空京

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建国の絆(第3回)

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建国の絆(第3回)
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内通者探し


 パラ実の軍勢には一見、統一された指揮系統が見当たらない。しかし部隊が投入されるタイミングは的を射ており、数千〜数万の兵で攻めては引く事を繰り返した。そのため教導団側は間断なく戦闘を強いられ、疲労が蓄積していく。
 シャンバラ教導団団長にして第一師団指揮官金鋭峰(じん・るいふぉん)は、憲兵に団員や義勇兵、百合園看護隊の中に内通者が潜んでいないか捜査にあたるよう命じた。
 やがて憲兵らの捜査結果が憲兵科大尉灰 玄豺(フゥイ・シュエンチャイ)に集まってくる。

 灰大尉のいる小会議室に、百合園看護隊に加わる百合園生伊達黒実(だて・くろざね)が救急箱を携えて訪ねた。
「看護隊員と患者、共に怪しい動き見せるようなお方は見つからへん」
 黒実は、百合園看護隊を疑われるのは不本意と、パートナーの式丞智知丸(しきじょう・ともちかまる)と共に、みずから内通者を探したのだ。
 水分補給にと水を配りつつ、くまなく後方陣地内を探ったのだが、怪しい者は見つからなかった。
 今は、手当てと称し、後を智知丸に任せて報告に来ている。
「ふむ。後方陣地は、お嬢様育ちのヒステリーとその同調者が、スケベ心を出して探りすぎた憲兵と対立してゴタついていたが、これで目は行き届いたな」
 大尉は唸る。

 他にも憲兵以外で、内通者対策をする者がいた。前線に立つ戦部小次郎(いくさべ・こじろう)だ。
 まずは情報撹乱を行い、パラ実部隊を混乱させる。だがパラ実部隊の多くは、狼煙や太鼓を伝達手段としていた。これに情報撹乱のスキルを使うのは難しい。結局、砲兵科の協力を得て、太鼓の音を打ち消す事になった。
 それによって敵の攻めてこない空白の時間ができた。
 小次郎は塹壕に身を潜めて、その時を待つ。
 やがてパラ実部隊が突撃してくる。
 小次郎は、その指揮官をスナイパーライフルで狙撃した。獲った。
 彼は即座に、リース・バーロット(りーす・ばーろっと)が運転するバイクのサイドカーに飛び乗り、移動する。攻撃と離脱を繰り返しながら、戦場を走りまわった。

 武勲を立てたが、小次郎の表情は浮かない。
 その後も、攻撃を切らさない絶妙のタイミングで、部隊が次々とやってくるからだ。投入を指示する者は、部隊と共に前線に出ている訳ではないようだ。
 小次郎は溜息をついた。
「何も考えずにドンパチするのも好きなんですけどね」


「どういうつもりかね、灰大尉?」
 歩兵科中佐が不機嫌そうに聞く。灰は捜査と称して、第一師団の参謀や佐官、尉官に話を聞きまわっていたのだ。
 大尉は慇懃無礼に返す。
「義勇兵を疑ったり、不審者を探す者は、すでに山といますのでね。私は教導団団員や、人前で疑いを持たれずに情報機器に触れられる人間を調べていたのですよ」
「本国の信任厚い我々を疑うと?!」
「身の潔白を証明するお手伝いをしているだけですが」
 中佐は灰を睨みつける。
「フン、貴官の熱心な仕事ぶりは上に報告しておくとしよう」
「それはそれは。ご配慮、恐れ入ります」


 憲兵が、技術科士官候補生一条アリーセ(いちじょう・ありーせ)を逮捕する。
 アリーセはドラゴンの支配下手術に反対し、ドラゴンを勝手に逃がそうとしたのだ。
 もっとも技術的な資料は閲覧しても理解できず、ドラゴン舎に忍びこんで彼らを誘導しようとしていたところを、巡回中の兵士に逮捕された。
 またドラゴンに、彼女の言葉に耳を貸した様子は無かった。
 騒ぎを聞きつけ、第一師団技術科少佐カリーナ・イェルネ教授もドラゴン舎にやってくる。憲兵が彼女に状況を説明した。イェルネ教授は、中国、欧州魔法連合、日本それぞれに支持されている。階級以上に重要な人物だ。
 そこにアリーセのパートナー、久我グスタフ(くが・ぐすたふ)も駆けつけ、彼女を代弁する。
「ドラゴンの意思をねじ伏せて無理矢理戦わせるってのは不味いだろ。下手すりゃドラゴン種族そのものが敵に回る上に、地球人排斥派に攻撃材料を与える事にもなりかねん」
 だが教授は失笑し、冷たく返した。
「くだらない偽善ね。本来、ドラゴンを始めとしたパラミタは、未契約の地球人を受け入れない。それを我々は、結界でパラミタの防御機能を欺き、地球人の群れを浮遊大陸に入植させようとしているのよ。もともとパラミタと地球は相反する、決して交わる物ではないのに、今さら何を寝ぼけた事を言っているの?」
 彼女の言葉に、憲兵に押さえつけられていたアリーセが声を上げる。
「そんな風に考えてるなら、なぜ支配下手術などするんですか?」
「不可能な事を、科学や魔法の技術で組み伏せる事こそが私の喜びだからよ」

 アリーセは本来なら営倉送りだが、前線ではコンテナに閉じ込めて見張りを置く事になる。しかし、彼女ために手間と人員を裂く意味は無いとして、アリーセはグスタフと共に本校に送還され、そこで投獄された。