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ホレグスリ狂奏曲

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ホレグスリ狂奏曲

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 第1章 ホレグスリの猛威


 男共が廊下を競争するように走っていく。どうした!? ヤキソバパンが売り切れるのか!? とかでは全然無く、彼らの手には小さな瓶が。中にはピンク色の怪しい液体。
 ホレグスリである。
 むきむきプリーストがエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)に惚れるのを目の当たりにした彼らは、もはや人ではなくただの煩悩の塊だ。
 その煩悩の流れを二分するように、1人の青年が立ち止まっていた。エル・ウィンド(える・うぃんど)である。彼は別に、悟りを開いて煩悩から開放されているというわけではなく――
「しまった! あそこで薬を飲んでいればエリザベート様にキスできたのに!」
 ――もちろん、その逆だった。

 実はあの時、むきむきプリ(ry 以外にも薬を飲んだ人物がいた。
 エリザベートが怒りの形相で教室を去った後、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)は勝ち誇った表情でマントを翻して出て行った。布の少ない彼女の後姿を拝んだヴェッセル・ハーミットフィールド(う゛ぇっせる・はーみっとふぃーるど)は、それに興味を微塵も現すことなく、エリザベートへの想いを募らせていた。人を疑うことを知らない彼は、ホレグスリだと判明する前に瓶の中身を半分ほど飲んでしまっていた。脳裏に浮かぶのは、エリザベートの純粋な笑顔ばかりである。
「エリザベート様、好きだああああああああああ!」
 教室を飛び出したものの、エリザベートの姿は見つからない。入り組んだ世界樹の一体どっちへ行ったのかと首を巡らす。
「ベス! エリザベート様はまだ教室か!?」
 右側から怒涛の勢いでエルが走ってくる。反射的に彼の行く手を防ぎながら、ヴィッセルは訊く。
「もう居ないけど、何の用だよ?」
「エリザベート様の前で薬を飲む! で、キスをする!」
「なああにいいいいいいいい!?」
 ヴェッセルの瞳に怒りの炎が燃え上がった。
「エリザベート様にキスしていいのは俺だけだ! 特に、お前に奪われるのだけはごめんだ!」
 迫る攻撃をかわしつつ、ベスの奴また引っ掛かったな、とエルは思う。
「はーん、キミも同じ目的なわけか……」
 にやりと笑って足を止め、言う。
「じゃあ、勝負しないか?」
「あん?」
「どっちが早くエリザベート様にキスできるか勝負だ! 受けないとは言わないよな?」
「それ、私も参加してよろしいですか?」
 2人が振り返ると、肩に霧雪 六花(きりゆき・りっか)を乗せたシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)呂布 奉先(りょふ・ほうせん)を連れてやってくるところだった。小柄ながら、均整のとれた美人である。
「先ほど、鼻をふくらませた男子生徒の1人から聞いたのですけど、何でもエリザベートがホレグスリを作ったとか。あの様子では校内が乱れるのも時間の問題でしょう。反省を促すためにも、是非エリザベートには薬を飲んでもらいたいですね。ついでに、私とのファーストキスが達成されたら最高です。間接キスは済んでいますから」
 男子生徒から奪ったのであろう小瓶を摘んで振りながら、シャーロットは柔らかい笑みを浮かべた。
「かかか、間接キスだって!?」
 今のヴェッセルにはそれだけでも衝撃的だ。
「よーし分かった! んじゃ3人で勝負だ! 校長に騙されたんだから仕方ない! 名付けて【校長の唇争奪戦】だ!」