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紅葉が散る前に……

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紅葉が散る前に……

リアクション

「確かにこんなに紅葉が綺麗なら、好きな人と一緒に見たいっていうのも理解できるわねぇ。私もジェイクと一緒に見に来られて良かったと思うもの」
 一面に広がる紅葉を見つめ、ターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)はそう呟いた。
「……え?」
 隣にいたジェイク・コールソン(じぇいく・こーるそん)が驚いたような声を上げる。
「ん? どうかした?」
 ターラが心底不思議そうな顔で、ジェイクを見つめる。
「…………」
 ジェイクはターラが無意識に言ったようだと気づき、うれしいような悲しいような気分になりながら、紅葉を見つめた。
「ただ付き合うだけなら出来るけど、気持ちは別だから……ゴメンね」
 告白した時にターラに言われた言葉をジェイクは思い出す。
 一目ぼれして以来、ターラのために何かしてあげたいと、ずっと思って頑張ってきた。
 でも、そばにいて、何か変化があったのだろうか……?
「真菜が……」
「え?」
「彼女が恋人と一緒に見たかったって言うのも納得だわ」
 ああ、そういう意味だったのか、とジェイクは理解する。
 それならばターラの無意識の言葉を、悲しいと思う必要はないのかも知れない、とジェイクは思い直した。
 自分はこうやってターラの隣で、並んで紅葉を見ることができている。
 そして、ターラはジェイクと見られて良かったと言ってくれている。
 言葉にあるのが好意ならば、悲しむことはない。
「キレイだね本当に」
 ジェイクはターラのそばに少しだけ寄って、2人で紅葉を眺めるのだった。


「紅葉狩りってさ……四郎と炎は誘わなくていいのかよ?」
 山に登る周囲の人たちを横目で見ながら、雷堂 光司(らいどう・こうじ)が心配そうにパートナーに声をかける。
 男女のカップルがあちこちで紅葉を眺めたり、一緒にお弁当を食べたりするのを、ちらちらと見ながら、居心地が悪そうな感じだ。
 しかし、麻野 樹(まの・いつき)はというと、そんなことは気にせず、飄々とした感じで、山を登っている。
「んー、だって今日はデートだしぃ。四郎と炎には悪いけれど、みんなで遊ぶのはまた今度ってことで」
「デートって言うなら、四郎だって、樹のこと多分きっと……いや、そうじゃなくて……」
 他の仲間たちのことは頭から振り払い、光司が樹を見つめる。
「俺達、馬鹿でっかい男二人なんだぜ、悪目立ちするって」
「山なら長身の男二人で並んでいても、ただの山登りだと思われて、デートだって分からないって」
「確かにそうだけどさぁ」
「それとも何? 光司はデートだって思われるの、そんなに嫌ぁ?」
「あ、その……俺達って、とりあえず恋人同士じゃん? 妙に意識するっつーか……こんな事言わせんじゃねーよ!」
 恋人同士という言葉と、意識するという言葉をうれしそうに聞いていた樹だったが、光司が怒りだしたのを見て、途端に顔を曇らせる。
「何で光司は俺達の関係隠したがるかなぁ? すぐヤキモチ妬くくせにぃ」
「ヤキモチって……」
「そうでしょう、さっきだって、そんなこと口にしたくせにぃ」
 つん、と樹が光司に触れると、光司は大仰なほどの驚いて、パッと退いた。
 それを見て、樹が意地悪な頬笑みを浮かべる。
「嫌ならもう登るのやめて帰る?」
「……それは」
 光司が逡巡し、しばらく考えたあと、黙って歩きだした。
「あ、行くんだ」
「せっかく来たんだ。ここで帰るのはなんだし」
 少し頬を染めながら、光司が歩いて行く。
「ふーん」
 樹はクスッと笑って、その横に並んだ。
「じゃ、デートだね」
「だからデートって言うなって」
「恋人同士が二人きりで出かけるならデートでしょ♪ 人間、素直が一番だよ」
「だからってなあ……それとこれとは、話は別だ」
「話は別ぅ?」
 2人が足を止めたところは、少し開けた、景色のよく見える場所だった。
 そこに立ち、2人は紅葉を眺めながら、話を続ける。
「恋愛って男女でするのが普通じゃん? だけど俺達はどっちも男で世間とずれてるって言うか……俺、樹の恋人やれてる自信ない」
「やれてる自信がないから、どうしたいの?」
 樹が少し不満そうな顔をする。
「恋愛は男女がするのが普通? 本当にそんなこと、光司は思って、悩んでるの?」
 じっと見据える樹の視線を、光司は逃れることができずに受ける。
「セクシャルマイノリティは、個人の自由でしょ。俺は、光司と会って、本当に大切なものが何なのかを見つけたよぉ。光司は、違うのぉ」
「それは……」
「恋人やれてる自信がないとかいわれると、地味に凹んだりするんだよぉ」
「え……」
 驚く光司に樹は溜息をつく。
「光司と付き合ってるとねぇ、自分で良い方向に言葉を解釈してないと凹んだりするんだよねぇ」
 すっと距離を詰めて、樹が光司に囁く。
「恋人やれてる自信がないって、俺と離れたい? 変な風に思われると嫌だから、近づきたくない?」
「そういうわけじゃあ……」
「俺って、贅沢ぅ? たまには、態度で示して貰いたい時だってあるよぉ」
「俺に……?」
「そうだよ、他に誰がいるの?」
 キョトンとする樹を見て、光司は困ったような顔をする。
「樹は……誰にだって優しいじゃないか」
「誰にでも?」
「そうだよ。その優しさが俺にだけ向けばいいのにって言う独占欲もある。女だったら悩まねーかもだけど」
「ああ……」
 光司が何を気にしているのか、樹はやっと気づいた。
「なるほど、誰にでも優しい、か」
 確かに樹にはそんな面がある。
 しかし、大体の人にとって、樹は友達にしたいタイプで、優しくして、相手と親しくなったからといって、それが恋愛に発展するわけではない。
 それに……。
「誰に優しくしていても、俺の花嫁は光司だけだよ」
 光司は他の人に優しくする樹にやきもきしていたようだが、樹からすれば、自分の心は常に光司に向いているので、そんなことを気に病むとは思っていなかった。
 でも、光司からすれば光司の言い分だってある。
 樹は感情が読みとりづらいタイプなのだ。
 そのせいで、いつもやきもきさせられている。
「樹のこと本気で好きだから悩むんだよ!」
 思わず言った言葉に、光司は自分でも驚く。
 しかし、心からの言葉を聞いて、樹は安心した表情を見せた。
「そうやって、光司の素直な気持ちを聞きたかったんだよぉ」
 微笑む樹を見て、光司は恥ずかしそうに目を伏せる。
「ねぇ、光司」
「なんだ」
「俺のこと好きぃ?」
「な、何を……」
 顔を赤くして黙ってしまう光司を見て、樹はそっと顔を寄せて呟いた。
「どうして、素直になれないかなぁ……」
「素直には……その……」
 光司が困惑するのを少し楽しげに見ながら、樹が問いかける。
「じゃあ、ここでキスしてぇ」
「え?」
「一生のお願い」
 一生のお願いと言いながら、またいつかねだる癖にと思いながら、光司は樹に口付けをするのだった。