リアクション
音楽祭の熱気は、露店風呂まで伝わってくる。 ○ ○ ○ 「うーん、気持ちいい〜」 昼過ぎ。 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、パートナーのミア・マハ(みあ・まは)と共に、温泉に浸かっていた。 専用のお盆の上に、フルーツの盛り合わせと麦茶のグラスを乗せて、半身浴しながら頂いて。 青空の下、のんびり、ゆったりくつろいでいた。 「やはり眼鏡が雲ってしまうの」 ミアは雲ってしまう眼鏡を、頭にひっかけておくことにした。 眼鏡がないと周りが良く見えないので、ふらふらしてしまう。 「レキ」 「うん、ミア、転ばないようにね」 ミアが伸ばした手をレキが掴み、自分の方へとゆっくりひっぱる。 一緒に、湯の中に体を漂わせたり、フルーツを食べたり、麦茶を飲んだり。 のんびり至極の時間を過ごしていく――。 ○ ○ ○ 「え!? ここの露天風呂って混浴じゃないのか!?」 温泉旅館に到着した四谷 大助(しや・だいすけ)は、パンフレットを見てがっかりした。 「混浴って……」 音楽祭会場から訪れた雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)が、訝しげな目を向けてくる。 「あ、変な意味はないよ? ほら、湯浴み着OKだし、水着専用混浴とかあったらよかったのにって思ったんだ。だって、せっかく一緒に来たのに、一緒に音楽祭を観賞出来ないのは残念だろ?」 「まあ、そうだけど……その方が、安全よ。私と一緒にいると、碌な事ないから、ね」 「それは絶対ない。一緒の方が安全に決まってる。何より楽しいし!」 強く言いきって、大助は荷物を預けると、雅羅を誘って外に出ることにした。 庭園を散歩したり他愛無い話をして楽しく過ごし、夕方になってから。 大助は雅羅を露店風呂へと誘った。 (結構賑わってるな……) 男性用の露天風呂には、先客が沢山おり、音楽祭を見ながらのんびりとしている。 女性用の露天風呂との間には、木製の仕切りがあるが……時折、女性の声や、水音が聞こえてくることから、かなり薄いということが分かる。 音楽祭が見下ろせる方向が混んでいることもあり、大助は仕切りの近くの湯船に入った。 日が落ちると同時に、明るい月が目に入った。 (今日は満月か……そういえば、今日は月見だったな。ますます、雅羅と一緒だったらって思うよ) ため息をつきながら、大助は水面に映った月を見つめていた。 「雅羅と2人で見たかったな……」 つい口に出してしまった、途端。 「何が?」 と、声が響いてきた――仕切りの向こうから。 「ま、雅羅!? なんでこっち側に」 大助は動揺してしまう。 「景色が見える方には、人が集まってるから。近づいて、何か迷惑をかけたくないし」 「そっか。大丈夫だよ。だけど……何かあっても助けに行けないから。うん、こっちにいてくれると嬉しいな。ここまで、音楽も聞こえてくるしね」 「ええ、盛りあがってるようね」 「この曲、日本の曲だ〜。雅羅は知ってる?」 「聞いたことくらいはあるわ。歌詞まではわからないけれど」 「ドラマの主題歌だった曲で……」 流れてくる音楽を聞きながら、大助と雅羅は互いの姿が見えないまま、会話を楽しんでいく。 ……ふと、大助の目に、また水面に映る月が映った。 見上げれば、幻想的で美しい月が、空から自分達を見つめていた。 「あのさ、雅羅」 「ん?」 大助は少し間を開けて、呼吸を整えて言う――。 「……『月が綺麗ですね』」 「あ、ホント……満月ね、綺麗」 返事はすぐに返ってきた。 その答えに、大助はちょっとがっかりして。 でも、かなりホッとしていた。 「うん、凄く綺麗だ。後で庭にでて、一緒に見よう」 そしてもう一度、同じ言葉を彼女に言おう。 いつか彼女はその言葉の意味を、理解してくれるだろうか。 答えを聞くのは……まだちょっと怖くもあった。 |
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