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ホレグスリ狂奏曲

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ホレグスリ狂奏曲

リアクション

 第3章 謎のメイドS・M・F!


 マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)は、長靴を模したお菓子の詰め合わせからぺろぺろキャンディーを選んでその甘さを楽しんでいた。カーペットの上にちょこんと座り、一心不乱に舐める。
「おいしいですか? マナ様」
 これまた幸せな笑顔でシャーミアン・ロウ(しゃーみあん・ろう)がマナを眺めている。
「夜は、特大のクリスマスケーキを用意しますからね。クロセルが」
「シャーミアン!」
 寮のドアが開き、噂をすればという絶妙なタイミングでクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が帰ってきた。彼は、寝そべってクッションを抱えていたシャーミアンの側に屈みこんで耳打ちする。
「校内でホレグスリが出回っています。このチャンスに、マナさんをみんなのアイドルにしませんか?」
「えっ? なになに、どういうことだ?」
 シャーミアンの瞳が輝く。
「だから……ごにょごにょごにょ」
 珍しく仲良さそうにしている2人を見て、マナが首を傾げる。ぺろぺろキャンディーは、もうほとんど残っていない。次はチョコレートを食べようか、などと長靴の中をのぞき込んだ時――
「お?」
 シャーミアンに抱き上げられた。
「よし、のった! 確かに、もっとマナ様にはファンがいて然るべきだ!」
「女性ファンは俺に、男性ファンはマナさんに。それでよろしいですね?」
 悪そーな笑いを浮かべるクロセルに、マナはなんだかびみょーに嫌な予感がした。
「今日は、平和なクリスマスで……いいのだよな?」

「思ったよりも先に進めないな。邪魔なカップルが多すぎる」
 図書館から真先に逃げ出したリュート・シャンテル(りゅーと・しゃんてる)はアリア・ブロンシュの手を引いて未だ世界樹の中を歩いていた。アリアは周囲の状況を見て、リュートに言う。
「……あの……皆さん、いつもと顔色が違いますね……? ぼんやりとして熱っぽい感じがするような……。学園内で風邪でも流行っているのでしょうか……?」
 彼女の台詞に、リュートは首だけを振り向けて苦笑した。
「ああ、そうだよ。ちょっと特殊なインフルエンザみたいだね。一過性のものだから心配はいらないけど、校内の食べ物には口をつけないようにね。移ったらいけないから」
「そうですね……私も気をつけないと……あら?」
 アリアはそこで立ち止まって、繋いでいるリュートの手を引っ張った。
「あそこにいるのは、蒼空学園のアリアさんじゃありませんか? ……少し、声をかけてみましょう」
「あっ、ちょっと!」
 慌てて、リュートもついていく。
「轟雷閃!」
 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)はホレグスリを使おうとする輩を殺気看破で見つけると、容赦なく轟雷閃をぶちかました。
 黒コゲになった男子生徒に言い放つ。
「貴方、これがどんなカオスを生むか分かってないでしょう?」
 イルミンスールのアリアに会いにきたら、とんでもない事態に巻き込まれてしまった。こんな所にいてもろくなことが起きないのは明白なので逃げようとしているのだが――
 身を守るために展開した殺気看破に引っ掛かるやつが多く、持ち前の正義感もあって、つい叩きのめしてしまう。
 おかげで、脱出は遅々として進まなかった。しかも、道が分からない。
「アリアさん!」
「あ、アリアさん!」
 リュートを連れたアリアに、アリアはぱあっと笑顔を向けた。
「よかったー! 無事だったんだね!」
「アリアさんこそ、インフルエンザに罹っていないようで安心しました」
 ……インフルエンザ?
 きょとんとしたアリアに、リュートが一度頷く。その意図を察したアリアは、アリアに言う。
「大丈夫だよ。でも、早く脱出したいんだけど、迷っちゃって……」
「それなら僕達と一緒に行こう。丁度、校門を目指していたところなんだ。固まって行動した方が安全だしね」
「そうなの? 助かったーー! ありがとう!」
 アリアは、心からほっとした。
 
 ――しかし。
「あれ? アリア君は?」
 昇降口まで辿り着いた時、アリアの姿は消えていた。ここまで来る過程ではぐれてしまったらしい。戻るかどうかリュートが考えていると、アリアの携帯にアリアからメールが届いた。
『途中で、私をエスコートしてくれる人に出会えたよー。先に行ってて』
「…………」
 ものすごく背後にピンク色のものを感じるリュート。
「これは、戻らない方が良いな……。それにしても」
 校門を見遣って、彼は苦々しい表情を作った。
「生徒を脱出させないようにするとは、なんて校長だ」
 門番よろしく仁王立ちしているのは、最初の犠牲者であるむきプリ君だ。ボディビルダー選手権とかに出たら優勝してしまいそうな彼をなんとかしないと、イルミンスールからは脱出できない。
 だがそこに、校外からむきプリ君に向かって歩いてくる人影があった。トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)だ。返却するための本で肩を叩きながら、彼はむきプリ君を見上げる。
「……いつから、イルミンスールは門番なんか立てるようになったんだ?」
 ついさっきである。
「おい、そこどけ。図書館に用があるんだ」
「だめだ。エリザベートさまからは誰も通すなと言われている」
 意外とまともな口調でむきプリ君は言った。薬の効果が薄まってきているのだろうか。だとしても判断力までは回復していないようで、彼はエリザベートの指示を勘違いしていた。誰も通すな、というのはあくまでも「中の生徒を」ということで、外からの入校は逆ハーレム狙いのエリザベートとしても歓迎するところである。
「しょうがねえなあ……」
 そこまで生真面目に本を返したかったわけではないが、妨害するのなら対抗するまでだ。
 トライブは驚きの歌を発動した。驚いたむきプリ君は、体格に合わない小さなジャンプをすると、慌てたように周囲を見回した。その顔面に、トライブはロングブーツを履いた脚で飛び蹴りをかました。着地の際、とどめとばかりに同じ場所に本の角を食らわす。
「お前は一体……」
 仰向けに倒れたむきプリ君に、トライブは言う。
「通りすがりの不良学生さ。次があったら、覚えときなッ!」
 前方から、大人しそうな美少女と守護天使が走ってくる。
「いや、助かったよ。出られなくて困ってたんだ。でも……今、学校には入らない方が良いよ。ホレグスリが横行しているんだ」
 リュートは礼を言うと「ホレグスリ」の部分だけ小声にしつつ説明した。彼は、道々にも生徒から話を聞き、かなり正確に事態を把握していた。
「へえ、なるほど……」
「既にかなりひどいことになってる。正直、見れたもんじゃないよ」
 興味深そうに相槌を打っていたトライブは、にやりと笑った。
「人を呪わば穴二つ。復讐は身を滅ぼすぜ、ロリ校長」
「え?」
「そりゃあ、ちょっと子供の悪戯じゃ済まねぇぜ。悪さのツケは、キッチリと払わねぇとな。ロリ校長の恋に溺れる姿、俺が確りと激写しておいてやるぜ!」
 むしろ嬉々として、トライブは世界樹に飛び込んだ。
 ――保護者の連帯責任ってことで、アーデルハイトも巻き込むか。