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リアクション
第4章
「……さて」
四葉 幸輝はパーティ会場に呟いた。ビルの崩壊は始まっている。もちろんこのビルと運命を共にする気はない。
だが、このまま研究材料であるアニーと恋歌を放置していくわけにはいかない。
特に『恋歌』という存在は彼にとっても重要な『パートナー』なのだ。
「あの声……どうして、彼女――レンカが」
『……物思いにふけっている暇はないよ』
突然、藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)がその幸輝に襲い掛かる。
「天樹っ!」
パートナーの琳 鳳明(りん・ほうめい)が叫んだ。突然のパートナーの乱行に戸惑いを隠せないが、すぐに『恋歌』の亡霊に憑依されたのだと気付く。
鳳明の叫びを無視して、天樹はニューラル・ウィップを使って攻撃をしかけた。
「――ふっ!!」
だが、幸輝は目の前に力の障壁を展開させ、その攻撃を防いだ。何らかの超能力だろう。
「!?」
驚きの表情を見せる鳳明。幸輝はこともなげに口の端を上げた。
「驚くには値しないでしょう、アイドルのお嬢さん。私のような研究者がこの地に渡って2年以上。
魔術、技術、生物……地球にはない宝の山を研究し、実践したいと思うことに不思議はありませんよね。
その結果として――私が『幸運にも』魔術の力や超能力を得たとしても」
「幸運……?」
幸輝の言葉に引っかかりを覚えた鳳明。そして天樹の攻撃をかわし続ける幸輝。そこに、更なる人影が襲い掛かった。
ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)だった。
「おや――」
手にした剣を幸輝へと向けるヴァル。だが、そこにパートナーのキリカ・キリルク(きりか・きりるく)が割って入った。
「……ヴァルっ!!」
ヴァルの剣を受け止めたキリカは、そのままヴァルを押し留めて幸輝との距離をとる。
その後ろ姿を眺め、幸輝は呟いた。
「ほう――帝王を名乗るような男でも、亡霊などに憑依されるのですか」
その響きには、軽い揶揄が込められている。自らのパートナーを貶められる屈辱に、しかしキリカは冷静さを失わない。
「――ヴァル、大丈夫。君ならできる――」
そっと、キリカの指がヴァルの目蓋に触れた。
「――っ」
軽い瞬き。それをきっかけに、ヴァルは自らの意識を取り戻していた。辛うじて、憑依した『恋歌』に身体の主導権を渡さぬように抵抗する。
「ぐ……キ……リカ……!!」
「おやおや――帝王だの何だのと言ってもその程度ですか――これは期待外れでしたね」
幸輝の嘲笑を浴びながらも、ヴァルは汗を流して抵抗を続けた。強い意志の力で、自らの身体を律する。
「ふ――そうだな。帝王だなんだと……言っても、所詮はこの程度……だが――」
「……?」
キリカに押し留められた剣を収めて、ヴァルは幸輝に視線を向ける。
「――哀れな娘たちを止め、多少の救いの助けをすることはできる、さ」
立ち上がったヴァルに幸輝は更なる嘲笑を浴びせた。
「ふ――救いの助け、では重複していますよ。貴方が何らかの救いをもたらす、というのではないのですか?」
しかしその嘲笑もヴァルの心を乱すには至らない。
「ああ――真に救いをもたらすべきは……『恋歌』達さ――俺は、その手助けが出来るかも知れない、という程度の存在。
そして、その程度の存在であることに満足している。
そして助かるべきは……四葉 幸輝――おまえと、そして全ての恋歌達だ……待っていろ……」
どうにかして『恋歌』の意識と通じ、身体を渡さないように戦うヴァル。
「……」
幸輝は答えない。そこに、また一人の男が割って入る。
「ああ、同感やな」
日下部 社(くさかべ・やしろ)だった。パートナーの響 未来(ひびき・みらい)を従えて、幸輝とヴァルの視界に入った。
