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ホレグスリ狂奏曲

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ホレグスリ狂奏曲

リアクション

「エリザベート様が校長室に戻っているだって!? ホレグスリを飲んだところを運ばれた……チャンスだ!」
 エリザベートが校長室に戻っているという情報を得たエル・ウィンド(える・うぃんど)は、早速校長室に向かおうと走りだした。だが、その行く手を飛び出してきたケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)に阻まれる。
「ち、ちょっとまった! エルさん、妹達は泣いているよ! 他の妹たちも悲しんでるしやめようよ!」
 痛いところを突かれたというように、エルは足を止める。彼がエリザベートではない女性に本気の片思いをしていることを知っているケイラは、今回の行動を悲しく思っていた。エルの恋が成就することを願っているのに……。
 怒るのは苦手だけど、一生懸命気持ちを伝えよう。
 真剣な表情のケイラに、エルも攻撃を躊躇う。邪魔する奴はサンダーブラストで一掃するつもりだったのだが。
「他の妹からのコメントも来てるんだからね! 読むよ!」
 ケイラは、携帯に届いたメールを順番に読む。
「『やっぱりタダの妹よりお金持ちで権力持ってる妹がいいんだね…?』えと、こっちは……『彼女が一番って気持ち、信じてるからね』」
 たじたじっとなるエルに、ケイラは畳み掛ける。
「これでも校長先生と無理にキスしようとするの? 考え直してほしいな?」
「ボ、ボクがしないと他の誰かが……」
「誰もしないかもしれないよ? 唇争奪戦だかなんだか知らないけど、誰か1人が勝つとは限らないでしょ? あー……ていうかキスなのに勝つとか負けるとか、おかしいよ! エルさん、もうナンパはやめたんじゃなかったの!?」
 ケイラは星のメイスを取り出した。パワーブレスで攻撃力を上げる。思い切りぶん回すと、星型の鉄球が壁に当たって見事にクレーターを作る。
「げっ、キミ、それ死ぬ……っ!」
「許さないんだからーーーーーーー!」

 取り巻きの4人と呂布 奉先(りょふ・ほうせん)に校長室前の護衛を任せ、応接セットのソファに竜牙とモニカ、たまを抱いたエリザベートが座る。各人の前にティーカップを置くと、シャーロットも腰を落ち着けた。
 紅茶はまだ、蒸らし中だ。
「行きつけの紅茶専門店で手に入れた、ダージリンのセカンドフラッシュです」
「さっきのクッキー、持ってくればよかったですねぇ〜。あ、もちろん、薬が入ってない方ですけどぉ〜」
「こりない人ですね。でも、それこそ俺の校長です」
「あなたのじゃありませぇん〜」
 紅茶の空気と一緒に、皆の表情が和む。そこで、奉先に扉を開けてもらった霧雪 六花(きりゆき・りっか)が入ってきた。シャーロットの肩に座って一息つくと、話し出す。彼女は、アーデルハイトの動向を調べに行っていたのだ。
「アーデルハイト様はユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)が自室まで送っていったわ。その後もユウがドア前に張り付いているから手出しは無理ね」
「うぅ〜、悔しいですうぅ〜。一度は撮ったビデオも取られてしまいましたしぃ〜」
「あれ、校長せんせ、おぼえてるんですか?」
「ぼんやりとですけどぉ〜」
 蒸らし終えた紅茶を、シャーロットが順に注ぐ。
「エリザベート様あ!」
 エルの叫び声が聞こえて、シャーロットは手を止めた。だが、すぐにまた紅茶をカップに入れ始める。まあ、奉先が足止めしてくれるだろう。
「なんですうぅ?」
 エリザベートは、自分のカップに口をつけながら目を丸くした。カップの縁には、ホレグスリが塗られている。エルが入ってくる前に惚れさせれば、シャーロットの勝ちだ。
 しかし。
「エリザベート様、助けてください! かくまって!」
 エルはあっさりと校長室にやってきた。
(奉先!? 何を……)
 シャーロットが振り向くと、エルの後ろから凶器を持ったケイラが走り込んでくる。
「おいしいですぅ〜」
 顔を上げたエリザベートと、ケイラの目がばっちり合った。

