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紅葉が散る前に……

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紅葉が散る前に……

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「こうやって出かけるのはツァンダ夏祭り以来だな」
「う、うん……」
 カルナス・レインフォード(かるなす・れいんふぉーど)の言葉に、アデーレ・バルフェット(あでーれ・ばるふぇっと)はぎこちなく頷く。
 夏祭りのときは元気いっぱいに屋台を回っていたアデーレだが、今日はどこか落ち着かなげだ。
 それはあの時の約束があるからだ。
『今日は……ここまで、続きは次のお祭りでね……』
 キスさせてくれと叫んだカルナスの直球に対し、アデーレは頬にキスし、そう答えたのだ。
 女好きのカルナスだが、アデーレだけは特別な存在だった。
 だからこそ、今日この日まで無理にキスは迫らず、アデーレとの約束の時を待ったのだが。
(覚えてくれているのかな、続きの約束)
 紅葉を見ながらも、カルナスはそれが気になった。
 それはアデーレも同様で。
(夏祭りの時のキスの続きの事……覚えているのかな。ほっぺの次だから……当然……うぅ、恥ずかしいなぁ……)
 自分の想像に、アデーレ自身が照れてしまう。
 夏祭りの時まで、アデーレはカルナスを特に意識していなかった。
 仲の良い友人、と思っていた。
 でも、頬にキスした夏祭りのあの日から、カルナスを男性としても意識するようになっていた。
「…………」
 2人は紅葉の中を歩いた。
 時折交わす会話はいつものごとく楽しげだったが、2人ともどこか緊張をしていた。

 そして、夕日の時間。
 2人は人気の無い見晴らしの良い場所に移動した。
「夕日、すごい綺麗だね!」
 アデーレが元気にそういうと、カルナスは頷いた。
「ああ。今日はアデーレの弁当もうまかったし、いい日だったぜ」
「うん、楽しかった!」
 にっこりとアデーレが笑う。
「でも、忘れものが……」
「え?」
「約束……覚えてるか?」
 カルナスの言葉に、アデーレの頬が染まる。
 夕日を受けているせいか、よりアデーレの顔が真っ赤に見えた。
「…………覚えてるよ」
 小さな声でアデーレが答える。
 でも、カルナスは無理強いしようとはしなかった。
「アデーレの気持ちがそうじゃなければ……」
 カルナスは気持ちを推し量るように見つめる。
 ドキドキとする胸を押さえながら、アデーレは消え去りそうな声で言った。
「カルナスがして欲しいならしても……いいかも」
「……アデーレ」
 どちらからともなく、2人の唇が重なった。
 紅葉の山で、ついにあの日の約束が果たされたのだった。


「はあい、お嬢さん、可愛いね! 百合園の子に会えるなんて、さすがに今日はたくさんの人たちが来てるだけあるね」
 フェデリコ・フィオレンティーノ(ふぇでりこ・ふぃおれんてぃーの)がニコニコとメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)に声をかけた。
「いつも男の園だから。こうやって女の子がたくさんいると、それだけでうれしくなるよ」
「男の園と言うと、薔薇学の方ですわね?」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)の問いかけに、うんうんと頷く。
「そうだよ。ウォーゲームは好きだが、実際にやるのは嫌なので薔薇の学舎に入ったんだ。でも、男しかいなくてさ、結構、後悔しているよ……」
 長身の騎士様はフィリッパを見て興味を持ったが、フリッツたちの一団に呼ばれてしまった。
「おっと……フランツィーがフリッツと一緒に行きたいとかいうせいで、僕はでかい男同士の一団で紅葉狩りだよ」
 フェデリコは肩をすくめて笑った。
「おしゃべりしたいのだけど、フランツィー達についていかなくちゃいけないからね。残念! また会おうね!」
「はいはーい。また、どこかで!」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が手を振って、それを見送る。
「元気な方でしたねぇ」
 メイベルが彼を見送り、小さく微笑する。
「もしよかったら一緒にと思いましたが、向こうは向こうでお忙しいそうですわね」
 フェデリコの加わった一団は、2m近くと背の高い男同士で、一番背の高い男の隣を奪い合っている。
「紅葉をのんびり見る……だけでは、みなさんなさそうですわぁ」
 他人事のように、メイベルはいろんな人の紅葉狩りデートを見守る。
 もっとも、メイベルにとっては本当に他人事だ。
 なにせ恋に恋するところにさえ行っていないメイベルなので、友人たちが恋に思い悩むのさえ、イマイチ実感がわかない。
「さ、それじゃ、お弁当にしようか!」
 フィリッパが事前に下調べしておいた、紅葉を見ながらご飯が食べられるベンチに着くと、セシリアがお弁当を広げた。
「いいですねぇ。こんな綺麗な紅葉いっぱいの中で、セシリアの手作りを弁当を食べると、いっそう美味しそうです」
「ふふふ、まだまだ花より団子だね!」
 メイベルをそうからかいながら、セシリアは内心苦笑するとともに、どこかでホッとしていた。
 まだ恋に興味がないメイベルだけど、興味を持ってしまえば、少しずつ変わってしまう。
 パラミタ大陸に来て4か月。
 恋のような新しい出来事が起きてもおかしくないが、メイベルのマイペースさのおかげで、変わらぬ日々を送っている。
 今はこの変わらぬ状況でゆっくりと過ごしたいと、三人は紅葉の中のお弁当を楽しむのだった。