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リアクション
「師匠、言われた通りにしたにゃ」
にゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)は、大きな大きな袋を引きずって、ランドリー室にいる変熊 仮面(へんくま・かめん)と合流した。
「ご苦労。これと一緒に、こっちのキャビネットに入れてくれたまえ」
変熊自身は乾燥機から取り出した洗濯物を籠の中にいれていく。
「これは、師匠がこの間買ってきた写真だにゃ? 袋に同封して入れるにゃ」
にゃんくまは言われた通り、用意してきたモノを1つ1つ袋に同封して、キャビネットの中に入れていく。
「にゃんくま君、子供が最も無防備になる時を知っているかね?」
「何にゃ?」
「それは牛乳を口に含んでいる時だ。行くぞっ!」
準備を終えた変熊は籠を抱えて飛び出した。
「師匠!? そうにゃ、パンといえば牛乳にゃ!」
にゃんくまもキャビネットを閉じると、変熊の後を追った。
「あー、忙しい、忙しいっ!」
薔薇学マントに赤マフラー、赤い羽の仮面を身に着けた男が、パーティ会場を横切る。
腕の中には大きな洗濯籠。中には沢山の衣服が入っている。
「あっちのクローゼットに十二星華の洗い物がいっぱいあって大変!」
その言葉に、会場の中にいた子供達が一斉に注目する。
「ふっ、見ているな、牛乳を飲みつつ!」
変熊は素早く籠の中のボクサーパンツを頭に装着し、尻を向ける。
「水戸コウモン!」
カッカッカッ!
と笑うと、会場は凍りついた。
くるりと振り向き、子供達に突進! 椅子の上にひらりと飛び乗り、マント全開!
「この印ノーが目に入らぬかっ!」
ぶぶーっ。
子供達が白い液体を吹き出していく。
「猫の手も借りたい」
しかし、変熊が股間に下げているいわば、変熊が変熊であることを現す紋は、にゃんくまの手で隠されていた。
それでも……。
「キャー!」
「いやーっ!」
女性達から悲鳴が上がり、食器が飛んでくる。
「あてっ、危ないじゃないか、静まれ静まれ、静まれ〜ィ、スケも客も、もう良いでしょう、うぐっ」
「へんた、へんたいさんがいるの、へ、変態さんは、駄目なのーっ!」
給仕をしていた翠が、【我は誘う炎雷の都】で攻撃!
「あちゃ、あちゃちゃっ」
マントが焼け、変熊の露出度がさらに上がってしまった!
「うっ、ぎゃーーーーーーっ」
我慢できず、セレスティアーナが投げたシチュー皿が、変熊の頭にクリティカルヒット、皿は砕け散り、被っていたパンツははらりと落ちた。
「た、楽しんでもらえたようだな。ゼスタッ!」
最後に、ビシッと、変熊は何故かゼスタを指差した。
「おーまーえ………………………………………………………………………………………………………」
ゼスタは黒い微笑みを浮かべつつ、変熊を見ている。
「カーッカッカッ!」
子供達と女性達に強烈な印象を残し、変熊は顔から血を流して会場から去っていった。
「……代王……彼のロイヤルガード免職について、後程お話しが」
額に手を当てつつ、真剣な表情で優子が理子……に扮した陽一に言う。
「いやまあ、侵入者に精神的なダメージを与えるためにやったんですよ、ははは……」
陽一は理子のダメージを心配しながらそう答える。
「……さ、気を取り直して、みんなモニターを見て! アルカンシェルの紹介映像が流れてるわよ」
本物の理子はさほど気にしていないようだった。セレスティアーナを撫でながら、場をとりなすために会場に設置されているモニターへと皆の視線を誘導した。
アルカンシェルの医務室には、医療スタッフの他、各校の医学生も手伝いに訪れていた。
医者の一族の末っ子である新風 燕馬(にいかぜ・えんま)も、臨時のバイトとして怪我人の治療や、病人の介抱を手伝っていた。
彼はここ、医務室では『閻魔』と名乗り、普段とは違う口調、対応で誠実に医療を行っている。
しかしどういうわけか、今日は彼の元を――医務室を訪れる者が、異常なほど多かった。
「はーい、どうなされましたー?」
天使の白衣を纏った燕馬が、顔を上げて診療室に入ってきた人物を見る。
