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紅葉が散る前に……

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紅葉が散る前に……

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「紅葉か……綺麗ですね」
 九条 風天(くじょう・ふうてん)が紅葉を見上げて微笑む。
 その様子を見ていた坂崎 今宵(さかざき・こよい)がちょっとボーっとした表情になっていた。
「どうしました、今宵」
「な、な、なんでもないです、殿!」
 ずっと顔を見つめていたのが、非礼だと思ったのだろう。
 今宵は慌てて視線を逸らし、ポシェットに手を入れた。
 なんでも入っていると噂されるポシェットだ。
 そして、それを実証するように、その大きさのポシェットから出てくるとは思えない野外用のシートを出して、そこにお弁当を置いた。
「さ、殿。紅葉を見ながら、お弁当にいたしましょう」
「そうですね」
 風天が頬笑みを浮かべたまま、シートに座る。
 そして、今宵から箸を渡され、一緒にお弁当を食べ始めた。
「おいしいですねえ。あ、今宵ー、醤油取ってください」
「ハっ! 殿、ただいま!」
 今宵がいそいそと醤油を取って渡す。
 2人はそんな感じで、一緒にご飯を食べ、紅葉を見た。
 食べ終わると、風天が少しうとうととし始めた。
「お疲れですか、殿?」
「ええ、フリマとかいろいろありましたからねえ」
 そんなことを言って談笑しながら、いつの間にか風天が寝てしまった。
「……殿」
 自分の肩に頭を寄せてくれる風天を見て、今宵が微笑む。
 いつもは殿と忠臣だけれど、今日はそれより少し距離が近い。
 それがうれしくなりながら、今宵もちょっとだけ風天に体を寄せて、幸せなひと時を過ごすのだった。


 六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)と共に、紅葉の山に入った。
 しかし、どこか落ち着かない。
 もう一人のパートナーであるミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)が香鈴に占いをしてもらいに行ってしまい、二人っきりになってしまったからだ。
 一方、アレクセイの方も落ち着かなかった。
「アレク様が優希様と仲を進展させないと、わたくしも優希様を狙いますわよ」
 占いに行く前に、ミラベルはアレクセイにだけ聞こえるように、そう囁いて行ったのだ。
 ミラベルが「運命の人とは同じ蒼空学園で出会いますよ」と香鈴に占いをされている間にも、二人はどこかぎこちなく。
 本気で狙っているわけではなかったが、ミラベルが2人の仲が深まればと願った行為は、2人に互いを意識させるという意味で、それなりの効果を得ていた。
 優希はビン底レンズの眼鏡で、ちらっとアレクセイを見た。
「途中で別れるから、二人きりになれる所で告白しなさい」
 ミラベルはそう言っていた。
 でも、告白なんて、まだできない。
 こうしているだけで恥ずかしい。
 やっぱり3人で楽しめば良かった、と思うほどに緊張している。
 初恋の人に告白できるほどの自信は、今はまだない。
(あの迷走女、何かユーキに吹きこんだみてえだな)
 優希の様子がおかしいのを察し、アレクセイが心の中で苦笑いする。
 ミラベルは早い進展を願っているようだが、アレクレイは急ぐ気持ちはなかった。
(まだまだ子供だし、一人前になるまでは大事にしてやりたいからな)
 照れくさそうに自分のそばを歩く優希に、アレクセイは声をかける。
「ユーキ」
「は、はい」
「ほら、下を向いてるな。綺麗だぞ」
 アレクセイに促され、真っ赤に染まった紅葉を眺める。
「パラミタでも紅葉が見られるのですね」
 優希は少しうれしそうな顔をした後、唐突に言いだした。
「あ、あのアレクさん」
「ん?」
「膝枕、し、しませんか?」
 優希の問いかけにアレクセイはきょとんとする。
「ここで……? 地面とかで?」
「あ……」
 そこで優希は自分がキャンピンシートも何も持ってきていないことに気づいた。
 アレクセイは小さく笑い、優希の髪を軽く撫でた。
「慣れないことを無理してすることはないぜ。気持ちだけ受け取っておくよ」
 自分の準備の悪さにがっかりする優希だったが、アレクセイに髪を撫でられ、少しうれしそうだった。
(もっと成長して、一人前のレディになれたら考えてやる)という言葉は次に取っておこうと思うアレクセイだった。