リアクション
「ゼスタの野郎、今度は何企んでやがる!?」 ○ ○ ○ 「十分な量がありますね。豪華ではありませんが、家庭的な味です」 ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)は、部屋で夕食を取りながら、ふむふむと頷く。 彼女は冒険屋ギルドのギルドマスターとして、年末に予定している忘年会の会場を探していた。 この温泉宿は大荒野のオアシスにあることからも、堅苦しい決まり事などはなく、夜遅くまで多少騒いでも、大丈夫そうであった。 「ギルドメンバーの多くが学生さんですから、ギルドで幾らか負担するにしてもあまり高い部屋は借りられないんですよね……」 秋の味覚をふんだんに取り入れた料理は、温かな味わいで、美味しかったし、宿泊料金も手ごろだった。 「団体割引が効くかどうか、あとでお店の人に聞いてみましょう」 「戻りました。……あっ、先に食べてるなんて、ずるいです!」 温泉から、メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)が戻ってきた。 「私の分は、これとこれとこれですね! なるほど、食べきれない程の料理です」 メティスはノアが食べている膳以外を自分の方に寄せた。 「これは俺……」 「いただきます!」 膳を一つ自分の元に引き寄せようとしたレン・オズワルド(れん・おずわるど)だが、メティスはそれを許さず、料理を抱え込むようにガードして食べ始めた。 ため息をついて、レンはザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)を見る。 ザミエルは元々料理には興味がないようで、窓際で地酒を飲んでいた。 レンのパートナーのノア、メティス、ザミエルはいずれも浴衣姿だ。 4人は、冒険屋ギルドの慰安旅行の下見を兼ねて温泉宿にやって来ていた。 「ここは俺の部屋のはずだが」 レンは苦笑しつつ、グラスを持って、ザミエルの隣に腰かけた。 部屋は自分用と、女性であるパートナー用の2部屋とってあった。 しかしザミエルがここで飲み始めたことをきっかけにパートナー達がこちらの部屋に集まってしまっていた。 別にかまわないのだが……ただ、多分このままでは、この部屋は、夜通し飲むための部屋になってしまうだろう。 女性陣は眠くなったら自分達の部屋に戻ればいいが、レンは一晩中、飲みに付き合うことになりそうだ。 「そういえば、宿帳に記帳する時に、見知った方の名前を見つけたのですが、何だか意味ありげでしたよ」 もぐもぐ料理を食べながら、メティスがノアに話していく。 「見知った方ってゼスタさんでしたっけ?」 「はい、彼の連れなんですが、どうやらアレナ・ミセファヌスさんのようです。2人部屋で過ごすようですよー。神楽崎優子さんならまだわかるんですけれどね」 そんなメティスの言葉を聞いた途端。 「2人の部屋に挨拶に行こう」 立ち上がったのはザミエルだった。 「いや、待て。挨拶はいいんだが……」 「否、行かねばならぬ!」 突如大声で言うと、ザミエルは部屋から飛び出していった。 「……ったく」 レンはまたため息をついて、苦笑すると酒を飲みながら、帰りを待つことにした。 しばらくして。 廊下でうろうろしていたアレナを連れて、ザミエルは戻ってきた。 「飲むなとは言わん。だが、無理に勧めるなよ」 と、レンが言っている傍から。 「飲め! 飲まぬとは言わせん!」 酒を注いで、ザミエルはアレナに勧めていく。 「わ、私お酒はあまり……」 「はいはい、交換しましょー」 ノアがアレナの手から押し付けられたグラスととって、自分のジュースと交換し、回収した酒の入ったグラスは、レンの手に持たせた。 「さあ、飲め! 私の酒が飲めぬとは言わせんぞ!」 酔っぱらってるザミエルには良く分かってないらしく、とにかくアレナに飲むように勧めていく。 「い、いただきますっ」 ザミエルの迫力にびくびくしながら、アレナはジュースを飲む。 ジュースが減るとザミエルが酒を注ごうとするため、ノアはビール瓶を洗って、中にジンジャエールを入れて、ザミエルに持たせておく。 ザミエルは上機嫌で、歌いだしたり、歌わせようとしたり。 ノアとメティスも食事を終えてからはザミエルに付き合い、手拍子で盛り上げたり、一緒に歌ったりしていた。 アレナは窓際に下がって、グラスを両手で包み込みながら楽しそうな皆の姿を見ていた。 「お前も歌ってみたらどうだ?」 レンの言葉にアレナは首を左右に振る。 「ここで見ていることが、楽しい、です」 「そうか。……だが、それだけではお前の気持ちは、真に浮きはしない。一人で、ただ悩んでいたのではな」 アレナには悩みがある。 彼女が真に楽しめていないことくらい、レンには分かっていた。 「悩みを解決する為に行動を起こすこと。もし自分一人で解決出来ない問題なら、信頼出来る仲間と一緒に事に当たれ」 レンの言葉を、静かにアレナは聞いていた。 「チームを組め。そうすれば結果は自ずと出るだろう」 若者は、この言葉に反発するかもしれない。 自分も若い頃はそうだったから。 レンはそう思いながらも、アレナに話していく。 大人になった今では、知らないなどという顔は出来ないから。 「だから、悩みがあるなら、相談してくれ。俺達はいつでも君の側にいる」 アレナは戸惑いの表情を見せた後、首をゆっくり縦に振った。 「色々と考えてること、あるんですけれど……上手く、言葉で言えないんです。ただ、私は優子さんの力になりたい。優子さんのパートナーの剣の花嫁として、優子さんの剣でありたい、んです」 だけど、彼女は光条兵器を取り出せなくなってしまい、剣の花嫁としての力を失ってしまっていた。 「良い方法が浮かんだら、教えてください。お願いします」 アレナはレンにぺこりと頭を下げた。 「さあ、飲め! 飲むんだ、飲みまくれぇ!」 歌い終えたザミエルが酒瓶を手に、迫ってくる。 びくっと震えたアレナをレンは後ろに匿い、代わりにグラスをだして、自分のグラスに酒を注がせた。 「ここの酒は上手いが、強要はやめておけ」 レンの言葉はザミエルの耳には入らず「もっと酒を持ってこーい」などと、騒ぎ出す。 「まったく」 三度目のため息をつくレンを見て、アレナは微笑みを浮かべていた。 |
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