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紅葉が散る前に……

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紅葉が散る前に……

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「見てください、ものすごく綺麗な紅葉ですわよ!」
 超ミニスカートをくるっと翻し、佐倉 留美(さくら・るみ)ラムール・エリスティア(らむーる・えりすてぃあ)に笑顔を向けた。
「本当じゃのう。錦のごとし、じゃ」
 ラムールは眼下に広がる紅葉を見て、感慨深そうな顔をする。
 朝は様子がおかしい留美が気にかかり、何か良からぬことを考えているのでは……と心配だったラムールだが、紅葉を見に行こうと言われ、まともな提案に驚きつつ、留美に付いてきた。
 自分も楽しいが、留美も楽しげで、なんだかラムールはうれしかった。
「素敵な紅葉でしょ。ラムールさんと見たかったんだ。あなたと出会えたから、こうやって外に出られたんだよ、って」
「え……?」
「わたくしは半分引きこもりのような状態でしたから、あなたと出会っていなければ、こうやって紅葉を楽しむこともなかったと思います」
 赤に黄色に美しい紅葉を見つめ、留美は微笑む。
「きっとこんなにも世界が美しいって気づくこともなく、ひきこもったままでしたわ。だから、ラムールさんには本当に感謝しているのですわよ」
「何じゃ、改まってそんなことを言い出すなんて、留美らしくもない」
 照れたラムールがまぜっかえそうとするが、留美は乗らなかった。
「あら、本気ですわよ?」
「ふむ……そうか。感謝をしているのは、わしも同じなんじゃから気にすることはないぞよ。それにのう、わしだって、なんだかんだ言いつつも、おぬしと過ごす時間はとても楽しいと思っているんじゃよ」
「それならうれしいです。いつもわたくしのわがままに付き合わせてしまって、ごめんなさいね。こんなわたくしですけれども、これからも一緒にいて頂けるとうれしいですわ」
「それはこちらこそじゃ。じゃが、ただのう……」
「ただ?」
「おぬしのそのスカートとその中をどうにかしたほうがいいと思うんじゃが……」
 留美のスカートはヒップラインぎりぎりの超ミニで、しかも、きれいな肌に跡がつくのが嫌だからという理由で下着の類は着用していない。
 なぜかスカートの中が見えることが無い、という特殊な技術を持っている留美だが、ラムールにはそれが気になるようだ。
「無理ですわっ! だってわたくしのアイデンティティなんですものっ!」
「アイデンティティとまで言い切るのかえ!?」
 驚くラムールだったが、山道であろうと、坂で後ろに人がいようと、強風が吹こうと、下に何も履かずにここまで登ってきた留美を思い出し、溜息をついた。
「……まあ、アイデンティティじゃのう」
 仕方ない子じゃと思いながら、ラムールは笑うのだった。


「2人で紅葉見に来るのって初めてかもね」
 ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)がうれしそうに笑みを向けると、シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)が小さく頷いた。
 しかし、その表情にあまり元気がない。
「……大丈夫?」
 ミレイユが心配そうに赤い瞳でシェイドを覗きこむ。
(吸血鬼のシェイドには紅葉の山なんて無理だったかな……?)
 デューイに勧められて来てみたけれど、天気のいい日に紅葉の山を歩くなんて、シェイドには大変だったかも……とミレイユは思い始めた。
「ああ、平気です。きっと運動不足でしょう、ちょっと疲れました」
 シェイドが適当にごまかして、ミレイユを安心させようとしたが、そんなのはすぐに見破られた。
「……ごめんね」
「ん?」
「血を吸うの我慢してるから、こうなるんだよね?」
 じっとミレイユがシェイドを見つめる。
 シェイドはその視線を受けながら、何とも言えずにいた。
「いつも血を吸われる度に、震えてごめんね。怖いわけじゃないんだけど、どうしても体が震えちゃうの……ごめんね、シェイド」
「吸われる感触に慣れていないせいですよ。気にしないでください。普通は簡単に慣れたりするものではありません」
「でも……でも」
 少し涙がこぼれそうなのを我慢して、ミレイユがゆっくり口を開く。
「体が辛いのに、血を吸うの我慢してくれたりするでしょ……?」
 その言葉にシェイドは軽く瞳を閉じる。
 吸血行為をしている時のミレイユを思い出す。
 震えるミレイユが心配で、シェイドは吸血を控えていた。
 でも、理由はそれだけではない。
 彼女を抱きしめ、血を吸う度に、気持ちが抑えられなくなりそうになる。
「心配なんですよ……ミレイユの事が」
 想いは口にせず、シェイドは心配だけを口にする。
「ごめんね、シェイド。でも、いつも震えが落ち着くまで、頭撫でてくれてありがと。よくワタシに無理しないように注意するけど、シェイドこそ無理しないでほしいな」
「いいえ、それでミレイユが安心してくれるなら……」
 そう、ミレイユは安心してくれている。
 でも、自分がいつかそれを破りそうで、シェイドは怖かった。
 頭を撫でていられるのも、いつまで続くのか……と。


「おべんとおべんとっ♪」
 うれしいなー、というように、リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)がお弁当を開ける。
「あら、おいしそうですね、リーズ様」
 小尾田 真奈(おびた・まな)がお弁当を覗きこむ。
「ね、ご主人様?」
「あ、ああ……」
 話を振られ、七枷 陣(ななかせ・じん)はぎこちなく頷く。
 陣はリーズを見てこれまでの事を思い出していた。
 リーズを傷付けられマジ切れしたり、治療の為に血の味のするディープキスをしたり……。
(……や、どうしてあの事を思い出すかオレ)
 他の事件もいろいろあっただろうに、なぜかそんなあたりばかり思い出す。
 陣がリーズの方に目をやると、リーズも何やらぎこちなかった。
 同じように同じようなことを思い出していたようだ。
「……どうしたん、リーズ?」
「ん〜? にはは、何でもないけど?」
 ごまかすリーズだったが、そのもみあげを、陣がうにょーっと引っ張る。
「いだだだ痛い! 痛いよぉ〜っ! 何でまた髪引っ張るのさー!?」
「いや? なーんとなく仕置きしとくべき状況やとオレの脳内が全会一致だったんで」
「何だよそれー!? は、はーなーしーてぇぇ!」
 じたばたするリーズを見て、陣はやっぱり何かの勘違いだと納得した。
(何思い出してんのオレ? 氏ねお)
 自分にそうつっこみ、陣はお弁当を食べ始める。
「あ、陣くん、早いー!」
「心の中でイタダキマスを言った」
 そう答えながら、陣はリーズを見る。
(別に、アイツが死んじまったら色々詰まらんくなるし。それだけだよ、うん)
 リーズの横顔が何か気になる気がしたが、陣はそれを頭から払った。
(……ん、やっぱ気の迷いだ。うん、決定マジ決定……決定だってばよ)
 頭の中で何かが思いついたりしないように、陣はまったく関係ない事を口にした。
「頂上で食う弁当は美味いなー。な、そう思わないか? 真奈」
「そうですね、ご主人様」
 真奈はそう答えながら、頂上に来るときに陣が手を繋いでくれたことを思い出した。
 そして、仲の良い2人を見て……
(あれ……何でしょうか? 胸を刺すような、この痛みは……暖かくて幸せな筈なのに)
 理解不能な感情に真奈は戸惑う。
(痛い? 違う……この感覚は、何なのですか? これは……○○、しい?)
 機晶姫の少女は、今までにないその想いに困惑していた。