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紅葉が散る前に……

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紅葉が散る前に……

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香鈴の占い

「ふふふふ、これが香鈴さんの占い部屋ですか」
 いつの間にかテントまで設営していた香鈴。
 イルミンスールチックな外装のそれを見て、明智 珠輝(あけち・たまき)は笑みを浮かべた。
「紅葉も堪能したことですし、後はリアさんとの相性を……!」
「まあ、占いは嫌いではないから見てもらいたいけれど、もっと別のことを……」
 何か言いたげな表情で、リア・ヴェリー(りあ・べりー)がテントに入る。
 するとそこには……
「ヒャッハー! 南 鮪(みなみ・まぐろ)波羅蜜多名物種モミ虎射占いへようこそ!!」
 モヒカンがいた。
「…………」
 リアが黙ってモヒカンを見つめる。
 少し横に目を向けると、アーミーショットガンを持った織田 信長(おだ・のぶなが)がいた。
「あの、これは……」
 この中で一番まともなのは自分であるという使命感に駆られたのであろう。
 リアが、ちょこんと座る香鈴に事情を尋ねる。
「テントを立てていたら、声をかけてくれて、一緒に占いをしたいと言われたのですアルヨ。それで、せっかくだから、ご一緒に、ってことに」
「なるほど……しかし、なぜ占いを……」
 リアが視線を送ると、信長は遠い目をした。
「フッ……わしは地球に日ノ本に失恋をしたのだよ」
「…………はぁ」
 だから恋占いなのか、とか分かるような分からないような気がするリアに、信長は深く頷いた。
「この新たなる地に新たな生をもって二本の足を持って降り立った事、これこそ新たな恋の始まり。新たな天下布武への道の始まりと言う物であろう」
「天下布武って恋だったのですアルネ」
 何やら香鈴が深く感銘を受けているが、何の感銘なのかよく分からない。
「ひとまずでは占いを……」
「おう。パラミタ一の愛の使者である俺が相談に乗ってやる!」
「愛ですか。ふふふふ……愛なら負けませんよ?」
 こんなデートカップルいっぱいの紅葉の山で、鮪対珠輝というドリームマッチが実現するなど誰が思ったであろう。
 きっと香鈴すら思っていなかったに違いない。
 しかし、運命の糸が引かれあってしまったものはしょうがない。
「恐れ入ります、私とリアさんの体の相性占いを……!」
「体か。体の相性は大事だからな。パラ実の改造科でも、内臓を入れ替える時は、体の相性を一番気にしてるぜ!」
「なるほど、パラ実でもですか。……愛!」
「世紀末にこそ、愛は必要だからな」
「……」
 この会話は噛み合ってるのだろうか、噛み合ってないのだろうか。
 もう、体の相性とか言い出す珠輝に、空中飛び膝蹴りをすることすら忘れて、リアが頭を抱える。
 横を向くと、なぜか信長が踊っていた。
「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり、ひとたび生を得て、滅せぬ者の有るべきか」
(このテントの中だけ異空間に違いない。そうに違いない)
 先ほどまで、恋人達の多さに気押されつつも、紅葉の綺麗さには感動してた自分が懐かしいとすらリアは思った。
「大体なぜ占いを……」
 独り言のつもりで言ったリアだったが、耳聡く鮪が聞きつけ、目を輝かせた。
「ヒャッハー! 良いことを聞いてくれたな。ほら、これを見ろ」
 机に置かれたのは『波羅蜜多実業高等学校教本』だった。
「パラ実に教科書なんてあったんだ……」
「いんや、もう廃判だ。小難しくて廃判になった」
「……」
 流石パラ実と言おうか。
 鮪はページを開き、ある所を指で示した。
『モミジとは種モミに至る路の事である。紅葉は種モミ溢れる実りの秋に見られるのだから、これは至極当然の事であろう』
「こいつぁ種モミ占いをして恋愛に悩む連中の悩みを解決してやれって意味だ。だから、紅葉狩りに来たやつに、パラ実内伝秘蔵の占いを披露してやるぜ! と思ってやってきた」
「素晴らしいですアル、鮪さん!」
 香鈴が拍手をする。
「本当のことを言っても、何も出ねえぜ!」
「…………」
 異空間なうえに、ボケしかいない状況に、リアは頭を痛めた。
「ひとまず、珠輝のラッキーアイテムはダークネスウィップって出たぜ!」
 何をどこでどう占ったのか、鮪が宣言する。
「あ、はい、私も出ましたアル!」
 香鈴が挙手する。
「リアさんと珠輝さんの相性は75〜80%。意外に長続きすると出たアル」
「ふふ、やっぱりお似合いみたいですねぇ」
「……何の相性を占われたんだろう」
 もう突っ込む気力を無くしたリアだったが、一応、気になったことを尋ねてみた。
「僕としては相性占いじゃなくて、珠輝に合う恋人が現れるのか、そして居たとしたらどんな人なのか見てもらいたいよ。一生懸命探してみせるからっ」
 リアの求めに応じ、ポイポイポイっと香鈴が石を投げる。
「身近にいますアルネ」
「本当? うちの学舎かな? よし、一生懸命探そう!」
 占いの結果にリアが気合いを入れる。
「どんな方でも皆様、愛おしいですけどねぇ、ふふ」
 特に特定の恋人が欲しいわけではない珠輝だったが、もう一度、香鈴に確認してみた。
「身近なのですよね?」
「うん、とっても身近アル」
「ふふふふ、ありがとうございます。予想以上の良い結果です」
 珠輝は上機嫌になり、リアに笑顔を向けた。
「リアさん。また来年も一緒に紅葉を楽しみたいですね、ふふ」
「来年も一緒? あ、あぁ、気が向いたら付き合ってやってもいい」
 そっぽを向き、頬を染めるリアに、鮪が種もみを突きだした。
「ヒャッハー! おまえのラッキーアイテムは種モミだぜ!」
「た、種モミ?」
「実りの秋だ。実ってるんだぜ? これがあんたの恋の結果だ。紅葉ってなぁ、種モミに至る路なんだぜ。一年かけて丹精込めて育てて初めて到達できるんだ。手抜きしてちゃァ恋なんざ適うわけねえなぁ?」
「ぼ、僕にかなえたい恋なんて……手抜きとか言われても、育てるような想いは……」
「育てる? 勘違いしちゃいけねーぜ」
「は?」
「種モミは奪う物に決まってんだろう、ヒャッハァー! コイとは虎を射ってでも奪って手に入れろって意味だァ〜!」
「さっきまでの一年かけて丹精込めて育ててって話はどこに!?」
 なぜかもういろいろと突っ込み疲れた気分のするリアなのだった。