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紅葉が散る前に……

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紅葉が散る前に……

リアクション

「まさか負けてしまうとはねえ。正直、ちょっとショックです」
 朱 黎明(しゅ・れいめい)は肩をすくめながら、前を歩く朱 全忠(しゅ・ぜんちゅう)を見つめた。
「ふふん、良いのだ。吾輩は楽しい」
 赤紫色の瞳に悪戯っぽい笑みを浮かべて、全忠が振り向く。
 2人は『勝った方が負けた方に一つだけお願いをすることができる』というルールで将棋をしたのだ。
 その結果、全忠が勝った。
「……一応やっぱり英霊なんですね……」
 全忠に聞こえないように、ぼそっと黎明が呟く。
 普段の外見と性格を見ていると、とても英霊とは思えなかったが、どうやらやっぱり英霊だったようだ。
「お、おぬし、香鈴ではないか?」
「あ、はいはい、はじめましてアル〜」
 チャイナ服を着て、髪をお団子にした、いかにも中国娘と言う感じの外見をした香鈴を見て、全忠が声をかける。
「占いをするそうだな。占ってくれ」
「あ、まだ準備が……」
「キミが香鈴さん?」
 全忠との会話を聞きつけ、百合園の東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)がそこに小走りで寄って来た。
「いいな、占いをするなら、私も占ってくれる?」
「まだ準備ができてないなら無理には……」
 要・ハーヴェンス(かなめ・はーべんす)が秋日子を止めようとするが、香鈴がそれを手を振って止めた。
「ああ、いいアル。お客さんが来たなら、せっかくなので始めますアルヨ」
「そうですか? それじゃ自分は紅葉のほうを見て来ますね」
 秋日子を香鈴のところに置き、要が紅葉を見に行く。
「占いをするならば、私も占って欲しいですね。いい年をして恋占いと言うのはおかしいかもしれませんが……」
「そんなことはないですアルヨ。では、まずは黎明さんから……えいっ!」
 香鈴は敷物の上に石をポイポイポイっと投げて、占いをした。
「ん〜」
「どうでした?」
「親しい人はできそう、ですアルネ。恋に近い感覚をもてる人もいるかもしれないですアル。でも……」
「でも?」
「心の中にお住みの人がいるようなので、それ以上の事はなさそうですアルネ」
 香鈴の微笑みに、黎明は小さな笑みを返す。
 その言葉に異論はなかった。
「次は我輩なのだ!」
 全忠が興味深そうに、香鈴のキラキラとした石を見つめる。
「お洋服の趣味で、まずはお友達ができそうですアル」
「洋服……?」
「可愛いの、お好きでしょ?」
 その言葉に、全忠は恥ずかしそうな顔をする。
「こ、これはネアが作ったもので……」
「そこから新しい世界が開きそうアル。出会いを大切に、アル」
「なるほど。ありがとう!」
 ちっとも恋に関する結果ではなかったが、全忠は満足した。
「おもしろかった! いつもの荒野ばっかりのキマクと違って、外に出ると面白いことがあるな。では、2人ともまたなのだ!」
 ふわふわふわっ!
 ハイテンションになった全忠が、秋日子のスカートと、香鈴のチャイナ服をめくる。
「きゃっ!」
「ふえ?」
 白い下着などがちらっと見え、黎明が全忠を怒る。
「こら、全忠!」
「へへーー」
「すみません、良く叱っておきますので!」
 非殺傷モードにした拳銃型光条兵器を手に、黎明が全忠を追いかける
「まったく……せっかくの紅葉狩りだから、肩車でもしてやろうかと思ったのに……!」
 いたずらっ子の子どもを追いかける父親のように、黎明が走って行く。
「大丈夫ですアルカ? 秋日子さん」
「う、うん。別に怒ってるとかじゃなくて、驚いたって感じだから……」
 走り去った全忠たちを見送り、秋日子は自分の占いをお願いする。
「……ふむ、小さい頃のあこがれの人に似てるのですアルネ、今、想っている方は」
「あ、うん。そうなんだ」
 いったいこの石の占いから何が読み取れるのだろうと不思議に思いつつ、秋日子は続きを聞く。
「そうですアルネ。少し積極的に、と出ましたアル」
「積極的?」
「そうアル。動かないと何も変わらないですアルヨ?」
「何も変わらないかあ……」
 秋日子は占いをしてくれたお礼を言い、要を追いかけた。
「やあ、占いは終わりましたか?」
 走ってきた秋日子を見て、要が微笑みを見せる。
 紅葉を背にした要は綺麗で、秋日子はドキッとした。
 そして、緊張をしたまま、要に向って手を出した。
「あ、あの……私と手をつないでくれませんか……!?」
 積極的にという香鈴の占いを胸に、お願いする。
 しかし、要から何の反応もない。
「……要?」
 顔を上げて見てみると、要は紅葉の方に注目していた。
「ほら、見てくださいこの色。とても綺麗に色づいて……」
「要のバカァー!!」
「……え?」
 いきなりの大声に、要はきょとんとする。
 落ち込んだ表情の秋日子を見て、要はなんだか分からなかったが、その手を引いてあげた。
「かな……め?」
「ほら、上に行くともっと色づいているかもしれませんよ。行きましょう」
 手と手が触れ、秋日子は頬を染める。
 要の方は特に何か感じているわけではないらしく、表情に変化はなかったが、それでも秋日子の機嫌が直って良かったと思ったらしく、二人はそのまま手を繋いで、紅葉見物を続けた。