「せんせー、ぼくふみんしょーなんです、ねむくなるおくすりください」
「くださーーーーい」
現れたのは小さな男の子達だ。
(また、体験学習の子供達か。やけに多いな)
燕馬は心の中で不審に思いながらも笑顔で対応する。
「睡眠薬は保護者の方と一緒に、いつも診てもらっているお医者さんにもらってくださいね」
「いまねるぶんだけでいいからちょーだい」
「ねむいんだけどねむれないの」
子供達はどうしてもとせがんでくる。
先ほどから、このような睡眠薬を求めてくる子や、眠らされている子、ジュースで服が汚れただけの子など、病人でも怪我人でもない子供ばかりが訪れていた。
(今日はパーティも行われているというし、人が増え、動く人が多くなれば医務室が繁盛するのが世の常。それだけのこと、だろうか)
「眠れない理由はなにかな? それを取り除けば、ぐっすり眠れると思いますよ」
子供達にそう言うと。
「ママこもりうたうたってくれるとねれるのー。だからおねがい」
「ぼくもおねがいっ!」
子供達はそう言ったかと思うと、燕馬……ではなく、燕馬の助手をしているパートナーのサツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)と、ローザ・シェーントイフェル(ろーざ・しぇーんといふぇる)にそれぞれ抱き着いた。
「ベッドにつれてって。だっこしてよこになって、そしてこもりうたうたって。ぎゅっとだきしめてもらって、しんぞうのおとききながらならねれるんだ、ぐふふふふ……」
「ねるまえに、といれにつれてってほしいな、できればおふろもー。うひぃぃぃぃ」
子供達の笑い声はなんだか奇妙だった。
「治療の必要はなさそうですので、お帰り下さい」
サツキは足にすりよっている子供を、無表情で引き離して診療室の外へと押し出していく。
「でもなーんか、病気っぽいよね。頭の病気かなー。一応治療治療っと」
ローザは子供達をヒールで癒してから同じように、外へと押し出した。
そして。
「仮病っぽい男性や子供が来る理由、やっぱりこれかしら」
ローザは自分の胸を見下ろした。
借りたナース服を纏っているのだけれど、とにかく胸がきつくて、ボタンがはじけ飛びそうなのだ。
「……えーっと、それでもボタンはしっかり留めてて下さいね。ここはいかがわしいお店ではないので」
燕馬はちょっと困り顔だ。
「無駄です先生。作業員の方々の中にはそのピンク女目当てが相当数います」
冷静な声で、サツキが言う。
そういうサツキも、無愛想ではあるが、魅惑的なボディの持ち主だ。
「そうなんですよね……」
燕馬は軽くため息をつく。
2人が助手として手伝ってくれているのは嬉しいけれど……男性を魅了してしまっているようで、仮病を使って訪れる者も多くなっていた。
ただ、彼女達さえしっかりしていれば、間違いは起きたりせず、彼女達の存在は男性陣の癒しとなり得る。
「あたたたたっ、感部をみてくれ!」
ドタンとドアが開く。次に訪れた男は、明らかに患者だった。顔から血を流している。
だが、男が突き出してきたのは、患部より股間が先だった。
何故か全裸。勿論変熊だ。
「……重傷ですね。顔よりも頭が」
素早くサツキはガーゼで股間を封印すると、患者をサツキとローザに預ける。
「患部を洗浄し、異物を取り除いた後、治療を」
「畏まりました、先生」
「任せといてー。頭の中まで癒せるかどうかはわらかないけど。それじゃ、すぐ戻るわね、燕馬ちゃん」
サツキとローザは、治療を行うために患者を処置室へと連れていく。
「今日一番の重症患者だったな……っと、次の方お入りください」
気持ちを切り替えて燕馬が言うと。
「すっごいおねーさんがいるってのはここか? ちと突き指しちまったんだけど」
作業員の男が入ってきた。
「お疲れ様です。突き指ですか? まずは見せてください」
燕馬は丁寧に対応する。
今度の男性は今日初めての普通の患者だった。
尤も、燕馬のパートナー達の治療目当てで訪れたようではあったけれど。
変な患者ばかりの1日だったが、そうして燕馬はバイト最終日の今日も、しっかり務めを果たしたのだった。
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