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★プロローグ★

 ここはニルヴァーナの中継基地。人が大勢行き交い賑わっているのだが、誰の目にも明らかなのは中継基地が破損しているという事実だった。
 大勢行きかう人々の中で、肩を震わせている人物がいた。
「どうして……」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。悔しいのか悲しいのか。声だけでは判断できない。
「作ったばかりで何故壊される!」
 皆が必死に作り上げて守ろうとした。それを知っているだけにぶつけようのない何かが彼女の中にあった。
「まあそう吼えるな」
「だって……うん。そうね。町も出来るんだから電気は必須……、頑張らないと」
「外壁強度等を早期に見直す契機となったな」
 夏侯 淵(かこう・えん)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の声になんとかいつもの自分を取り戻したルカルカは、顔をあげて発電施設の復旧に取り掛かった。
 ダリルの言うとおり、復旧だけでなく壁の強度も考え直した方がいいだろう。
「技士と重機の手配してきたぞ」
 ダリルの指示で現場を離れていたカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が戻って来る。カルキノスは改めて基地を見まわし、「また手酷くやられやがったな」とため息を吐きだした。
「ため息ついている暇はないわよ」
「さっきまで茫然としてたのは誰だよ」
「何か言った?」
「暑ぃから、後でビールと焼肉を頼むぜって言ったんだよ」
 どこかふざけたようなカルキノスに怒りつつ、ルカルカはパートナーたちに感謝していた。
「通信塔で使用中の発電機を通信室横に非常用発電室として格納設置しなおし、床下から配線を通信室に繋ごう。非常時はスイッチ一つで切替可能だ。
 これでもうニルヴァーナの通信は途切れる事はほぼ無いだろう」
「うん。じゃあ通信塔は任せるわ」
「俺とカルキノスは瓦礫の撤去や、破損通路の壁面切出しと再掘削、基地外壁の補強を行おう」
「んじゃ、まずは瓦礫の撤去だな」
「再利用できる瓦礫があればそれも利用するわ」
「俺の方が早く終わるだろうから、大型発電装置の調整は俺がやる」
 とんとんとんと話が進む。4人はこうして何度も危機を乗り越えてきた。1人では無理でも4人なら。
「発電施設は基地の心臓、探索の心臓も同じ。ルカは探索隊全体の活動を支えたい。それに戦うだけじゃなく組織としてインフラを整備し国策を推進するのは国軍の責務だもの」
 毅然と顔を上げたルカルカを見て、3人は表に見せずとも安堵した。いつもの彼女だ、と。
「ん……そう言えばさっき何か言ってなかったか? 町がどうとか」
 ふと淵が疑問を口にする。
「あら知らなかったの? なんでもハーリーって人が地下にある巨大な空間を発見して、そこに町を作ろうとしてるみたいよ」
「地下に広がる町、か。なんかすげぇな」
「だからこっちもがんばらないとね」
「ほお。どんな町になるのか、楽しみにしておこう」



 基地で噂されているハーリー・マハーリーはというと、書類に埋もれていた。ほとんどが出店希望書だ。ハーリーもただの慈善事業で始めた街づくりではない。採算がとれそうにもない店は却下しなければならない。
 だから真剣に書類へ目を通していた彼の元へ、部下の1人がやって来る。
「ハーリー様、出店予定のない地が埋まっています」
「無許可か……分かった。後で確認する」
 また忙しくなるなと思いつつ、ハーリーは再び書類に目を落とした。

 無許可で建物を建てているのは、一体誰なのだろうか。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)
 この地下街に、我らオリュンポスのニルヴァーナ征服に向けての拠点を作るとしよう!
 しかし秘密の拠点にする以上、目立たぬように偽装する必要があるな……。
 よし、表向きは喫茶店として営業するとしよう! 入口は隠さねば」

 無許可の店、秘密喫茶オリュンポス。さて、どうなることやら。