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【祓魔師】人であり、人でなき者に取り込まれた灼熱の赤き炎

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【祓魔師】人であり、人でなき者に取り込まれた灼熱の赤き炎

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第1章 シャンバラ大荒野・火山麓

 エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)たちは授業ばかりでなく、そろそろ魔法学校に届いた依頼を担当してもらっても良い頃だろうと、生徒たちに情報を纏めたメールを送信した。
 今回の依頼内容は、とある者たちが関与しているらしい。
 それはクリスタロスの町で実戦中、祓魔術を学ぶ生徒が得た情報の者の特徴とそっくりだった。
 彼らはシャンバラ大荒野へ向かい、山を噴火させようとしているようだ。
 その目的は不明だが、今は優先すべき事項ではない。
 噴火してしまえば人々の健康や、作物の被害が出てしまうはず。
 特に食いしん坊の校長は、空腹なんて我慢できるはずもなく、生徒たちにこの案件を担当させることにした。



 出発前に質問するため、今回も日堂 真宵(にちどう・まよい)はパートナーと共に、ややスロースタート。
「あ、あのっ、えっと……」
 ベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)が勝手に纏めたノートの中身を、ラスコット・アリベルト(らすこっと・ありべると)に見られたことに対して未だに動揺気味だ。
「何か聞きたいことでも…?」
「(うぅ、落ち着けーっ、わたくし!)」
 “人”という字を手の平に書きまくって飲み込んで緊張を和らげる。
「身代わりの札で、黒フードの者による魔性の取り込みって妨害可能なんですか?」
「完全に憑依させる前なら、白の衝撃で可能だね」
「ふむふむ…、その後じゃ無理ってことなんですね。ありがとうございました!」
「真宵…?今日はノートを見せないんですか」
「―…え、……んー。今日はまだいいかな」
「おや、2冊あるようですけど」
 開きっぱなしの荷物の中を見たテスタメントが目敏く発見した。
 ページを捲るとそこには、“蛙好きでも蛙になって蛙の嫁は流石にゴメン、まだ年齢不詳中年の方がマシ”と小さな文字で書かれていた。
 その文字の傍に、蛙と眼鏡の絵付きのイラストまで描かれていたのだった。
 真宵はクリスタロスから帰った後、疲れてうっかり提出用でもある勉強ノートのほうを使ってしまった。
「どうつっこめばよいのやら…」
「はっ!?勝手に見てんじゃないわよ!」
 問題のノートをじっと見つめているテスタメントに気づいた真宵は、彼女の手から回収した。
「ところで真宵。あの本、持ってきたんですか?」
「あんな重いもの、放置に決まってるわ」
 今回も自宅のそこら辺に置いてきたらしい。
 持って来なかったとを知ったら、いつものテスタメントなら怒るのだが…。
 なぜだか安堵したように小さく息をついた。
 2人の教師は特別訓練教室へ向かい、扉の前に行くとシシル・ファルメル(ししる・ふぁるめる)の姿があった。
「ちゃんと免許を持ってきたんですようっ」
 シシルはビシッと免許を見せる。
 五月葉 終夏(さつきば・おりが)やスーたちと、一緒にご飯を食べにいった時から、“祓魔師って実際にどんなことするのかな?”と興味があったのだ。
「今日は皆さんの初任務なんですぅ〜。どうぞ、最後まで見ていってくださいねぇ♪」
「あれ、僕だけなんですね?」
 見学者がシシルしかおらず貸切状態だった。
「前すぎても見づらいですから、真ん中の席にするんですよっ」
 ど真ん中の席を選んでノートを広げた。



 山登り前に質問しておこうと、草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)はエリザベートの携帯に電話をかけた。
「そういえば先生、一つ質問なのじゃが。フレアソウルの使用時と言うのは、普通に炎でダメージを受けるんだったかのぅ?受けないのならエスケープに使えるかと思ったのじゃが…、どうであろうか?」
「フレアソウルを使っている術者は、任意で自分に触れた対象に炎ダメージを与えるんですぅ。ですからぁ、仲間とかを意識的に対象からはずしておけば〜、そこからエスケープするためのものに使えますよぉ。例えば、甚五郎さんにはダメージを与えずに、接近してきた相手が触れたらダメージを与える…としておくと、彼を抱えながらそこから離れることとかできるんですぅ!」
「ほうほう、なるほどのぅ。任意の意識で決めるというのは、そういうことなのじゃな。聞けてよかったのじゃ、ありがとう」
 草薙羽純はエリザベートに礼を言い通話を切った。
「む…、そなたも質問するのかのぅ?」
「あー…違うの。パパーイからメールが来ててね」
 セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)はかぶりを振り、アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)からのメールに視線を落とす。

