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仲秋の一日~美景の出で湯、大地の楽曲~

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仲秋の一日~美景の出で湯、大地の楽曲~

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 温泉宿でアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)秋月 葵(あきづき・あおい)と合流した。
「ん〜ゼスタ先生のことだからアレナ先輩の反応が面白いからだと思うけど……」
 ゼスタと二人で泊る予定だと聞いた葵は、ゼスタのことを思い浮かべてそう思うも、やはりちょっと気になって。
「それでも、何か起こったら困るしね。白百合団班長として百合園生を守るのは当然の義務……アレナさんは卒業生だけど、パートナーの優子先輩は在校生だから護衛対象だよ」
 建て前ではあるが、そう言って、夜までアレナと一緒に過ごすことにした。
「は、はい。ありがとうございます」
 アレナはきょろきょろあたりを見回している。緊張しているようだった。
「それじゃ、露天風呂行きましょう〜。どうせなら楽しんだ方がいいですよ」
「はい、温泉入りましょう、葵さん」
 アレナは部屋にはいかず、受付で荷物を預けると、葵と共に露天風呂へと向かうことにした。

 日が暮れて、外はとても暗かったけれど。
 音楽祭会場から明るい音楽が流れてきている。
「アレナ先輩、こっちで見ましょう!」
 白色の湯浴み着を着て湯船に入った葵は、会場がよく見下ろせる位置にアレナを招く。
 ピンク色の湯浴み着を纏ったアレナも、湯船に入って、葵の隣に歩いてくる。
 並んで、音楽祭会場を見下ろす。
「あ、こっち見ている人がいます」
「手をふろっか!」
「はい!」
 手を振ると、こちらを見ていた若者達も手を振ってくる。
 次の曲が始まり、会場の人々がリズムに乗っていく。
「ペンライト、ここで使おっ」
「はい」
 葵とアレナは、仲居のリースが用意してくれた防水のペンライトを灯した。
 葵は魔法少女のステッキみたいなペンライト。
 アレナは先端がリンゴのような形になっているペンライト。
 共に可愛らしいライトだ。
 アレナは微笑みながら、赤色のリンゴのペンライトを揺らして、楽しんでいる人々を見つめる。
 葵はふうと息をつく。
(アレナ先輩、楽しそう。あたしものーんびりしよっと……)
 体を伸ばして、葵は音楽に合せてペンライトをゆっくり揺らす。
「ん? アレナさんと葵さんだ!」
「よく見えんが、そこにおるのか?」
 湯船に入ってきたレキとミアが2人に近づいてきた。
 レキとミアは本日2度目の入浴だ。
「音楽祭、始まってるみたいだね」
「はい、ここから良く見えます」
 微笑んで、アレナはレキ達に場所を譲ろうとする。
「ううん、ボク達はこっちから見るから大丈夫だよ。あ、なんかいい曲だね……」
 響いてくる柔らかな曲に、レキは目を細めた。
 激しい曲ばかりではない。
 心に響く曲も、奏でられていた。
「音楽は昔も今も変わらぬ。心震わせるものがある」
 そう呟いて、ミアはそっとアレナを見た。
 湯につかって、葵と共に会場に目を向けている彼女は、穏やかな表情をしていた。
(心が和らげば良いの)
 吐息をついた後、ミアはレキと顔を合せて軽く微笑み合い。
 のんびり、湯と音楽で心と体を癒していく。

 葵とアレナは、切の良いところで温泉から上がり、浴衣を纏って食事に向かうことにした。
 赤らんだ顔で微笑み合いながら、廊下を歩いていると――向かいから、ゼスタがやってきた。男友達を連れている。
「こんばんは」
 彼は優しい微笑みをアレナに見せた。
「こんばんは、ゼスタさん」
「こんばんは、ゼスタ先生!」
 アレナはぺこりと頭を下げて、葵は元気よく言う。
「アレナ先輩から、今日の事聞いたんだけど」
 葵はにこにこ微笑みながら、一応忠告しておくことにする。
「変なことしたら、優子先輩に報告するからね〜♪」
「……了解」
 くすっとゼスタは笑った。
「それじゃ、夕食後に」
 アレナにそう言うと、ゼスタは男湯の方に向かって行った。
「……」
 アレナはゼスタの後ろ姿をじっと見つめている。
「なんか、やっぱり……」
「アレナ先輩?」
「ちょっと、怖い、です」
「大丈夫ですよ♪ 悪い事考えてる目じゃなさそうだったし。変なこと考えてるのなら、周りにバレないようにやるんじゃないかな。あたしが知っているってことは、大丈夫ってことですよ!」
 葵はそうアレナを励ましていく。
「さ、休憩所で休んだ後、夕飯食べに行きましょう〜♪」
 葵がアレナの腕を引っ張る。
「あっ、葵さん、浴衣の紐外れそうになってます。お部屋で直しますね」
「ありがとっ。実は、上手く着られなくて」
「私、優子さんに習ったので、着付けとかお手伝いできますっ」
 アレナの顔に笑みが戻っていた。
 部屋で、互いの服や髪の毛を整え合った後、2人は一緒に食事に向かった。
 それから、また遊ぼうねと約束をして、その晩は別れたのだった。

