずいの、とんでけー」 ミルディア・ディスティンが見つけたトリカブトに、天鐘咲夜がキュアポイゾンをかけた。 「これでどうですか? もう食べられますよ」 ニッコリ笑いながら、天鐘咲夜がトリカブトを摘んだ。 「これでって……」 毒を浄化したと言っても、さすがにトリカブトを食べる気はしないと、ミルディア・ディスティンがじりじりと後退る。 「おーい、どうだ、何か見つけたか?」 がさがさと木や草をかき分けて、健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)たちがそこへやってきた。 「こっちは、トマトとかジャガイモがたくさんあったわよ。料理は、お姉さんに任せて!」 ちっちゃなトマトらしき赤い実と、タロイモをかかえた水着姿文栄 瑠奈(ふみえ・るな)が、健闘勇刃の後から現れて言った。 「こっちは、トリカブトを見つけましたです」 「トリカブト……あらあら、困った子ね」 誇らしげに報告する天鐘咲夜に、文栄瑠奈がさすがに困ったように言う。 「大丈夫です。ちゃんと毒抜きはしてありますから。えへん」 自慢げに、天鐘咲夜が豊かな胸を張った。 「面白くなってきたじゃない。だったら、食べられるかもしれないわね。なにしろ、今は緊急時ですもの」 その程度で臆していては生き残れないとばかりに、水着姿の枸橘 茨(からたち・いばら)が言った。 「そうなのか? じゃ、ちょっと使ってみるか」 「だめですよ」 脳天気に言う健闘勇刃たちに、文栄瑠奈があわててみんなを考えなおさせた。 「大丈夫。何かあったら医療費を払ってもらうわ」 さも問題なさそうに、枸橘茨が言った。 ★ ★ ★ 「うーん、やっぱりここからじゃ、まだよくは見えないのだよ」 双眼鏡をリュックの中にしまうと、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は途中の木からもいだ木の実の種をぷっと吹いて捨てながら山を目指していった。 「あら、こんな所に野生動物の食べ残しが……。動物はいないという話でしたのに、どういうことなのでしょう」 毒島大佐の食べ残しを発見した八塚 くらら(やつか・くらら)が、ちょっと心配そうな顔をする。水着に鉄扇一つという状況では、あまり野獣の類とは遭遇したくない。 「念のために、落とし穴の罠でも仕掛けておきましょうか」 落とし穴キットを取り出すと、八塚くららは適当な地面を探した。 |
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