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未踏の遺跡探索記

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未踏の遺跡探索記
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第2章 神殿に息づく者たち 3

「遺跡といえばモンスター!」
「遺跡といえば特訓の場所!」
 若者と少女が、まるでタイミングを合わせたかのよう、息ピッタリに叫んだ。
 乳白金のツインテールをピコピコと小動物のように揺らす少女と、ものぐさで適当そうな藍色の髪の若者。彼らの一直線すぎる主張に、一緒にいるパートナーその他はわずかに呆れ顔だった。
「何で男ってのは遺跡とか冒険に弱いのかねぇ……」
「分かってないなぁ、未実。それは、そこにロマンと希望と熱血とお涙ちょうだいの物語があるからだ!」
 芥 未実(あくた・みみ)の呟きに、藍色の髪――久途 侘助(くず・わびすけ)が自信満々に答えた。ロマンはまあ分かるとして、希望と熱血とお涙ちょうだいはドラマの中の話では……? そう思わなくもなかったが、未実とて分からなくもないらしく、
「ま、あたしもそういうのは嫌いじゃないけどね」
 未実は不敵に微笑を浮かべた。そんな彼女たちに同調するように、雪のように白い髪をした幼き少女が眠たげながらも口を開いた。
「遺跡ってなんだかワクワクするよね」
「お、ミネもロマンを感じる?」
 パートナーの霊装 シンベルミネ(れいそう・しんべるみね)の言葉を受けて、ますますツインテール――四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)は興奮が沸き上がってきた。
 そんな彼女たちの期待に応えるように、事態は案外上手く事を運ぶらしい。
「お、予想通りというかなんというか……見事にうじゃうじゃいるなぁ」
 侘助の言うように、通路の先から姿を現したのは、ゾンビとスケルトンの混合アンデット集団だった。その不気味な風貌にはわずかに顔がしかめられるものの、もともと噂で聞いていたことがあるのだろう。侘助たちは、冷静に敵と相対した。
「あいつらが……まあいい、邪魔するなら容赦はしないぜ」
 敵の姿を確認した葉月 ショウ(はづき・しょう)は、前衛に飛びだした。普段は気分屋である彼だが、こと戦いとなれば気分は乗ってくるようだ。両手で握られるレプリカ・ビックディッパー――星剣のレプリカである大剣が、ずしりとショウの身体に乗った。
 その間に、彼のパートナーであるリタ・アルジェント(りた・あるじぇんと)が……なぜか簡易更衣室を引っ張り出す。
「おい、何やってんだよリタ……」
「ふふふ……なりきり師の力を見せてやるのですぅ。ということで、ちょっと着替えてくるですぅ。大丈夫、変身中、敵は襲ってこないのがお約束なのですぅ」
 呆れたショウにのんびりとリタは返答して、着替えに入った。無論――そんなお約束はバッタ仮面の「キー!」とかいう敵か、5人組の色違い戦士と戦う怪人でしかあり得ないわけで。
「ちぃ、……くるぞっ!」
 敵が襲いかかって来ると同時に、ショウが声を張った。
「ほっほっほ……これも良い修行になりそうじゃのう」
 スケルトンたちに立ち向かったのは、一見普通の老人であった。孫に手をひっぱられながら公園を散歩していそうな老人に、スケルトンは容赦なく剣を振りおろす。
「じ、じいさん、あぶな……」
 ショウは慌てて声をかけた。が――次の瞬間、老人の斧は、スケルトンの攻撃を防いでいた。
「……ふ……まだまだ若いもんには負けんよ」
 どちらかと言えばスケルトンは老人よりも歳がいってるのだが……いずれにしてもご老体とは思えぬ力である。長柄の先に三日月状の斧刃――クレセントアックスを手に、グラン・アインシュベルト(ぐらん・あいんしゅべると)は敵の進路を防いだ。その隙に、オウガ・ゴルディアス(おうが・ごるでぃあす)がグランの隙間を縫って鬼眼を起こす。
「拙者もがんばるでござる!」
 オウガの眼力に、アンデットたちの動きは、獣を前にしたウサギのようにとどまった。それはつまり……好機。
「いくわよ、ミネ!」
「う……うん!」
 唯乃の声を合図に、シンベルミネの身体がまばゆい光へと変化した。光は鎧となり、唯乃の身体に装着されてゆく。篭手、肩当、そして片腕のみにかかるマントが、具現化した。
 霊装シンベルミネの真たる姿――魔鎧である。
「はああぁぁっ!」
 気合の声を発して、唯乃の構える弓から炎の矢が放たれた。炎の魔力に満ちた火天魔弓ガーンデーヴァの矢が、サイコキネシスで軌道修正されながら意思あるもののようにゾンビたちを次々と貫いてゆく。
 矢にまとわれた炎は彼らの身体を燃やしてゆく。
 次いで――ミネの力によって唯乃の体から放たれるのは、炎の嵐であった。
「いっけええ、ファイアストーム!」
 灼熱の炎は、唯乃の体を一周して蛇のように回ると、ゾンビを焼き尽くさんばかりになだれ込んだ。
