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リアクション
「みんなラブラブだなあ」
 水上 光(みなかみ・ひかる)はたくさんのカップルたちを見て、そう思っていた。
 その中に、昔出会った男性に似た人がいて、光は一瞬ドキッとした。
(男の中の男であったあの人に憧れて……ボクは男になろうと決意したんだよな)
 目の前ではパートナーのモニカ・レントン(もにか・れんとん)がうれしそうにはしゃいでいる。
 カップルたちを見ても、屈託なく笑顔を見せている。
「あちらでもそちらでも愛が……愛がたくさんですわ!」
 愛を信じ、愛のために生きるモニカは、愛することに迷いがない。
「……もしボクがあのままだったら、ボクとあの人であんなこともできたのかな」
 互いを想い合うカップルたちは、どこか眩しい。
 昔の自分を思い出して懐かしいと共に、どこか寂しくなりそうになる。
 しかし、何かを想い悩む光を、モニカがぐいぐいと引っ張った。
「ほらほら、早くしないと愛が逃げていきますわよー!」
「ま、待ってよ、モニカ!」
 モニカは構わずに引っ張る。
 引っ張られながら、光は自分の心との区切りをつけていた。
「……うん。やっぱり今のボクが好きなんだよね」
 あの時ああだったらという過程は意味がない。
 多分、やり直したりしても、どこかできっと同じ道を選ぶから。
「あの人とまた会えたら……その時は、いっぱいお話したいな」
 くすりと笑いながら、光はモニカについて行くのだった。
 そうやってモニカに見られていたカップルのうちの一組。
 リリィ・マグダレン(りりぃ・まぐだれん)とジョヴァンニイ・ロード(じょばんにい・ろーど)の2人は、腕を組み、紅葉を見ていた。
 いつも昼間ぐたぐたしているジョバンニイを、リリィが半ば無理矢理連れ出し、紅葉を観にきたのだ。
「綺麗だな、とても」
 最初はイヤイヤだったジョヴァンニイも、初めて見る紅葉の美しい景色に見惚れた。
「どう? こんな美人と観る紅葉は」
 自信ありげな不敵な笑みを、リリィが浮かべる。
 ジョバンニイは驚き、いつものように赤面したが、それを見て、リリィが楽しげに微笑む。
「あんたはどこまでもヘタレね」
 クスクス笑いながら、ジョバンニイの頬に軽く口付けする。
「え!?」」
 真っ赤になったジョバンニイが腰を抜かす。
 それを笑ったまま見つめ、リリィは優雅に挨拶をした。
「これからもどうぞ宜しく。私のパートナーさん」
 そのままリリィは紅葉の中に消えてしまった。
「……参った」
 ジョヴァンニイは顔を手で隠しながらそう呟いた。
 今だに体が熱く、心臓の音がうるさいほどで、顔が赤くなるのも止まらない。
(これからもこんな風に自分は尻に敷かれながらもリリィからは離れられずに生きていくんだろうな……)
 ジョバンニイはそう覚悟を決めた。
「や、やめよう、ここは外だし!」
 迫りくる妹に、神楽崎 俊(かぐらざき・しゅん)はおろおろする。
「今日はオレたちだけじゃなくて、意外と教導団の人たちもいっぱいいるし! 誰かに見られたら……」
「私は気にしないから大丈夫ですよ、義兄さん」
 むしろ学校でも公認の仲になって良いことだ、とでもいわんばかりに神楽崎 沙織(かぐらざき・さおり)が迫ってくる。
「さ、沙織、でも……」
 ああ、こんな予定ではなかったのに。
 たまには、ゆっくり沙織と「兄妹らしく」すごしたい。
 小さい時の様に、二人無邪気に楽しみたい。
 そう思って、紅葉の山に来たはずなのに……。
「ダメ?」
 ふと見ると、沙織が涙目で見上げていた。
「え……?」
 俊は戸惑い、沙織を見つめる。
「ごめんなさい。義兄さんと紅葉を見に来られて、つい、うれしくて……」
「……沙織」
 ぎゅっと抱きつく沙織を見て、俊は思い直す。
(断固拒否とか思ってたけど……それで泣かせてどうする)
「沙織ごめんな」
 俊が、沙織の顔を覗きこむ。
 すると、沙織はニコッと笑顔を見せた。
「大丈夫ですわ、義兄さん。これで元気になりますから」
 ちゅっ。
 俊の唇は見事に奪われた。
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)はミア・マハ(みあ・まは)と2人で紅葉の山に登った。
「紅葉を見ると秋の終わりを感じるね」
 2人でベンチに座ってチョコを食べながら、レキは周囲を見回した。
「そういえばさー、周りがやけに仲が良いというか、イチャイチャしているようにしか見えない人が多いんだけど。なんか2人でお弁当食べてたりとか。ね、そう思わない?」
「……それどころではないわ」
 元気なレキに対し、ミアはチョコを食べながら、恨めしそうに言う。
「疲れた。もう箒に乗って移動する」
「えー、自然を満喫するには自分の足で歩かなくちゃ。偶には運動しないと」
「レキのような体力馬鹿ではないのじゃぞ、妾は」
 ミアは不満そうにそう言ったが、一つだけ良い点があった。
「まあ、イチャイチャと言うかデートのために来た人も多いのじゃろう。おかげで誰にも声をかけられず、気軽なものじゃ」
「えー……」
 レキは不満そうだが、独占欲の強いミアとしては、2人っきりで紅葉を楽しめるのはうれしかった。
「まあ、自然の中を走り回るのは好きだし、いいかあ」
 せっかくたくさんの人が山に登ると聞き、誰かと知り合えるかなと思ったレキはちょっと不満そうだったが、納得することにした。
「あ、もうちょっとだけ歩こうよ、ミア」
「ん、なんでじゃ?」
「紅葉を探すの」
 レキはそう言うと、一枚の紅葉の葉っぱを拾って、ミアに渡した。
「二人の記念、だね」
「ふむ……」
 ミアはそれを受け取り、小さく頷いた。
「お土産は金じゃない。気持ちじゃな」
 あっさりしたものいいの振りをしながら、ちゃんと葉っぱが崩れないようにカードケースに挟んだ。
 本当はとてもとてもうれしかったのかもしれない。
 
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