リアクション
* 事の発端は、七月も後半に入ったある日、恭也がアイリを“原色の海”へ誘ったことだった。 「パラミタ内海に綺麗な場所があるって聞いたんだよ。一緒に行ってみねぇか?」 いや、それは発端なのか? そもそも相手がアイリであったのが運の付きというべきか。いやいや、そんなことを言うならば、こんな風変わりなお嬢さんと友達になった自分に原因があるのか(尤も、彼女の来たという“未来”からすれば必然性があるのだろうが)。 ともかく、アイリが快く承諾してくれたためこうしているというわけだが、 「いいですよ。現在の内海の様子を把握することも必要ですから」 この言葉を軽く考えていたのだ、さっきまで。 恭也とアイリは船で原色の海中央部にある港町・ヴォルロスへ訪れると、早速ヌイ族とかいうゆる族の遊覧船で眺めを楽しんだ。 「ふーん、ここはまだ来た事が無かったんだが、来て正解だったなー。こんだけ綺麗な海は今まで見た事無かったし」 空の青と、海の青。空も抜けるような色をしていたが、特に海の幾重もの青には透明感があった。 それから白い石造りの街から少し足を延ばして、人気のないビーチに来たのである。 二人は暫く、打ち寄せては返す波の音に耳を傾け、キラキラ輝く海面と白い波を眺めていた。 「水、冷たいかなー」 恭也は眺めているだけでは飽き足らなくなって、恭也はビーチサンダルをはめた足を海水に浸した。太陽はもう夏のような輝きで、砂浜も程よく熱せられている。ひんやりとした水が心地良かった。 「いやいや、こういうのも悪くないもんだなー。アイリ、せっかくだから泳いでみようか?」 足の甲を洗っては引いていく波にちゃぷちゃぷと音を立てながら、振り返った時だ。 肩の力を抜いてごく自然に振り返った恭也の目に映ったのは、既に服を脱ぎ終えて、水着姿になったアイリの姿だった。 月並みな表現だが、青い空に白い雲。白い砂浜、青い海。それと同じく、アイリの白く透けるような肌に青い髪と瞳がよく映えていた。 几帳面な性格だからか、水着は天御柱学院指定だったが、それなりの恰好をすれば人魚かセイレーンか、はたまた精霊のようにも見えただろう。 「へぇ、用意がいいな。ちょっと俺も着替えてくる」 関心した恭也は、自分ものんびりと陸の方へ戻ろうとしたが――が、アイリは、 「世界平和のための視察、そして訓練は欠かせませんよね」 言ったかと思うと、彼を置いて海に突進していった。 「おい、ちょっと、待て!」 慌てて羽織っていたパーカーとビーチサンダルを脱ぎ捨てて、水着で後を追う。 「あ、恭也さん、始めは25メートル10本からですよ!」 波間の間から、笑顔でアイリが手を振る。 「初めて来た海なんだから無茶するなよ」 「はい、遠くには行きませんから」 他に何か言うことがあったんじゃないか、と恭也が言葉を捻り出す前に、アイリは既に波の中に潜っていた。彼も慌てて再び、後を追う。 * (……それから、えーと、クロールと背泳ぎとバタフライと……) やっと海から上がったと思ったら、アイリはビーチバレーのボールを出してきたのだ。 それが競技用の本格的な奴で、不良とはいえど元教導団の彼も熱心さに驚いてしまった。 「ほら、次は恭也さんの番ですよ!」 アイリが声をかけてくる。 眼前でレシーブしたボールが、ぽーんと空に跳ねた。 「ああ!」 アイリは普段通り生真面目な表情だったが、目元は笑っている。 (……そうだな、友達とバレーの練習、ってところか) 「全く……」 恭也は苦笑した。嫌な笑い方ではなかった。どちらかというと自分に呆れたような、それがとても嬉しいことのような……。 「手加減しないからな、覚悟しとけよ!」 恭也は腕を上げ、アイリ目がけてボールを打ち込んだ。 |
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