 -部屋が片付いていませんよ…-

 ▲添付ファイル cecil01.jpg

『…シシィ、部屋をかたづけずに依頼に向かうとは何事ですか?
  依頼が済んだら連絡をしましょう、必ずですよ Alt』

「ぎゃああ!パパーイったら、娘の部屋に入らないでよバカぁ!」
 地面をガスガス踏み付け、顔を真っ赤にして怒る。
 その添付ファイルを覗き込んだ緒方 太壱(おがた・たいち)に“汚女子の部屋だな”と呟く。
「なっ!?勝手に見ないでよ、バカァアッ」
「ツェツェの部屋にどんな状態異常が起こっているのか、気になってな」
 セシリアのビンタをかわし、からかうように言う。
「バカ息子、お前は人のこと言えるのか?お前の部屋も小娘と同じようなものだろ」
「…何、タイチん所も同じなの?」
「わぁああああっ、一々言うなよお袋っ」
「ふぅ〜ん…帰ったら掃除しとこーっと。そんで、2度と汚女子なんて言わせないんだから。それで、まだタイチの部屋が汚かったら、ラリアット1回ね」
「はぁああ?何でそうなるんだ!?」
「ん…、おごり1回と…どっちか好きなほうを選ばせてあげるわ。もちろん、両方でもいいけど?」
「お、お前……っ、マジ酷いな」
 どちらにするか考えるわけもなく選ばなかった。
 ―……が、部屋を片付けなかったらセシリアのことだ、どちらも実行する気だろう。
「この度も皆様方とご一緒出来る事を大変嬉しく思います。足手纏いにならぬよう私、精一杯頑張りますので!それに致しましても…えぇと、びふてきさんですか?」
「びふてき?」
 美味しそうな名前を口にしたフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)に、セシリアはそんな名前だっただろうか…と首を傾げる。
「フレンディス、もう腹が減ったのか…?」
「えっ、いえ…今回の魔性さんの名前でしたよね」
 朝ごはんを食べてこなかったのだろうかと思い、不思議そうな顔をするグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)に、フレンディスが確認する。
「違うぞ…ビフロンスだ。食事は依頼を終わらせてからだな」
「あ、…わ、私……言い間違えてしまったようです」
 もう腹でも減ったのかと思われた彼女は恥ずかしくなり、カァッと顔が真っ赤になってしまう。
「無駄口をたたいている暇はない、さっさとゆくぞ。でなければ…っ」
 山の麓から動こうとしない者たちを睨みつけ、林田 樹(はやしだ・いつき)は拳をギリリ…ッと握る。
 彼女の鉄拳をくらってしまっては、黒フードの者たちに遭遇する前に怪我をしてしまう。
 フレンディスたちは慌てて山を登り始めたのだった。



