リアクション
「ちょっと素敵な場所だよね。露天風呂からは、音楽祭の会場を一望できるんだって」 ○ ○ ○ 「シャウラ、落ち着いてください」 「え……?」 シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)は、パートナーのユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)に、落ち着くように言われて初めて、自分が廊下をうろうろ歩き回っていたことに気付いた。 「いつも通りだ。お、俺は普通だぞ」 そう言うものの、何故か鼓動が高鳴っている。 2人は、浴場の入口にいる。 男2人で訪れたのはなく、もう一人連れがいる。 その人物――金元 ななな(かねもと・ななな)を待っているところだった。 女友達も多く、女性に声をかけることも多いシャウラ。だが最近、彼は少しおかしい。 (なななもただのダチだった筈なのに、なんか違うっていうか) 他の女の子達も変わらず皆好きだが、なななに対しては少し違う想いを抱いていることに、シャウラは気付いていた。 温泉への誘いを喜んでOKしてくれたことや、飛空艇の後ろで騒いでいた彼女が……なんというか、とにかく可愛くて。 だけど、部屋も当然別々にしたし、スキンシップも一切していないし。 シャウラはなななに対しては、口説くような行動は何もしていなかった。 そのなななは今、温泉に入っている。 先に出たシャウラとユーシスは部屋には戻らず、ここでなななが出てくるのを待っているというわけだ。 「ななな、遅いな。何かあたんじゃ……」 またうろうろしだすシャウラを見て、ユーシスはため息をついた。 「分かってますよ、シャウラの気持ち」 ユーシスがそう言うと、シャウラは足を止めて彼に目向けた。 「貴方がなななに今一歩踏み出せないのは、今の関係を壊したくないのと、ななな以外の女性にも目が行く自分の性質を自覚しているからでしょう?」 「……!」 「けどシャウラ、踏み出さなければ何も変わりませんよ」 自分を睨むように見るシャウラに、ユーシスははっきりと言った。 「時間は有るようでいて無いものです。特に貴方達短命種にはね」 僅かな時間、沈黙した後で――シャウラは大きく息をつき、真面目な顔でこう答えた。 「ああ……。分かっているさ。けど、なんでわかった?」 「何がですか?」 「俺の、なななへの気持ちとか、踏み出せないわけとか」 シャウラの言葉に、ユーシスは笑みを漏らす。 「ですから伊達に長く生きてないと言ってるのです。ま、頑張りなさい」 ぽん、とユーシスはシャウラの背を叩いた。その時。 「宇宙刑事ななな! 温泉水質調査より生還っ!」 女性用更衣室から、ぴょんと少女が飛び出してくる。 「水質調査って……ちゃんと温泉入ったか?」 「うん、肌で水質を確かめたからね! ちょうどいい温度だったよ。味もよかったし!」 「そ、そうか……」 シャウラはドキドキしてしまい、なななをまっすぐ見る事が出来ない。 湯上りの彼女は、青色の浴衣を纏っていた。 「どーしたの、ゼーさんは、のぼせた!? まさか戦闘民族宇宙微生物の仕業!?」 なななは様子が変なシャウラを気遣い、顔を覗き込もうとする。 「い、いや。温泉は気持ちよかったぜ。ほらよ!」 シャウラは照れ隠しのように、フルーツ牛乳をなななに手渡した。 「ありがとー! 仕事の後の一杯は最高だね!!」 ななながごくごくフルーツ牛乳を飲む姿をちらりと見てから、シャウラは深呼吸をして自分を落ち着かせる。 「ええっと、そうだな、ベタついでに卓球やらね? それか宇宙刑事としての温泉施設のパトロールだ。どっちがやりたい?」 そう尋ねると、なななはは少し考えた後。 「卓球場のパトロールしよっ! 卓球の弾の中に、宇宙寄生虫の卵が紛れ込んでるかもしれないからね」 「そうか、それは大変だな。ラケットで叩いて確かめるか!」 「うん!」 笑い合って、2人は卓球場へと向かう。 「ふふ……次のお出かけでは、私は外した方がいいかもしれませんね」 ユーシスは楽しそうななななと、緊張しながらもやはり楽しそうなシャウラを見ながら、ひそかに笑みを浮かべていた。 シャウラの軽さはある種のポーズであり、内実は真面目だと知っている。 それから3人は、くたくたになるまで、宇宙寄生虫探しという名の卓球を楽しんだ。 部屋は男女別にとっていたので、別々だった。だけれど、夜は遅くまで一緒に喋っていたし、目覚まし時計の代わりに、朝一番でなななが男性陣の部屋に飛び込んできたりと、色気はなかったけれど共にとても楽しい時間を過ごした。 |
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