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紅葉が散る前に……

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紅葉が散る前に……

リアクション

 薄いピンク色系の長袖のブラウスに、それに合わせた長めのフレアスカート。
 いつもの軍服と全く違う可愛らしい服装に、月島 悠(つきしま・ゆう)は困惑しながら鏡を見た。
「これで……いいのかな?」
「はい、バッチリですよ! 悠くん」
 麻上 翼(まがみ・つばさ)が満面の笑顔で、悠の女の子らしい姿を褒める。
「デートですからね。ちゃんとそれらしい格好にしないと」
「デートって言っても……秘密を黙っててもらう代わりにデート1回って約束を果たすためだけのだし……」
「秘密を黙っててもらう、ですか。でも、それってちょっと不公平ですよね?」
「不公平?」
 首を傾げる翼に、悠は不思議そうな顔をする。
 すると、こくこくと頷きながら、翼は兄貴分の名前を口にした。
「セオさんとはデートするのに、佐野さんとはしないんです?」
「えっ」
 突然の言葉に、悠は戸惑いの表情を浮かべる。
 最近は学校外のことでも彼と出かけることが多い。
 ミスドのイベントでも、亮司は悠を庇ってくれた。
(あのときにかけてくれたマント、返さないと……)
 そんなことを悠が思っていると、翼がたたみかけてきた。
「佐野さんもずーっと黙っててくれてましたよね? 佐野さんともデートしてあげないと、不公平なんじゃないですか?」
 不公平と言われて、悠はおろおろとする。
 なんとか翼のペースに巻き込まれまいと、あれこれ考えて、やっと出てきたのはこんな言葉だった。
「イ、イリーナさんもずっと黙っててくれたよ……?」
「それじゃ、イリーナさんともデートするといいですよ」
 そんなことでめげる悠ではない。
 さらっと返して、さらに追撃を加える。
「霧島さんも、あの時の『青い髪、青い瞳』の女の子が悠くんだって気が付いてても、おかしくないですよね?」
「えっ?」
「珍しいですからね、青い髪に青い瞳。もしかしたら……」
 いつの間にかどんどんデート相手が増えていき、悠は困って、時計を見た。
「あ、大変。セオボルトさんとの待ち合わせに遅れちゃう!」
 作っておいたお弁当を、崩さないように上手に持って、悠が小走りで駆けだす。
「いってらっしゃいー」 
 翼は悠の背中を見送りながら、ニヤニヤっと笑った。
「イリーナさんは休日もレオンさんといるでしょうし、霧島さんは早瀬さんと水無月さんに忙しいからってことで流せるでしょうけれど。あ、でも霧島さんはそれでも来るかな? ただ、佐野さんとはこれまでのこともあるから、いつかデートしないといけないのかなって考えるでしょうね」
 パートナーの心の流れを読みながら、翼は楽しそうに悠のデートの予定を考えるのだった。


 皆がそうやって支度をしたりする中、藍澤 黎(あいざわ・れい)は恋人のゴードンに手紙を書いていた。
 ゴードンは恋人だ。
 なのに……片思いの時より踏み込めない自分がいる。
「忙しいのは元々分かっていたのだし、な」
 そんなことは最初から分かっていて好きになったのだし、納得している。 
 デートの時にゴードンが自分を好きでいてくれると実感できた。
 忙しくて会えないけどそれでも……。
「それでも、と思うのは我だけかも知れぬ……な」
 もしかしたら、自分が想っていること自体、ゴードンの負担になってるかも知れない。
 待たれることが負担になっていないだろうか?
 負担になっていたらどうしたらいいのか?
「ゴードンのために何ができるのだろう」
 黎は外に出て紅葉を見ながら、ゴードンに手紙を書いた。
 一枚目の便箋には最近あったことなどについての世間話を書き、二枚目に入ったところで、黎の手が止まった。
「…………」
 黎の胸元には、買ってもらった薔薇のネックレスがあった。
 ゴードンにはカフスを渡している。
「…………」
 その時の事を思い出し、黎は手紙の最後にこう一文を書いた。

「そういえば、クリスマスのご予定はどうなっていますか?」
 どうかゴードンに想いが通じますようにと願い、黎は筆を置いた。