「グラルダ。今回の相手のこと、把握していますか?」
 火山を登る前に再確認しておくべきかと考え、シィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)が言う。
「メールにあったわよね。…祓魔術と正反対の力?」
 エリザベートから送られたメールを見ようと開き、グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)は首を傾げ眉間に皺を寄せた。
「黒フードの集団、彼らは魔性を取り込む術を持つ者たち…」
「魔性に対して影響を及ぼす、という点においては同質の力と言えなくはないかも知れません」
「単純に考えれば影響を及ぼしている魔性を祓って終わり」
「ですが…」
「そう、簡単な話ではないわね」
 授業の実戦を通して、全ての魔性が悪影響を及ぼす訳でなく、説得に応じてくれた事を学んだ。
 祓いことは滅することでなく、器から出て行ってもらうためのこと。
 強い痛みや傷を残したり、器にれたモノを傷つけることのない術。
 それらの行使には相応の精神力と経験が必要となる。
 異なることと言えば…。
 ヒトであることを捨て去り、命の時を削って行使し、他者を傷つけるための術であることだ。
「シィシャ、魔性に影響を与えるからといって、黒魔術と同質…ではないわ。アタシたちは守るため、救うための精神。相手はまったく逆の魔力の流れを扱うのよ」
「救う者と奪う者。なるほど、そう考えれば異なりますか…、校長先生も、外法の術だとメールでおっしゃっていましたね」
 こくりと頷いて必要とする力の循環の流れは、まるで別なのだと理解した。
「―…ねぇ、それはそうとシィシャ。スペルブックはどうしたの?」
「あなたは中位の祓魔師、他にも同様の方々がいます。ならば、私はサポートに回ったよいかと」
 グラルダは章を使う者、ゆえにもう私の力を必要としなくなった。
 そう判断したのだ。
「ならば、私が成すべきは一つ。現場での模索になるのが悔やまれますが、不満を言っても仕方ありません」
「ずいぶんと、大変な道を選んだわね」
 シィシャが首から下げているエレメンタルケイジがグラルダの瞳に映る。
「私の道です。無駄口を叩く暇があったら、実際の場で使ったほうが経験になるでしょう?」
「言うようになったじゃないの」
 自分の立場を“道具”として認識していたシィシャは、自ら自分の考えで動くようになったように見えた。
「スーちゃん。これから火山に行くけれど、火とかって大丈夫?」
 終夏は召喚した花の魔性、スーを背に乗せる。
「もえちゃっても、おりりんのせいしんりょくでなおるから、だいじょーぶだよ」
「それって…平気じゃないってことだよね。…そうだ!香水、1本作ってもらえるかな」
「わかったー!」
 彼女が手にしている空っぽの小瓶の口に、白い花のステッキでトントンッと叩く。
 小さな花びらがパラパラと落ちていき、底に触れた瞬間丸い小さな粒となった。
「グラルダさん、山登りの準備を終わったかな?」
「ええ、問題ないわ」
「私たちは頂上のほうへいってみようか。被害を出したいなら、火口辺りにもいそうだからね」
 スーを背に乗せてグラルダたちと共に火山を登る。



「現地についてからなんだが、忘れていることないよな?」
「うむ。魔道具や免許もちゃんと持っている」
 山の麓で足を止めて確認する樹月 刀真(きづき・とうま)に、玉藻 前(たまもの・まえ)が頷く。
「私たちの免許今だにエクソシスト・見習い免許なんだよね…。ちゃんとした免許欲しいし、新しい章も欲しい!刀真、何とかして!」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は膨れっ面をし、刀真の腕を掴んで揺らして強請る。
「免許と…新しい章?えっと…うん、じゃあ機会を作って見つけていくから」
「分かった、約束したんだから忘れないでよ」
「(しかし、熱心だな。最初は授業を受けるだけだった気がするんだが、いつの間にか祓魔師として活動をしているし)」
 その言葉に嬉しそうにはしゃぎながら笑顔で言う月夜だったが、遊びでなく真剣に学んでいるということが一目で分かる。
 玉藻の方もなんだかんだで月夜に付き合ってくれているし、刀真の予想以上に続いているようだ。
 もうそろそろ新しい道具を探しに行っても良いか…、と心の中で呟いた。
「刀真、皆行っちゃうよ!」
「ん?あぁ、そうだな…」
 自分たちだけで発見出来る相手ではない。
 アークソウルを使える者に同行してもらおうと探す。
「レイカ、黒フードの者を捕まえたいんだが、協力してもらえないか?」
「ええ、よいですよ。彼らの目的は不明ですが…。まずは制して止めなければならないですから」
 小さく笑みを向けたレイカは巨大な山へ視線を向けると、すぐに笑顔を消した。
「そっちは4人か?」
「はい…。たった今、刀真さんに声をかけてもらったところです」
「全員乗せるのは難しいか」
「お気づかいありがとうございます。こちらとしては、クローリスを使える方がいるだけでも心強いですから」
 天城 一輝(あまぎ・いっき)の小型飛空艇アルバトロスにいるクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)をちらりと見て言う。
「―…っ、地鳴りが…。急ぎましょう、皆さん」
 ゴゴゴォォ……と不気味な音が聞こえ、一刻も早く例の者たちを止めねばとレイカ・スオウ(れいか・すおう)たちは山を登る