リアクション
「広いお風呂ですねー。景色も最高です」 ○ ○ ○ 「おっ、盛り上がってるな〜」 「はい、皆楽しそうです」 温泉宿近くの丘の上から、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)は、アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)と共に、音楽祭を見下ろしていた。 アレナは会場で騒ぐよりも、このように少し後方で賑やかな場所を見下ろすことが好きなようだ。 「そういえば、アレナ、今日あの宿に泊まっていくんだよな?」 康之がアレナにそう尋ねると、何故かアレナはびくっと震えた。 「ん? 優子さんと合流するのか? それとも他の誰かと泊るのか?」 一人ってことはないよなと思いながら、康之はアレナに尋ねた。 「あの……」 アレナは少し迷った後、康之を見つめる。 「優子さんには、声、かけてない、みたいなんです。優子さんのパートナー同士で、泊るんです」 「そ、うなのか」 そう答えた後、康之は沈黙した。 (ゼスタと泊るって意味か? 男と女で同じ部屋……は思い返せば某もちみっ子と同じような事あるし、パートナー同士だと別に珍しくないのか?) 康之は、パートナーの匿名 某(とくな・なにがし)と、某のパートナーの女の子のことを思い浮かべる。 いや、だけど……。 (うぉぉ! なんだか知らんがもやっとするぞ〜!) 康之の心にもやもやした感情が渦巻いていく。 頭をぶんぶん振って、黙りこくっているアレナに頑張って笑みを向ける。 「ゼスタと2人で泊るって意味だよな? ゼスタってどんなヤツ?」 「そうです。ゼスタさんのことは……分からないです」 「好きとか嫌いとかは? いい印象?」 「……あまり。優子さんが、ゼスタさんのこと、あまり好きじゃないように、見えます、し。ゼスタさんと優子さん、合わないと思うんです」 それに、と。 アレナは小さな声で、話していく。 「優子さんが、ゼスタさんと契約したのは、私のせい、だと思うんです。私がパートナーとして優子さんの側にいられなかったから、かもしれないし、私を助けるために、力や立場が必要だったから、かもしれません」 そんな風に色々考えてしまって、アレナはゼスタをまっすぐに見れないのだと言う。 簡単に言えば『苦手』らしい。 「そうか……うーん」 康之は腕を組む。 本人に会って、話をしてみたいとも思うが、首をつっこんでいいことなのか迷う。 少なくても、アレナが離宮にいた時、自分は彼女の隣にいた存在なのだから……全くの部外者じゃない、かもしれない。 「ええっと、経緯はどうあれ、互いに同じパートナーを持つ者同士なんだ。だから、仲良くできたらいいな、とは思うぞ」 「はい」 康之の言葉に、アレナは素直に頷く。 「それに……優子さんがいなくなって、アレナも一緒に眠りについたら、絶対寂しくなる。そんなのは可哀想じゃねえか」 康之がそう言うと、アレナは軽く驚きの表情を浮かべた。 「寂しい……?」 「ああうん、ゼスタは吸血鬼なんだろ? パートナーを失った後も、長く生きるだろうからな」 「康之さんは……優しいです」 アレナはふわりと笑みを見せた。 「そういうこと、私考えてなかったです。疑う気持ち、持ってしまっていました。契約理由はどうでも、同じ優子さんのパートナーですから、優子さんのこと大切に思う、仲間、一番近い人、だから……仲良くしなきゃ、ダメですよね。そう思って、ゼスタさんも誘ってくれたのかもしれませんっ」 「うん、そうそう。仲良く出来るといいな!」 言いながらも、やっぱり康之はもやもやするものを感じていた。 (2人きりで仲良く過ごすことを勧めちまったような気が……それでいいのか? うぉぉ!) 駄目だ、このままじゃ、ゼスタの話で終わってしまう。 康之はまた頭を振ると、話題を変えることにする。 「っと、次の曲はロックだな!」 「ろっくという曲ですか」 「いや、曲名じゃなくて、ジャンルだ。アレナはロック知らないか〜。普段はどんな音楽聞いてるんだ?」 「ええっと、優子さんが聞いていた曲とか聞いてます。学校でもかかっていた曲です」 クラシックのようだった。 「そっか。歌とかはあまり歌ったり、聞いたりしないのか?」 「歌は……機会がなければ、歌わないです。あっ、この間、皆で誕生日の歌を歌ったんです」 「なるほど、機会があったら、俺にも聞かせてくれよ。アレナの歌ってどんなのだろうかって気になってさ」 康之のお願いに、アレナはちょっと赤くなる。 「はい。で、でもステージとかは絶対ダメです」 「うん、解ってる! 歌えそうなら、俺も一緒に歌うし、場所もアレナが大丈夫な場所で歌おうな!」 康之の言葉に、アレナはこくりと頷いた。 音楽祭会場からは、明るい音楽が流れてくる。 楽しそうな人々を見下ろしながら、康之とアレナも共に楽しい時間を過ごすのだった。 |
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