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紅葉が散る前に……

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紅葉が散る前に……

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「まぁ、たまには男同士の語り合いってのもいいだろ?」
 原田 左之助(はらだ・さのすけ)の言葉に、椎名 真(しいな・まこと)は頷いた。
「うん、日頃いろいろ考えこんでたのが、だいぶ晴れたよ」
 真は感謝を込めてそう言った。
 パラミタに来てから大分時間が過ぎ、京子を護るための執事としての力も手に入れることができた。
 執事の体育祭でもきっと、その成果を見せることができるだろう。
 しかし、力をつけると同時に、時間が経つほどに胸の奥の想いが強くなってきている。
「俺は『仕えるもの』だから……」
 今日、何度目かのその真の言葉に、左之助は溜息をついた。
「悩んでるのは似合わないぞ? 普段はそんな顔をしないだろうに」
「あはは。京子ちゃんから『笑ったほうが素敵』って言われたから、出来る限り笑顔で過ごしてるつもりだよ」
「……そこまで想っているなら……」
(恋愛は当人同士のもんとはいえ……なんだかな)
 お互いが好きなはずなのに何なのだろうこの壁は、と左之助は心の中で溜息をついた。
 仕える身と言うことで、真は京子の行為を避けているのだろうか?
(真、まさか京子が好意もってることに気づいてないのか?)
 左之助が黙ると、真の方から話を向けた。
「どうしたの、左之助兄さん」
「いや、京子のほうはどう思ってるのかなと思ってな」
「京子ちゃんの方……?」
「俺は嫁さんも子供もいたが、ずっと戦乱の中にいた。そんな旦那持って幸せなのかと思ったが……あいつは幸せだと言った」
 過去を思い出し、左之助は静かに語った。
「何が幸せか、何を望んでるのかなんて、当人でなきゃ分からねえ。外から見たらものすごくひどい男に見えても、付き合ってる女の子は幸せってこともある」
「ああ、そういうの良くあるね」
「だから、当人に聞かないと分からねえぞ?」
 一応、助言をした左之助だったが、真はそれではないことが気になった。
「想う人がいて、その人ともう二度と会えないってどんな気持ち?」
「ああ、嫁さんと子供か。そうだな、自分が死んだ後に元気に過ごせたかなと考えるよ。今ごろはもう地球で知らない誰かに生まれ変わってるんだろうが……幸せになってりゃいいな」
 紅葉を見上げて、そう呟き……左之助はどんと真の背中を叩いた。
「いたっ!」
「しんみりしてどうするよ。ほら、せっかくの休日だから楽しむぞ!」
 左之助は真の背を押して歩き始めた。


 ずんずん。
 ずんずんずんずん。
 島村研究所の教授島村 幸(しまむら・さち)様が、そんな音を立てそうな勢いで、紅葉の山を歩く。
 その後ろを、島村研究所の助手であるガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)が慌てて追いかける。
「幸、幸! そんなに急いだら、せっかくの紅葉も見られませんよ?」
「私は速読が得意ですから。景色を見るのも速いだけです」
 ずんずんと幸が歩き続ける。
 幸の怒ってる理由が分からないガートナは一生懸命幸に話しかけるが、幸はちっともまともな対応をしようとしない。
 そのうち段々と、ガートナの方も腹が立ってきた。
「君がその気なら、私だって考えがありますぞ!」
「へぇー、その気ってなんですか?! いつもいつも私に偉そうに説教ばかり!」
 キッと幸の瞳がガートナを睨む。
 しかし、ガートナは怯まない。
「だから、怒っている理由を言いなさいといっているでしょう! 理由を!!」
「言わないでもわかるのが恋人でしょう? なんでも聞けば答えてくれるとでも思っているのですかっ!」
 いつもそばにいるのに、こんなに想っているのに分かってくれないなんて……という想いが、幸にはあったのかも知れない。
 だが、そういった恋人としての甘えの心に気づかず、ガートナは冷たく言い放った。
「そういう礼儀を蔑ろにする行為は、女性としていかがなものですかな」
「じょ、女性としてですって! ……っ、ガートナなんて……ガートナーなんて……!」
「ふむ、なんですかな?」
「もう知らないだから…………っ!!」
 その言葉と共に幸はすすり泣きを始めてしまった。
 何かキツイ言葉が返ってくると思ったガートナは、幸の涙を見て、驚く。
「あ、あの……幸……?」
「ご、ごめんなさい……怒ってます……よね?」
 自分でも思った以上に涙が出てしまって、幸は困ったようにガートナを見上げる。
「怒ってませんよ。幸はこうやって立ち止まって、ちゃんと私と話してくれるようになりましたでしょう?」
 ガートナが優しい微笑みを向ける。
「だから、もう怒ってません。それより幸。朝ごはんも食べないで歩き通しだったから、お腹が空きましたでしょう?」
「あ、そういえば……」
「それじゃ、一緒にお昼としましょう」
 幸の涙が止まったのを機に、ガートナはお弁当の時間にした。
 すっかりと気を直した幸は、お弁当の中のおかずをお箸でつまみ、ガートナの口に向けた。
「ハイ、あーん♪」
 いつものデレデレモード全開である。
 今日の紅葉の山には、たくさんの幸の知り合いが来ていたが、前半はケンカモードで声がかけづらく、今はラブラブデレデレオーラがすご過ぎて近寄れないのか、声をかけてくるものはなかった。
「ところで……幸は何を怒っていたのですか?」
 お弁当を食べ終わり、落ち着いた頃、ガートナは幸に聞いてみた。
 すると幸は真面目な顔で答えた。
「だって、おはようのキスがなかったんですよ! ほら、ものすごく重要で重大でしょう!!」
 すごくすごく真面目にそういう幸を見て、ガートナはくすくす笑った。
「本当ですね。ものすごく重要で重大です」
 そう言いながら、ガートナは幸の顔に触れた。
「では、ちゃんとその重要なことをしておかないと」
 ガートナは幸に囁きながら、頬にキスをした。
「え……」
「頬にご飯がついてますぞ、幸」
「も、もう、ガートナってば!」
 本当はご飯なんて一粒も付いてないのに。
 そう思って幸は顔を赤らめるのだった。