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リアクション
パラ実校長探し
シャンバラ大荒野南部では、戦乱を避けて移動する人々が増えていた。
「難民の人を手助けしながら、パラ実校長の手がかりを探さないか?」
波羅蜜多実業高等学校校長石原 肥満(いしはら・こえみつ)を探していた生徒達は、スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)のそんな提案で避難民のキャンプを訪れていた。
「こんな服を着たお爺さん、見かけなかった?」
白菊珂慧(しらぎく・かけい)が避難民達に携帯電話の画面を見せてまわる。画面には、保存した着物のイラストが表示されていた。
「トドマオアシスで見たような……」
「えっ?! その話、詳しく聞かせてくれない?」
ダメ元で聞きまわっていたが、ついに情報を持つ人物に行き当たった。
聞いた話を総合し、クルト・ルーナ・リュング(くると・るーなりゅんぐ)が皆に言う。
「その老人に、取り巻きや連れはいないようですね。戦火も近いようですから、保護するのであれば急ぐべきでしょう」
一行はトドマへと急いだ。
本来なら、テントが立ち並ぶ小オアシスなのだが、今は無人の掘ったて小屋がいくつか並ぶだけだ。
だが一軒の小屋から、良い匂いの煙が立ち昇っていた。魚を焼いているようだ。
樹月刀真(きづき・とうま)が緊張した面持ちで、扉を開ける。
「もし、こちらにパラ実の石原校長はいらっしゃいますか?」
「ん? スケさん、メシの時間かの?」
七輪で魚を焼いていた老人が、顔を上げた。着物姿で、携帯結界装置を身に着けている。
刀真達が自己紹介している間に、漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)が携帯に保存していたパラ実校長の肖像画を開き、老人と見比べる。
「やっぱり、この人が石原校長本人じゃないかしら」
「石原校長、お探ししました」
「おおう、メシの時間かね?」
老人は不思議そうな顔で、焼けた魚を皿に乗せ、箸でつつき始める。それを見て珂慧がつぶやく。
「着物に箸……この人が日本人なのは確かなようだけど、なんだか会話がかみ合ってなくない?」
スレヴィが老人に言う。
「もうお食事は取られているようですが?」
今日の彼は、上質な執事服に身を包み、言葉使いも含めて完全に執事モードだ。
スレヴィに言われ、老人は笑顔になる。
「おうおう、それはご親切にどうも。……で、メシは何時なのかのう?」
生徒達は顔を見合わせる。
兎ゆる族アレフティナ・ストルイピン(あれふてぃな・すとるいぴん)が言いにくそうに言う。
「……けっこうなお爺さんだし、こんな荒野に一人でいるし……記憶喪失とか老人性のものが来てるんじゃ……?」
緋月・西園(ひづき・にしぞの)もうなずく。
「そんな感じね。ドージェの乱で、思い出したくないような出来事があった、って可能性もありそうね」
スレヴィが地を出して、うめく。
「そんな……! ようやく執事として仕えるべき主が見つかったと思ったのに!」
泉椿(いずみ・つばき)は、あっと言う間に魚を食べ終わった老人に言う。
「なあ、なんでこんな所にいるんだ? 今まで、どうしてたんだ? 分かる範囲で教えてくれよ」
「はぁ〜、けっこうなお日和ですなぁ。……で、メシの時間はまだですかの?」
「軽食ならご用意してございます」
スレヴィがティータイムのスキルで、お茶とお菓子を老人の前に用意する。彼の努力に、アレフティナは思わず涙を誘われる。
(あのスレヴィさんが、こんなに一生懸命に……!)
しかし老人は気楽な様子で、スレヴィが差し出した紅茶をズズズとすする。
「はぁ〜、茶がうまいですのぅ」
老人の様子を観察していた刀真が、皆に言う。
「精神的疾患であるならば、適切な治療をする事で回復するかもしれません。保護してツァンダに連れていきましょう」
「えー、他校生に任せるのは、いいように利用されそうで、なんかイヤなんだけど」
珂慧が異を唱えるが、刀真は言い返す。
「このままの状態では、キマク家にいいように利用されるのでは?」
その時、小屋の上で、大きな風音と猛禽の鳴き声が響いた。しかし、どちらも余りにも大きい。
「なんだ?!」
突然、小屋の壁と屋根が破壊された。巨大な猛禽の顔が入ってきて、老人をクチバシで器用にくわえ上げた。
「うひゃあーー!」
「しまった! ロック鳥か?!」
刀真がバスタードソードで巨鳥に斬りつけ、椿がアサルトカービンを撃ち込む。だが通った様子は無い。鳥の背で、鏖殺寺院の制服を着た魔術師があざ笑いをあげる。
「こいつは我々鏖殺寺院がもらっていくぞ! ははははは!」
巨鳥が羽ばたき、周囲に嵐を巻き起こす。追いかける間も無く、鳥は石原校長らしき老人をくわえたまま、西の空へと消えていった。
事件後。携帯電話の通じるオアシスまで戻った生徒達は、それぞれに連絡を取る。
刀真は蒼空学園校長御神楽環菜(みかぐら・かんな)に、電話をかけた。
それに先駆け、月夜が携帯電話のカメラで録画していた、老人との会話シーンと、巨鳥に連れ去られたシーンの動画を環菜に送信している。
報告を受けた環菜は言う。
「そう。……パラ実に、鏖殺寺院と戦うよう要請する材料にはなりそうね。彼らとて、表立って校長を見捨てる訳にはいかない。良い交渉材料だわ。お疲れ様」
刀真は環菜校長の役に立てたようだ。
一方、椿は砕音に電話で、事の一部始終を説明した。
砕音は腑に落ちない様子だ。
「大荒野でロック鳥に乗る鏖殺寺院メンバー? 聞いた事ないな……。そんな派手な奴なら、噂ぐらい聞こえていても良さそうだが。……しかも、そのタイミングで石原校長を連れ去るなんて、できすぎな気がする。
本当に鏖殺寺院が石原校長の身柄を確保したなら、今後、鏖殺寺院から何らかの意思表明はあってしかるべきだが……どうだろうな。
なんにしろ、教えてくれて、すごく助かったよ。ありがとうな、泉」
「いやいやー、砕音先生のためだったら、どーって事ないぜ」
「そうか? ただ、大荒野は戦争状態で危険だから、気をつけるんだぞ」
「う、うん。気をつけるぜ」
椿は憧れの砕音と話し、ウキウキ気分だった。
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