「ありがたい援護だな……もらったっ!」
 炎で弱体化するゾンビを、ショウは的確に斬り裂いていった。大剣の重みを生かし、遠心力を十分にため込んだ回転斬りが、ゾンビの身体を真横に両断する。
「吾輩たちも負けていられぬな」
「ふふ……なら、炎でいきますですぅ」
 それに感化されたのは、後方で機会をうかがっていたアーガス・シルバ(あーがす・しるば)といつの間にか魔法使い風の衣装にシェンジしていたリタだった。アーガスの刻みこむ魔法にリタの火術が加わり、それは巨大な炎となりて世界へと具現化する。
「ゆけ……!」
 炎の嵐が、ゾンビたちを包みこんだ。火の海と思われるほどの力の奔流が、不死者たちを捕らえて離さない。もはや敵に逃げる術はなかった。
 そしてスケルトンはと言えば、
「おらよ、っと!」
 唯乃に負けていられないというよう、侘助の刀がスケルトンをなぎ払った。二刀による連続した剣戟が、敵を斬りつける。しかし……不幸なことに敵は肉体を持たぬ不死の生命。骨剣士に物理攻撃はほとんど効いていないようだ。
 叩き伏せても、しぶとく起き上がって襲いかかって来る。その手が、未実の腕にかかろうとしていた。
「未実に汚ねぇ手で触ろうとしてんじゃねぇよ!」
 刀を使う慈悲もなく、光の闘気を纏った拳がスケルトンをぶんなぐる。吹き飛ばされてわずかによろめくものの、やはり敵は何事もなかったかのように再起した。
「うーん、やっぱり効きにくいな」
「ゾンビもスケルトンも、物理攻撃は効かないみたいだね」
 侘助は一歩下がって、未実とともに体勢を整えた。物理攻撃が効かない……では、どうするか?
 二人は顔を見合わせた。お互いに言葉なくとも、考えられる手段は限られている。
「……それじゃあ、これでもくらいな!」
 まず飛び出たのは侘助だった。
 しかし、今度は刀は使わない。代わりに、その手のひらから冷たい光を放つ。――いや、光ではなかった。それは……氷術であった。
 氷の冷気が、骨剣士たちを包みこんで氷漬けにする。敵の足止めには成功した。となれば、あとはアンデットたちをいかに消滅させるかだ。そしてそれは……
「安らかにお眠り……」
 未実は、氷の中に閉じ込められたスケルトンたちへ光を湛えた。まばゆい光が、スケルトンたちの魔の力を浄化してゆく。あたかも、穏やかな光がさまよえる死者を誘いにくるかのようであった。。聖なる力にまばゆく包まれたスケルトンたちは、まるで眠るように消えていった。
「よっしゃ、うまくいったな!」
「うまくいったねぇ」
 二人はほほ笑みあって喜びをかみしめ、仲間たちを振りかえった。敵はすでにおらず、各々が自慢げに胸を張ったり腰をおろしたりしている。……スケルトンと戦うとき、老人は休憩していたのだろうか?
「ふふん、やっぱりミネと私のコンビネーションは最高ね!」
「へへへ……ボク、頑張れたかな」
「……胸は最高じゃなさそうだけど……
「ふん!」
「――げふっ」
 平たい胸を張って自慢げにしていた唯乃に、余計なひと言を言った侘助は強烈なアッパーを腹に受けた。未実が呆れた顔でため息をついている。
「侘助……しょうもないねぇ、あんた」
「ほ、ほんとのことなのにぃ……」
 悶絶しながら呻く侘助。ショウとリタは、そんな彼に笑みをこぼす。
「言っていいことといけないことがあるってことだな」
「リタは十分にあるから問題ないのですぅ」
「…………ギロリ」
 リタの無神経発言に、唯乃は般若のような目で睨みつけてきた。はは、余計なこと言いやがってリタめ、というショウの顔が引きつっている。と、そんな彼らに、ぼさぼさの黒髪をした巨漢がぬっと近寄って来た。思わず、そのでかさにショウが驚きの声をあげる。
「……うわっ」
「みな、傷ついているようだな。……我に任せてもらおう」
 巨漢――伽耶院 大山(がやいん・たいざん)は、重厚感のある低い声で唸るように言うと、静かに癒しの力を唱えた。バニッシュの聖なる光と似ているが、それよりもなお暖かな光が、撫でるようにショウたちの身体を包みこんだ。すると、次の瞬間には、傷がもとの皮膚へと再生されてゆく。
「おお、これなら……」
「これなら……?」
 飛びあがった侘助に、皆が疑問符の視線を向けた。
「これなら、また思う存分戦える!」
「ちょ、ちょっと侘助……!」
 未実の静止の声も聞こえていないのか、侘助は通路の奥へと急いで駆けていった。同様に、まるで炎を背後に燃やしているかのよう、唯乃が拳を握りしめる。
「ううーん、私も燃えてきた! さ、いこう、ミネ!」
「へ……? あ、う、うん!」
 ミネを連れて、唯乃まで侘助のあとを追ってゆく。残された未実たちは、お互いに顔を見合わせて呆れたため息をついた。
「ま、付き合うか」
「……嫌いじゃあないしねぇ」
 ショウがほほ笑み、未実は苦笑する。そして、グラン老人は巨大な戦斧を片手に腰を上げた。
「うむ、では、わしらもひさしぶりに大暴れしてゆくかの」
 何気に、この老人が一番危ないかもしれない。ショウは振り返って、そんな予感を覚えなくもなかった。