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まほろば遊郭譚 第二回/全四回

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まほろば遊郭譚 第二回/全四回

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第ニ章 海軍軍議1

 エリュシオン帝国第四龍騎士団と瑞穂軍に対抗するため、マホロバの空海軍軍議が行われている。
 軍艦奉行並の七篠 類(ななしの・たぐい)は、国内で引き続き造船や武器の製造を進めていた。
 彼のパートナーたちである頤 歪(おとがい・ひずみ)グェンドリス・リーメンバー(ぐぇんどりす・りーめんばー)尾長 黒羽(おなが・くろは)が造船所を取り仕切っている。
 しかし、前将軍の元に大奥入りした葦原 房姫(あしはらの・ふさひめ)の女官だったローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が、頼もしい助っ人を連れてきたと言って、三人の提督を連れてきた。
 ジョン・ポール・ジョーンズ(じょんぽーる・じょーんず)ホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)ヴィルヘルム・フォン・テゲトフ(う゛ぃるへるむ・ふぉんてげとふ)である。
 いずれも地球では大提督をして名を馳せた人物である。
 ジョーンズとネルソンはそれぞれ母国の海軍式訓練を提案する。
 テゲトフは早急に木造船から鋼鉄船へ移行するべきだと発言していた。
「そうは言っても、マホロバにはそのような鋼鉄の軍艦を作るだけの資材、技術……なにより時間がない。一隻建造するのに何ヶ月かかると思うんだ? 下手したら年単位だぞ。戦う前にやられてしまう」
 と一蹴する軍艦奉行並。
 一方、テゲトフは、海戦における作戦の幅を狭めるものでもあると説いた。
「私の指揮した海戦では、舳先を尖らせて衝角という構造を作り、相手の船に衝角を向けて体当たりした。結果、新装甲の我が艦隊が数にも優る敵艦隊をけちらし、勝利へと導いたのだ」
「マホロバにはマホロバの戦いがある。木造のほうが小さく軽く小回りも効く。相手は鉄の戦艦ではなく……龍騎士……生きものなんだ……残念ながらね!」
 二人は真っ向から意見が食い違う。
 マホロバの匠を信じ、人材を育てたいとする類と、自分の体験から鋼鉄船の有益性を譲らないテゲトフ。
「あんたが連れてきたんだろ、何とかしてくれよ。海軍奉行並は、作戦のため留守だ。俺ももうじき出かけなきゃならん」
 陸軍奉行並の武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が、ローザマリアへ耳打ちした。
「あら、こんなときにどちらへ?」
「葦原明倫館総奉行ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)殿と……ちょっと空京までな」と、牙竜。
「ハイナ総奉行と……遠出? 二人きりで!?」
 ローザマリアは自ら補完した言葉に頭を巡らせ、妄想が膨らんだのか、ジト目で牙竜を見た。
「べ、別に二人きりじゃないっ。そんな目で見ないでくれ。やましい事はしてないんだから。シャンバラ政府と交渉に行くんだ。それでこっちの話だが、葦原 房姫(あしはらの・ふさひめ)に頼み込んで、彼らを連れ込んだのはあんただろ。ただでさえ、マホロバの幕臣をまとめるのに苦労してるんだ」
「私はただみてるだけよ。提督の活躍を見ていたいの」
 平然と答えるローザマリアに、牙竜は呆れ顔だ。
「まあ、マホロバが戦力的に心許ないのではあるのは事実だからな。もしかしたら……良い土産を持って帰れるかもしれない。期待して持っててくれ」
 ローザマリアは、牙竜がシャンバラ政府と何を話すのか気になった。
「ええ、待ってるわ。帰って来たら、教えてね。私に関わることなら、なおさらよ」

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「感謝いたします、ハイナ殿。空京への旅路、私がお守りいたしまので」
 飛空艇の中では、重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)が要人ガードとして控えている。
 ハイナは「礼にはおよばない。葦原明倫館総奉行として責務を果たしているだけだから」と答えた。
「それより、肝心のシャンバラ政府との交渉は、立案者の武神殿にやってもらうでありんす。主の心配をしたほうがよいでありんすよ」
「と、いいますと?」
「以前に改革を断行しようとした楠山大老が暗殺されたように、開国を良いように思わない連中も大勢いるでやんす。シャンバラとの交渉の進み具合によっては、武神殿も用心することに越したことはないでありんすよ」
「……マホロバで命を狙われると申されるか」
 ハイナが返事をしないことがその答だった。
 リュウライザーも黙りこみ、彼女は明日の葦原の行方を思案しているようだった。

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 空京。
 そこはシャンバラにとって大事な拠点である。
 シャンバラ政府もこの場所にあり、マホロバから幕臣がやっていたということに一同驚きを隠せなった。
 なんせ、これまで正式な国交らしきものが行われてこなかったのである。
 極東に浮かぶ謎のベールに包まれた国。
 神秘的な黄金の国マホロバ。
 そんな認識が独り歩きしているくらいであった。
 そのような場所へ牙竜は葦原明倫館総奉行とやってきたのだ。
 そこで、彼は以下のような協定を申し出た。

一、世界樹イルミンスールから世界樹・扶桑へのコーラルネットワークを利用した生命力の供給
一、扶桑への付け火犯人の国際手配と処罰
一、扶桑火付けにより弱まったことで被害拡大した基金や疫病への支援のために蒼十字の派遣要請
一、マホロバで戦っている他校生イコンの修理のための物資と人員の派遣


 直ちに審議が開始されるが、それはまる三日かかるという事態に陥った。
 大きな問題として、マホロバが国際的にまだ公式に認めてれていないということがある。
 これまで政治の表舞台に出てこなかった国である。
 ただ、扶桑という世界樹の存在は確認されており、パラミタ全体の問題で考えれば、由々しき事態であるという見解になった。

 結果として、シャンバラ政府とは通行通商条約を結ぶという合意至った。
 内容は主に、マホロバの鎖国政策をできるだけ緩和し、一般のシャンバラ人やマホロバ人に対して海外へ渡航を認めること。
 輸出入の制限を緩和すること。
 そしてマホロバ国内で犯罪を犯した者を国際手配犯としてシャンバラ政府も対応すること、であった。
 そしてもう一つ――重要なことがあった。
「コーラルネットワークですね」
 武神 雅(たけがみ・みやび)が神妙な顔つきで、リュウライザーからの連絡を聞いている。
 リュウライザーは会談の成功だけを伝え、彼女たちに無用な心配をかけさせまいとしていた。
「今、イルミンスールではアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)様が不在だって聞いてるけど……」
 雅の目配せに龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)も相づちを打つ。
「とりあえず、八咫烏(やたがらす)を派遣してこのことを各地に伝えましょう。心配するのはそれからよ」
 灯の支持で黒い影の忍者軍団がほうぼうへ散っていく。
 彼女たちはそれをいつまでも見つめていた。
 やがて意を決すると、雅が灯に言う。
「……私たちも行こう。扶桑の元へ」