リアクション
▽ ▽ アーリエは、ついにイデアの居場所を探し出した。 たった一人で強襲したディヴァーナに、護衛のマーラが斬り捨てられる。 「ウパスダナ!? 一体何が……!」 騒ぎを聞いて駆けつけたナゴリュウは、倒れた男に走り寄ろうとして、両手に剣を持って立つアーリエに気が付いた。 「ヤマプリーの方が、何の御用ですか」 「しらばっくれないでよ。イスラフィールは何処?」 「……知りません」 答えた直後、ナゴリュウはアーリエの剣に斬り捨てられた。 腹部に、焼けるような痛み。倒れたナゴリュウには目もくれずに、アーリエは先に進んで行く。 (……痛い。死ぬ……) ナゴリュウは動けないまま、迎えようとする死を恐怖した。 (ああ、でも、それも仕方ないのかもしれない……) 自分の過去を振り返り、ここで足掻く資格はない、と諦め、霞む目を閉じて、力を抜いた。 どさ、とアーリエは前のめりに倒れた。 手から剣が離れる。 「くっ……」 「俺の館で、随分好き勝手やってくれる」 背後から歩み寄ったイデアが、アーリエの剣を拾い上げた。 好き勝手やっているのはどっちだよ、と、言い返そうとして、口から血を吐く。 「ああ、今楽にしてやろう」 イデアが、アーリエの剣を振り上げる。 此処まで来て。 アーリエは、無念の思いでイデアを睨みつけた。 △ △ リネン・エルフト達は、トオルを連れ去るスイムルグ達に肉薄した。 攻撃は通じない。リネンは、再び前世のアーリエと同調することを考えていた。 あの姿であれば、彼等に有効打を与えられる。今は、それに賭けるしかないと思った。 リネンは、前回の同調の後、いつの間にか手にしていた、アーリエの剣を握り締める。 「シキ、美羽、みんな。 私が変わっても、今度は止めないで。私、もう一度やってみる。 今度は行けるところまで行ってみようと思うの」 シキは、その言葉に、リネンを見た。 「……賛成はできない。あれは、危険だと思う」 「危険なのは解ってる。けど……私は、アーリエとは違う」 自分とアーリエはよく似ている。 そして今の目的も、トオルとイスラフィールと取り戻そうとしていることで一致していた。 けれど、自分はアーリエとは違う。 トオル以上に、現世で失いたくない仲間達との生活がある。 それを絶対に忘れない。アーリエに飲み込まれたりしない。そう心を強く持つ。 シキは、そうか、と頷いた。 トオル達を見つけた時、小鳥遊美羽やシキ達は迷わず、足止めして来る五百蔵東雲達に向かった。 彼等を、逆に足止めする。 「リネン、任せたからね!」 リネンは銃をしまい、剣を携えて二刀になる。アーリエの武装だ。 心の中で、アーリエの感覚を思い出した。 イスラフィールを奪われた、アーリエの思いと同調する。 これはチャンスよ、前世の私。……あなたは、過去に失敗した。でも今、もう一度やり直すことができる。 今度こそ、取り戻すのだ。 リネンは、バーストダッシュで一気にスイムルグに追いつく。 その背には、翼があった。 「ちっ!」 身を翻すスイムルグに担がれたトオルが落とされる。 衝撃で、トオルが目を覚ました。 「うっ……」 顔をしかめ、起き上がった先の光景にはっとする。 禍々しい輝きを秘めた魔剣を持つアーリエによって、スイムルグが業火に包まれた。 叫喚の声を上げながら、スイムルグの身体が燃やし尽くされる。 「……母さん?」 トオルが、呟いたその直後。 「――うわ!」 トオルの背後から、イデアの腕が回された。 「ってめ……!」 「君がイスラフィールなのか。覚醒は、まだだな」 「そんなんしてたまるかっ!」 トオルは、もがきながら叫ぶ。イデアは拘束する力を強めた。 「イデア!」 アーリエが、イデア達を見て表情を険しくする。 「わたしの子を、返しなさい!」 「生憎だが、それはできない」 トオルを引きずって退くイデアの前に、彼の仲間と思われる男が二人、割り込んだ。 「5分でいい。彼女は今同調していて、お前達には干渉できない。立っていればいい」 「ふん、つまらんな」 言いながらも、二人の男はアーリエの前に立ちはだかり、イデアはトオルを連れて立ち去る。 「待ちなさい、イデア!!」 アーリエは絶叫した。 邪魔が入らないだろう程度のところまで離れて、イデアはトオルを組み敷き、右手で彼の額を掴まえた。 「時間が惜しい。強制的にやらせて貰う」 「くそっ……」 がっちりと押さえつけられて、動けなかった。 ヤバい、と思ったのだ。 最初に思い出した、あの時。 詳しいことは何も解らなかったが、自分の前世はまずい、と何故か思った。 誰かと接触することによって、この記憶が甦って行くのだと気が付いた。 接触しても大丈夫な相手と、大丈夫ではない相手との違いが解らない。 だから、なるべく誰にも触れずに済むように、一人で逃げることしか、そう判断するしかできなかったのだ。 皆、ごめん、と、その瞬間に、思う。 「――お前、聞こえてるか! こいつにいいように利用されたくなかったら、俺のダチを頼れよッ!」 そして、最後にそう叫んで。 がく、と、突然シキが倒れた。 「ちょっと!?」 ニキータ・エリザロフが慌てて駆け寄るが、シキの意識はなく、呼びかけてもまるで反応が無い。 「……まさか」 この症状は、とニキータは呟いた。 5分が過ぎて、デナワや東雲、イデアの手の者達は撤退した。 アーリエの翼が消え、リネンの姿に戻って、リネンもまた、倒れる。 駆け寄った美羽は、苦しそうな表情ながらも、リネンの意識があることにほっとした。 ◇ ◇ ◇ イスラフィールは、覚醒した直後、反射的にイデアの手を振り払い、彼の元を飛び去って逃げた。 「……まあいい。落ち着けば戻って来るだろう」 イデアは暫く待つことにし、来ないようであれば迎えに行け、とデナワに命じる。 そして、イスラフィールはひとり、ルーナサズから離れた小高い丘の上で、周囲を見渡して混乱していた。 「……此処は、何処だ?」 |
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