リアクション
友人の瀬島 壮太(せじま・そうた)に誘われてエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、温泉宿を訪れていた。 ○ ○ ○ 一方、女湯の方では。 「ホント、最低です。あのバカ、あのバカ、あのバカ」 バカを連呼しながら、鬼久保 偲(おにくぼ・しのぶ)がごしごし体を洗っていた。 「あまり力を入れすぎると、肌を傷つけるでござるぞ。せっかくのキレイな身体が台無しになってしまう」 隣で体を洗いながら、偲を気づかっているのは、同じ学校の生徒である真田 佐保(さなだ・さほ)だ。 「色々と勝手するわ、尻ぬぐいはいつもこっちだわッ! 今日だって、疲れた、しんどいとか言って湯治に来たくせに、あの食べっぷり、卓球での燃えっぷりを見れば、嘘だってことくらいすぐにわかります!」 「単純に、温泉を楽しみたかっただけなのでござろう」 「ううん、単純じゃないんです。単純ならわかりやすくていいんだけど!」 ざばっと、偲はお湯をかけて泡を落とす。 偲がバカ呼ばわりしている相手、それはパートナーの瀬山 裕輝(せやま・ひろき)だ。 裕輝の行動は意味が分からない。 彼は今日、しんどい、疲れた、そんな言葉を吐いて、ぐったりした表情でこの温泉宿を訪れた。 癒されるために。 だけど実際のところ、裕輝は特に疲れていたわけでも、しんどかったわけでもない。 病は気から、俗に言う言霊。 わざわざしんどくなって、治療のために温泉入り、普通の時より、より一層気持ちよくなろうとしてのことだった。 本当に分かり難いのだ。 そして、何かしら問題を起こす。 「次来たら、やるわ、私」 鋭い目で、偲は仕切りを見る。 男湯と女湯の仕切りは、先ほど起こった覗き事件で壊れてしまった。 その際、裕輝の姿は見えなかったが、絶対彼も絡んでいる。そうに違いないと偲は思い込んでいた。 「それにしても、落ち着かないでござる……」 苦笑しながら、佐保は温泉に入る。 タオルと小刀を頭の上に乗せて。 現在、男湯と女湯を仕切っているのは木の板ではなくて。 僕 達 覗 き を し ま し た ! と、左右の尻に1文字ずつマジックで文字が書かれた姿で、繋がれているパラ実の少年達だった。 なんでも、パラ実体育の先生がちょうど温泉に来ていたようで、やんちゃをしていた彼らは褌一丁にされ、筏状に縛られた挙句、仕切りとして括り付けられてしまったのだ。 勿論顔は男湯の方を向いており、アイマスク、さるぐつわを噛まされている。 「ホント、せっかくの景色が台無し。全部あのバカのせい」 偲はため息をつきながら、湯船に入り、空を見上げた。 温かな湯は心地良く、夜空に浮かぶ月と星はとても綺麗だ。 (この時間だけでも、バカのことは忘れてゆっくりしよう) そう思った矢先。 男湯の方から話声が聞こえてきた。 「……君……こんなに大きいの、どうしたんですか?」 「ああ、ちょっとな」 「それに、こんなに硬くて……」 「というか、……こそなんだよ……オレが来る前から、もうこんなになっちまったのかよ」 「……君も二十歳なんですね……。 もう時効だから白状すると、やっぱり未成年だから……って、どこか思ってたんですよ。でもこれからは、遠慮しませんからね?」 「やっぱりガキあつかいしてたのかよ」 「でも、あんたがそうい言うのなら、もう遠慮しなくてもいいんだよな」 「なあ……今夜はいいんだろ?」 「……ええ、構いません。思う存分、ご自由に」 「……っ」 「明日は特に予定ありませんので、朝まででも大丈夫ですよ」 「ああ、眠らせないぜ。覚悟しろよ」 ぶくぶくぶくぶく……。 佐保が赤くなって、湯の中に沈んでいく。 「し、佐保さん……っ」 偲は佐保の腕を引っ張って、仕切りから離れた位置へと連れていく。 そして、改めて空を見上げるが、どうにもドキドキしてしまって、集中できない。 「お風呂から出たら、あのバカでも殴ってストレスを発散しよう。……ううん、発散にならないのも分かってるけどね」 「ほどほどにしておくでござるよ。仲が良すぎてああいう流れになっても、拙者は困ってしまうがな」 ちらりと、佐保は男湯の方に目を向けた。 「絶対にないから、安心して」 偲は黒い笑みを浮かべる。 その頃、裕輝は――。 「温泉卵とか出来とるんかなぁ」 温泉に卵を入れて、ぼーっと見ていた。ただそれだけだった。 |
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