ヴァルに語りかける社。口元はイタズラっぽく笑っているが、その視線は真剣だ。
「物語に救いがないっちゅうのはカンベンやで。
その救いを求めて、あんたはあえて亡霊を受け入れた。ウチのパートナーと同じにな。
せやろ?」
社の言葉に振り返ると、未来もまた先ほどのヴァルと同様に恋歌に憑依された状態でいる。
しかし、その内側では必死に抵抗を続けているのだろう、脂汗を浮かべて、きつく眉間にしわを寄せている。
そして、同じ『846プロ』に所属する茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)も同じ想いだった。
衿栖もまた、あえて恋歌の亡霊を受け入れ、自らに憑依されることでその心を深く知ろうとしていた。
「……はぁ……っ、そうよ……彼女達だって被害者……そんな彼女達を除霊して終わりだなんて……絶対に認めません……」
朦朧とする意識。気を抜くと一瞬で殺意と悪意に全てを持っていかれそうになる感覚。
ヴァルも未来も、衿栖も、そして天樹も戦っていた。
「……しっかしなぁ……何なんやろうな? ラッキーっちゅんは……ほんで、大人っちゅうんはな」
戦い続ける仲間と共に幸輝に対峙し、社は言葉をかけた。
ぽりぽりと頭をかきながら、どこかおどけたように、しかし真剣な眼差しで社は語った。
「そりゃあな、この社会で生きていくためには……何かを守るために何かを犠牲にする……必要なこともあるやろ。
俺もまぁ846プロの社長なんてやっとるからなぁ、自分ではクソみたいな思いしながらも、せなアカンことなんて山ほどあるわ。
それもまた大人の一面ってヤツや……せやろ、幸輝社長?」
「……ま、社会の縮図、てヤツですかね」
ややシニカルに肩をすくめる幸輝。いかに『幸運』という能力を持っているとしても、やはりひとつの会社を立ち上げ、ここまで成長させるにはそれなりの苦労もあったことだろう。
「けどな、あんたはあまりにも多くのものを犠牲にしすぎたわ……。
せやろ? 幸せなんてな、自分で味わうモンやない。自分は多少苦労しても、他人に届けるモンや。
……少なくとも俺の『社長』としての仕事はそういうモンやと思っとる……ウチのアイドルたちもな。
せやから……せやから幸せになった人の笑顔を見て……初めて自分も幸せになれるんや」
「……ふむ、見解の相違ですね、日下部さん。
それはあなたの幸せだ。私の望みはそこにはない。私にとってもはや自分以外の人間など、自らの欲望を叶えるためのエサに過ぎませんからね」
その言葉に、ヴァルは叫んだ。
「それでどうなるというんだ!!
たった一人でその欲望とやらを叶え――自らの能力を超え、運命への介入……その『復讐』を果たしたあと、おまえには何が残るんだ!!」
「――復讐、ですか?」
虚ろな笑みで幸輝が聞き返す。
「そうだ……おまえが自らの能力に気付いたのがいつかは知らない……。
だが、今の恋歌が語ることがおそらく真実なのだろう……。
彼女は言ったな。『最初にレンカが死にました』と。
最初の『レンカ』……彼女が死んだことが、運命への復讐に駆り立てることになった原因のひとつ。
だが、多くの『恋歌』を犠牲にしてその力を得て……たった一人で切り開く運命の先には何があるんだ!!
何もないじゃないか! その運命を分かち合える誰かすら居ない!!」
ヴァルの言葉に、幸輝の表情が歪む。
「……レンカ……彼女のことに触れられるのは……」
幸輝がパーティ会場に燃え盛る炎に右手を突っ込む。
自らの魔力で増幅した炎を取り出した幸輝は、ヴァルや社、そして亡霊への抵抗を続ける未来、衿栖、そして天樹へとそれを放った。
「うわあああっ!!」
「……少々、不愉快ですよ」
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