○     ○     ○


「温泉に入る前に、お互い体を流しましょうか?」
 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は、イングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)と共に、温泉宿を訪れていた。
 2人は武芸に秀でていながらも、お嬢様としての気品を持つ少女だ。
 彼女達の整った顔と肢体に、入浴中の女性達もつい目を留めてしまう。
「そうですわね」
 イングリットはそう答えて、桶に湯を入れて、タオルを濡らしていく。
「あら、とても可愛らしい石鹸ですわ」
 洗い場には、もみじの形の石鹸が置かれていた。
「こちらには、音符の絵が描かれています。音楽祭が行われるからでしょうか」
 イングリットと小夜子は備え付けの石鹸を見て、微笑みを浮かべる。
 ちょっともったいないなと思いながら、イングリットはもみじの石鹸を、小夜子は音符の絵が描かれた石鹸を使って、身体を洗い始めた。
「背中を洗ってあげますわ」
「ふふ、お願いしますわ」
 イングリットは少し照れながら、小夜子にタオルを預ける。
(美緒さんとは方向性が違いますけれど……)
 小夜子はイングリットの背を洗ってあげながら、彼女の身体を眺めていた。
(女性としての魅力、十分ありますわ。もう少し成長したら、更に美しくなるのでしょうね)
「良い体つきですし、それに良い香りがしますわ」
「ふふふっ、お姉様、なんだか恥ずかしいです」
「恥ずかしがることはありませんわよ。イングリットさん、お美しいですから」
 お湯をかけて泡を流すと、彼女の白い肌が現れる。
 小夜子は純粋に、綺麗だなと感じた。
「はい、鍛えていますから、贅肉はあまりないかと思います。あ、わたくしにもお姉様の背、洗わせてください」
 小夜子がイングリットの背を洗い終えた後に、イングリットも小夜子のタオルをとって、彼女の背を洗っていく。
「素敵な体つきですわ……。うっとりしてしまうほどに」
「ありがとうございます」
 イングリットの言葉に、小夜子は素直に礼を言った。
「お姉様も、相当鍛えてますわね」
「ふふ、どうでしょうね」
 イングリットの洗い方はマッサージのようで、心地良かった。
「そういえば、イングリットさんは何故武道をやろうと思ったのですか?」
 洗ってもらいながら、小夜子はイングリットに尋ねてみた。
「小柄な人が、大きな人を投げ飛ばす『柔よく剛を制す』精神に惹かれたのです。あと、名探偵も使用していたというところにも」
 イングリットは活き活きとした声で答えてくれた。
「お姉様は? どうして鍛錬をされているのですか?」
「私の場合は、パラミタに来て学園生活や依頼をこなしている中、鏖殺寺院に返り討ちにされたのか切っ掛けで強くなろうと思ったのです」
「鏖殺寺院、ですか……わたくしとお姉様では、強さを求める理由も、心意気も違いますわね。わたくしも、お姉様達のように、気高く美しい闘士になりたいですわ」
 イングリットの言葉に小夜子はくすりと微笑む。
「そういえば、イングリットさんとは手合せの約束をしたまま、してませんね」
「今、してくださいますか!?」
 イングリットが小夜子に体を向ける。が、タオルで体を隠している。
「というわけにはいきませんから、機会があればやりましょうね」
 くすくす笑いながら小夜子はそう答えた。
「そうですね……ふふ」
「その時を楽しみにしてますわ」
「はい、わたくしも楽しみにしています」
 そして、もう一度互いの体を流すと、二人は露天風呂へと向かっていく。
 今日は、闘いと訓練で疲れた体を癒す為に来たのだ。
 心地良い温泉と、流れてくる音楽をゆっくり、堪能することにした。