「わわっ、校長先生! 待って待って! 自分は……」
「好きですうぅ〜、もう、めっちゃ好きですうぅ〜、らぶですうぅ〜」
 エリザベートはケイラに抱きついて、キスを迫った。必死に抵抗する彼の口に、電光石火で机に置いてあったペットボトルの蓋を開け、突っ込んだ。
「むぐっ……ごくん。あっ!」
「やったですうぅ〜」
「校長!」
 竜牙が、持っていた解毒剤をエリザベートの口に入れる。
「……ん〜? 私、どうしました〜?」
「……ケイラ、キミ! ボクにキスするなとか言っておいてその百合展開はなんだ! ボクはやるぞ!」
 エルが手持ちの薬を飲む。
「すんげーカオスだな……」
「入り込む余地ないわね、これは」
「……仕方ありませんね、今回はあきらめましょう」
 シャーロットと奉先、六花がソファでくつろぐ。
 ケイラは、竜牙に近付いた。
「離別するのは嫌だから、もうしないと思ってたけど……君だったら良いかな」
「えっ、それどういう……」
「毎日自分にご飯作ってください」
「ええええっ!? それ、逆じゃね!?」
 ……ケイラを女性と勘違いしたようだ。
「ご主人、ふるいですよ?」
「その前に突っ込むところが違うわ」
「エリザベート様、そのレオタード最高です!! 美しいです!」
「当然ですぅ〜〜って、うにゃあ!」
 ……うにゃあ?
 エルがエリザベートにキスを迫る。愛の力、パワーアップ!
「いい加減にしなさい!!!!!!!」
 ザカコが声を張り上げたのは、その時だった。
 全員がぴゃっ! と軽く跳ねる。
 エルはちょうど、エリザベートのおでこにキスしたところだった。

「いつもの悪ふざけならまだしも、流石に今回の事件はやりすぎです」
 向かって左側のソファにエルとシャーロット、奉先、六花の唇争奪戦組とケイラ、右側のソファに竜牙とたま、モニカ。ついでにソファの脇に2人ずつ取り巻き。
 で、正面にエリザベート。
 これだけの人数が、おとなしくザカコの説教を聞いていた。全員、解毒剤摂取済みである。
「確かにこれがきっかけで新たな出会いや、関係が進展する事もあるでしょうが、それは自分の力で何とかするべき点です」
 エリザベートの目をしっかりと見て、釘をさす。
「自分はホレグスリなんて作らなくても、校長は十分魅力があると思ってたんですけどね……勘違いでしたか」
「……〜〜〜〜」
 エリザベートは、嬉しいような悔しいような微妙な表情をした。
「貴方達もそうです。そんなに好きならホレグスリになんて頼らず、正面から堂々と好きだと言ったらどうですか」
「好きです!」
 エルがエリザベートに告白する。
「わかりましたぁ〜、ありがとうですぅ〜」
 ザカコは呆れた顔で息を吐く。事態は、大体収拾したかと思ったが――
 まだ、暗躍している人物がいた。クエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)だ。彼女は、ザカコの後ろに立ちながら、サイアスにぽちぽちとメールしていた。
『効果を確かめず、危険度を訴えるのは片手落ちです。身をもって体験させてあげて下さいな』
 こっそりと薬を渡すと、サイアスは微笑してザカコに呼びかけた。
「ザカコ」
「?」
 ホレグスリを口に含み、抱きついてキスをした。
「…………!」
 全員の口がぽかんと開いた。
 口移しで薬を飲ますと、サイアスは残りの分を吐き出した。自分が飲むつもりは毛頭ない。
「サイアス……」
 呆然とするザカコを、クエスティーナはわくわくしながら見つめていた。ビデオもきっちりと準備済みだ。だが、ザカコは一向に惚れ状態にならない。身体をぶるぶると震わせている。
 ――がまんしていた。
 サイアスが好きだ……好きです! でもこれはホレグスリの効果……ニセモノです。まやかしの感情……キスしたい……いや、駄目です! ここでキスしたら自分は……。自分に、サイアスへの恋愛感情はありません! ここは我慢です……がまん…………
「っ…………!」
 ザカコは、両手にカタールを構えた。
 見守る一同に、血走った目を向ける。
「自分の心を奪いたいなら、カタールと語ってもらいますよ」
 全員が立ち上がった。
「彼を守れ!」
「ワタシには無理だわ」
「おもしれーじゃん! 出番が無くて退屈してたところだ!」
「解毒剤はないんですかぁ〜?」
「もう無いです! 一度、下に降りないと……」
「あ、そろそろ三国志の決着つける時間ですぅ〜」
「エリザベートは降りてください。私たちで押さえます」
「馬鹿ばっかりね……」
「ひなん、ひなんですー!」
「これはこれで面白いわ! ナイスザカコ!」